3−25 拒否する村
穏やかな気候、季節はわからない。肌寒い様な、暖かい様なそんな気候。ほんの少し先で子供の笑う声が聞こえる。
平和
心地よさがそこにあった。
「この場所は私が村長を務める村です。ほとんどの人は孤児や最寄りも無い者、病気になり住む場所を追はれた者で血の繋がりはありません」
長い銀髪の三つ編みには毛先を縛る藍色のリボンと季節外れのムスカリの花が一緒に揺れている。
その様子を見ながらアルメは自身を魔女と紹介した「フローレ」の後ろを案内される形で歩いた。
敵意は無い。そう判断したのはオネットだ。魔女との戦闘の後で警戒はしたが、オネットは以前この場所を訪れてフローレと会話をしている。
そうリベルテに伝えるとリベルテも様子を見ると判断した。
「だからこの村は子供が多いのですね。皆さんは近隣の村々からこの場所に?」
「いいえ、それについては複雑なのです。かつてこの場所で巣立った子供達の友人知人……その子供がほとんどです」
どうやら何の繋がりも無いわけでは無いようだ悲しい話だがこうやって宛があるだけでも良かったのだろう。
「私はこの場所を訪れた人を拒みません。どんな目的があろうとも」
「拒まないんじゃなくて、拒む必要の無い人しか入れていないんじゃ無いの?随分と立派な結界を張っている様だし」
リベルテは不信感を隠していない声色でそうとうと。フローレは動じる事なく話す。
「そう言われてしまえばそうですね。私にも恐怖はあります。見ず知らずの魔術師や冒険者といった方々を無暗に招き入れて。子供達や身を寄せるか方々に身の危険が訪れる事は避けたいのです」
「その割には僕達を簡単に入れた様に思うけど。彼女の誘導があったにせよ…ね」
魔女の内を探ろうとしているのか、やたらと食ってかかるリベルテの脇に、アルメは何処からか拾ったのか枝を突き刺した。
「一見さんお断りなんだよ。もっと聴きたい事あるはずだろ?」
リベルテは眉間に皺を寄せアルメから一歩離れると気を取り直した。
「ここの事は良くわかったよ。意図的に僕達の事を招き入れてくれことには感謝する」
リベルテが本題に入ろうとするとフローレは立ち止まった。何かとアルメがフローレの方を見ると。彼女の前方に平家の建物が柵は無く。平家の周辺には。あの絵と同じ、季節外れの花々が咲き乱れていた。
「本当にあったんだ……」
紫陽花、菜の花、水簾、その神秘的な光景に思わずアルメが呟くと。フローレは笑みを深める。
「どうぞ中へ、長い旅路でお疲れでしょう」
そう言い案内された家の中は何処か既視感あがる懐かしい香りがした。
木製のダイニングテーブルに椅子。質素な家具たちには本人の趣味であろう可愛らしいパッチワークのテーブルクロスや、クッションがなど馴染み深い風景があった。
特に壁には、鮮やかな藍色の花畑をイメージした大きなタペストリーが飾られてをりアルメは目を惹かれた。
「あまり長いする気は無い……聞くけど、リギー・スリスを知ってる」
招かれるまま家に入ったアルメ達の後、リベルテは家の出入り口で立ち止まり、ドアを開けたままそう尋ねた。
「失礼だぞ」
警戒しているリベルテにアルメがそう言うと。リベルテから避難の目を向けられ。その目はもっと警戒しろと言っている様だった。
「フローレさん私達は、魔術師総会の依頼でこの場所に訪れるました。四年前に消息不明となった魔術師リギー・スリス。この方の行方いを探しています。何か心辺りはありませんか?」
次いで自分達の身元を詳しく話したオネットにリベルテは眉間に皺を寄せた。
(警戒しすぎだろう……)
過去にオネットはこの場所を訪れ魔女と相対し、無傷で帰って来た。それだけでアルメはフローレが無害であるとわかったのだがリベルテはまだ信用できていないらしい。
「スリスさんですね。はいこの場所には良く訪れてくださいました。彼は慈愛あるお人柄で、子供達の病や怪我の治療や様々な学術書などの寄付をしてくださいました」
言葉のニュアンス的にスリス氏はいないであろうと何と無くアルメは読み取れた。オネットやリベルテもそれを感じ、少し落胆した。
