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くいかえし  作者: Kot
ムレスズメの様に
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3−24 転移乱用


魔力回復ポーションはその名の通り魔術を使い、消費した魔力を回復させる飲み物だ。


しかしその味は美味しい物では無い。魔力を多分に含んだ様々な薬草を調合して作られたそれは、その薬草が潰された味がする。青臭く苦い。そうマズいのだ。それにより飲む事を嫌う者は多い。


そんな人の飲み物ではない物を久々に飲んだリベルテは、顔を歪ませて空になった瓶をオネットに手渡す。


「この味……誰も改良しようと思わないの?」


「柑橘類を入れて試しに飲んで見ましたが。あまり効果はありませんでした。濃縮された薬草のエキスですから。どうしても味は誤魔化せませんね」


それもそうかとリベルテは思った自身も幼い頃。改良を試みて色々混ぜた記憶がるが。

結局この状態が最善の状態なのだと結論づけ。以降、飲ま無い選択をとって生きて来た。


自身が魔力を回復しやすい体質であるからこそ取れた選択であるが。

今回の様に転移を数度続けて行う際は頼る他ない。


嫌なら日数を分ける選択もあるが。気になった事は後回しにできない性分なのだから。

むしろ。貧血に似た魔力が枯渇する感覚をポーション一つで直す事ができる自分は幸運だ。

 

……背後の茂みで嗚咽を漏らす人物に比べたら随分とマシだろう。

「おウェー……気持ち……悪い」


「転移酔いだね。慣れて無いと起こるんだ」

茂みの奥ではアルメが四つん這いになり胃酸を口から垂らしている。一日で三度転移をすると言う経験は、普通の魔術師でもそう体験できる物では無い。それをつい先日までは魔術具程度しか関わった事の無い魔力ゼロのアルメが体験したため、本人も想定外な酔いに襲われている。


「お……お願いだ……こいつ……あっちうっ…やって」


気持ち悪さで口元を抑えながらそう指す相手は、アルメの様子をジッと覗き込む白髪の男の事だ。


リベルテも引くほど、今にも吐きそうな人を観察するその赤眼に。吐く物も吐けないだろうと同情心が湧きリベルテは男を拘束魔術で捉え茂みから引きずり離した。

途端地面に水が撒き散らされる音が響き彼女が解放されたのがわかった。


  

「……………………水」


「はい、ただいま!」


すぐさまか細い声を聞き取りオネットがアルメの元に向かう。しばらくは休憩かとリベルテは木によりかかり木影から青空を見上げた。


「後一回、転移したら目的の座標につける……」


周りと自身に言った声は、存外自分も疲れているのだとわかる。

最西端は遠い……それでも太陽より早く辿りついているのだから自分は頑張っていると心底思う。

これを機に転移術の負担をアルメ達にわからせられただろうか。

 


………………



「もう吐く物もない」


「慣れた様だね……」

そうして二足歩行できる様になったアルメを連れて最後の転移を終えると。アルメはフラフラしながらそう呟いた。


実際言葉通りでアルメの腹は空っぽでキュルと腹の音が響くが、皆反応しない様にした。


「別に食欲は無いからな」


「お水は、飲んだ方が」


「ありがとう……」


オネットから手渡された水の入った袋を若干震える両手で受け取りアルメはちびちびと水を飲む。


「……一応、僕しか働いて無いんだけど」


まるでアルメが一番疲労している様な光景にリベルテが苦言を言うとアルメは「はー」と息を吐きリベルテを見た。


「リベルテでも転移術の距離範囲あるんだな」


「その知識があるなら、「転移するから良いか」何て今後言わないでね」


「あれだけ転移乱用してたくせに。お疲れですかハッハ」


「喧嘩売ってる?」


「まぁまぁ。リベルテさん帰りは私が請け負いますんで」


「時間がかかるでしょ」


疲労困憊の二人を止めるべく間に入ったオネットだったが、リベルテに呆気無く袖にされてしまう。


オネットが転移を使う際は目視で確認できない距離ならば魔術陣を描き発動させる他ない。

ここまで連続で発動できるリベルテの異常性にもはや嫉みは無くオネットは困った笑みを浮かべるしかできず、リベルテはそんなオネットの少し下がった眉の間をこずいた。


「お前らなんか違く無い?」


「はい?」


「もっとピリピリしてた様な………………酔いの幻覚か……」


オネットはアルメの言っている意味が理解できず。首を傾げたがリベルテは何の反応も見せず先を急ぐため声をかけた。


「さぁ、ここから君が先導する番だよ」

秘密の場所での道はオネットしか知らない。転移では細かな座標はわからずだいたいこのあたりと目星のついている場所に転移をした。ここからはオネットの記憶を頼りに向かうのだ。


「はい、こちらです」

オネットは記憶力はすこぶる良い。例え幼い頃の記憶でもその光景は鮮明だ。それが亡くなった母との記憶なら尚の事忘れるわけがない。


最西端にもなると村は少なく整備された道はほとんど無い、しかしオネットは迷わず道を外れて獣道を進みその足取りの軽さにリベルテは信用していたのだが。

 

がしかし…………


「迷いました」

「君は清々しいよね、いつも」


森を歩いて数分オネットは足を止めた。


「……いつから?」

リベルテがため息を吐きながらそう聞くとオネットは慌てて振り返る。


「今です。今までは記憶通りの道を進んでいました」


どうやら素早い申告だった様だがリベルテは片眉を上げて疑いの目を向ける。


「オネットよく目標らしい物も無いのに進めるね」

森暮らしに慣れているアルメは特に不安がる様子もなくそう問うとオネットは杖先ですぐ近くの木を指す。


「この木が目標なんです。一定の感覚で点在していて枝の向きから進む方角を思い出していたのですが…」


オネットは枝を見上げながら木の周りを一周すると首を振る。


「この木からどの方角に進むかわからないです」

思い出せない、ではなくわからないと言った彼女に。リベルテは目をすがめ、怪しむ目を向ける。


「疑っていますね…恐らくですが、道を変えられたのでしょう」


「秘密の場所だから?」

アルメがそう言うとオネットは自信に無い様子だ。


「で、どうするの?」

腕組んだリベルテが聞くと。オネットは少し考え杖を掲げて魔術を放った。


「救援信号?」

総会本部で一度オネットが使用するのを見た事があるアルメは、こんな辺境に士団が来るのかと、ぼーっとそれを見ていると。前方からガサガサと音がした。


「こんな所にも騎士団がいるのかな」

「いや、いるとしたら村の自警団とかでしょ。でも正規の道を外れたこの場所に気づくとは思わないけど」


そうしてだんだんと近づいてくる音は草木を掻き分ける様にオネットの眼前に開いた道を開いた。


「誰もいない……」


「思い出しました……みなさんこの道を進みますよ!」


そうして嬉々とした声を上げたオネットは先導して今し方出来たばかりの道を進む。


すでに夕方に近づいた時間。木の隙間からお漏れ出ていた光はだんだんと薄暗くなっていたが。

不思議な事に進むにつれて穏やかと表現する様な淡い光が木々に隙間から漏れ出ている。


「結界の中に入ったね……あの救援信号が訪問の合図だったの?」


「はい、この場所は迷子しかくる事が出来ないんです」

オネットはかつて母に教わったその言葉をそのままリベルテに伝える。


「何か花の匂いがする……」

目的の場所が近づいているのかアルメがそう言うと。木と枝で出来たトンネルが終わりを迎え、頬を撫でる風が目的地への到着を告げる。


あの絵の景色は今見た限りでは見つからない。しかし正規の道から外れて、かなり森奥まで進んだこの場所に村がある事にアルメは驚いた。


「ここってかなり奥地だよな」


自然的にも魔術的にも不思議なその場所に皆立ち尽くしていると。不意にリベルテは先導していたオネットの前に出る。


どうしたにかとオネットが彼の方を見ると。その視線の先にこちらに向かう人の姿を見つける。


長い銀髪の髪を三つ編みにし、エプロンドレスを着たその人物はゆっくりとこちらに来る。


その顔は微笑みを浮かべており。好意的な印象を持つがオネットは近づい来るにつれてその魔力を感じとり驚いた。


その人物は幼い頃に見た記憶と同じで()()()()()()()。肌や手は若々しく。あれから十年の月日は感じさせない。


あの頃と同じ。しかしあの頃には気づかなかった事に今は気づいてしまった。


「魔女だね」


リベルテの言葉にオネットは返答できなかった。


その魔女は立ち止まると。その穏やか笑みから困った様な表情をした。


薄青い瞳は四人と目を合わせると。ゆっくりとお辞儀をして。


「ようこそいらっしゃいました。私は魔女フローレ、この村の村長をしております」

そう言った。

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