「ですが、スリスさんご本人は残念ながらこちらにはおりません。最後にお会いしたのは三年前になります」
「三年……」
つまり総会本部が行方を確認できなくなった一年はこの場所訪れていた様だ。
「その時の様子をお聞かせ願いませんか?」
オネットがそう尋ねると。フローレは頷く。
「はい、構いません」
すると突然カチャカチャと音が聞こえ、見るとキッチンスペースでティーカップとポットがフワリと浮き上がりティートロリーに並べられていた。
「お茶の準備ができました。どうぞお掛け下さい」
「おぉぉ」
今までに無い魔術の動きにアルメは少し興奮しながら。フローレの言葉に有り難く座らせてもらう。
隣にいたオネットもローブを脱ぎ着席使用とすると。手に持っていたローブがふわりと離れて出入り口にあるポールハンガーにかけられた。
「素晴らしい生活魔術ですね。この家全体にかかっている」
フローレは優しげな面差しをオネットに向ける。
「十一年前振りですね。オネット・ラシラス様」
「覚えてくださっていたんですね。一度しかお会い出来なかったのに」
「王都からは遠いですし、シンシア様もお忙しい身の上でしたでしょう。そんな中、親子揃ってこの場所に訪れてくださったんです。私にとっても、とても大切な思い出です」
シンシアとはオネットの母の名前だろう。十一年振りの再会に心を和ませていると。ふわりと甘い香りが漂いフワフワと机の上にクッキーの乗った白い大皿がコトリと置かれた。
「どうぞ召し上がり下さい」
フローレはそう言いティーポットから紅茶を注ぐ。そうした穏やかな時間が流れようとした部屋にコツコツと硬いブーツの音が響いた。
「ねぇ、スリス氏は学術書の寄付をこの場所にしたんだよね、その中に魔術書はあった?」
どうやら会話の途中で気になる部分があったリベルテは少し高圧的だが。警戒を解いたのか家の中に入り。お茶を注いでいるフローレにそう尋ねた。
「はい。魔術書は特にたくさん寄付してくださいます」
「何か手がかりがあるかもしれないから確認したいんだけど」
「えぇ、ご案内しますよ」
「場所を教えてくれたら良い」
つっけんどんな態度にフローレは困った表情を浮かべたが、緩やかに飛んで来た正方形のメモ用紙と鉛筆を使い地図を記入した。
「狭い村ですが一応、どうぞ」
手渡されたそれをリベルテは受け取ると、踵を返し家を出た。
「すいません、態度悪くって」
一拍置いてアルメがそう言うとフローレは困った笑みを浮かべたまま。紅茶をアルメとオネット。それぞれの前に置いた。
「どうぞ、遠慮なさらず」
「いただきます」
お言葉に甘え、アルメはクッキーに手をつける。中央の赤いジャムが宝石の様に綺麗で、サクサクの生地にシットリとした口当たりがたまらなく美味しい。
「美味しい、すごく美味しい!」
「この紅茶。以前もいただいたものですね」
甘いクッキー。ふわりと林檎の香りが広がる懐かしい紅茶。
それぞれが旅の疲れを癒やしているとふとアルメは気づいた、クッキーの減りが遅い事に。
オネットも、もちろん食べている。向かい側の席に座るフローレはこちら少し照れた様な笑みを向け。紅茶を飲みながら。オネットと昔の話をしている。
リベルテは居ない。
「あっ……」
思わず出たそのアルメの声にオネット達は顔を向けた。
「あいつ。何処行った……」
何か足りないと気づいてアルメはキョロキョロと部屋の中を見渡す。
オネットが森を先導している時には居たのだ。しかし今は居ない。そういえばこの村に入った時居たかと、記憶を思い返す。
「フローレさん。白髪で赤い目の男、私達がここに入った時一緒にいませんでしたか?」
「あっ……」
アルメがそうフローレに尋ねると隣にいたオネットは思わず手で口元を覆った。
フローレさんは一瞬、尋ねられた事を理解しようと目をぱちくりさせ。何かに思い当たる事があったのか。少し申し訳無さそうに口元に手をやり言った。
「……すみません。奇妙な魔力でしたので弾いてしまいました……」
ここまで誰も気付かないなんて、流石に影が薄すぎである。あの無口さの厄介さが多分にある事をアルメは知った。




