3−9 心同
遅くなりましたー!!
初の魔獣の討伐。
学園当時行われていた戦闘訓練では、勿論魔獣との実戦訓練も合った。しかしそれは実力も経験もある教授達に見守られながらの物だ。安全を約束された実戦は実戦とはほど遠い訓練。
街の外に出て、魔獣との戦いは本来は唐突で理不尽な物だろう。
それを経験し生き残る事で初めて実戦を終えた言えるとオネットは思った。
「お湯はこのくらい?」
「はい、ありがとうございます」
木々の伸びた枝にロープを張り、布を吊して作られたシャワールーム、内に入ったオネットは自ら頭上にアルメが沸かしたお湯を水魔術で量増しし、自身に振らせた。
「魔術回復薬って独特の匂いがするな」
オネットが持っていた魔術回復薬(ポーションと言う人もいる)は青みがかった小さな小瓶に入っており蓋を開けたら薬草の強い匂いが漂い、今もその匂いが忘れられない。
「魔力を多く含みやすい様々な薬草を配合されていますから。即効性もあるので効き目は素晴らしいですよ」
仕切られた布越しにシャワーの音と共に聞こえる声にアルメは自身の髪をガシガシと雑に拭きながら聞いた。
「おかげで、私も人風呂浴びれて服も乾かしてもらったし、魔術っていい物だな」
アルメがシャワーを浴びている間オネットはアルメの服を水魔術で洗いそして乾かしてくれたのだ。
魔術師が身軽に旅できる一端を見てアルメは感嘆した。
「スッキリしましたー」
少しずつ小さくなる水の球が最後の一滴落ちてしばらくするとオネットが湯気をまとわせながら仕切りの布から顔を出した。
髪はすでに乾いており。髪ゴムで一つにまとめている最中だった。
「髪が長いから乾かすの大変そうだけど」
「コツがあるんです、慣れたらすぐ乾かせますよ。アルメさんもしましょうか?」
「いいよ、そこまで。このままでもすぐ乾くから」
「遠慮ばかりしていると風を引きますよ」
少しムッとした表情でそう言ったオネットにアルメは大人しく頭を差し出し。再び魔術の恩恵をその身に受けた。
そうして身綺麗になった二人が村の中央に佇む石碑付近まで戻るとリベルテが何やら作業をしていた。
「何してるんだ?」
「直しているんだよ」
「修復可能なのですか?」
オネットが近づきその手元を覗き込むと、リベルテは朽ちかけた石碑を囲う骨組に片手をそわせておりその指先には魔術陣が展開されていた。
「地道だけど、このやり方一番文語のミス無く構成し直せる」
「お手伝いします」
それを聞いたオネットは杖を握り直しまだ手のつけられていないリベルテの反対方面を同じ様に魔術を使い修復しはじめた。
アルメまた手持ちぶたさになってしまい、魔獣の解体をするかと廃村から出ようと足を進め用途したが。
「此処から出ないでね」
とリベルテに釘を刺されたがアルメは「肉が痛むだろ?」と言いリベルテは眉を顰めため息を吐きながら言った。
「じゃぁ彼をちゃんと連れて言ってね」
白髪の男の役割を果たせるために置いて行ったのだが、どうらやリベルテ的にはアルメがお守り役をサボったと解釈した様だ。
「……わかったよ」
まるで注意する様なリベルテの言葉にアルメは不満を抑えた声色でリベルテに返した。
「……行くか」
リュックを背負いアルメは狩った魔獣の処理をするために、戦闘の痕跡が残る木々が薙ぎ倒された場所に歩み始めた。
白髪の男の首には魔術抑制陣はすでに無く、いつもの無の風貌でアルメの作業する姿を見下ろしたいた。そんな視線を感じながら魔獣の死骸の全体を確認したアルメ。その体積は魔獣の中でも大きな方でアルメは日暮までに解体するのが難しいと判断し彼の方をみた。
「お前に仕事をやろう」
そう言い背負っていたリュック下ろし、中から解体用のナイフを取り出し彼に手渡した。
彼はしばらく見つめた後それを受け取りアルメの方を見た。
「何度か見たことあるだろ?魔獣を討伐したら解体するんだ、こいやって」
そうしてアルメは上着に下に隠してあるナイフを取り出し。魔獣の腹にゆっくり傷を入れ始めた。
このナイフは一定の衝撃を受けなければ切り味の良い普通のナイフなので、使い慣れたアルメはスムーズに作業を進めるが、人に貸し出そうとは思わない。
腹に入れたナイフを横に滑らせ表面の皮のみ剥いでいく体が大きいのでアルメは途中、彼に振り返り指示した。
「おんなじ様に反対側の背から皮を剥いでくれ」
男はアルメの言葉に反対側に周り込み、乱雑にナイフを刺した。
「……そうじゃない」
魔術を見ただけで使用できるので器用なのかと思ったがやはり魔術以外はそう簡単にできないらしい。「こうするんだよ」と言い彼の手を掴みまずはナイフの握りかたそして刃の向きと入れ方を教えた。
しばらく手を添えて教えているとアルメが力を込め無くてもナイフが進み始めたのでそっと手を離すと彼はアルメが付かなくても解体作業進め始めたのでアルメ少し微笑んで自身も作業を開始した。
覚えが良いのか、アルメが半分ほど解体を進めて、人呼吸置くと、上からこちらを見下ろす赤い瞳と目が合いアルメは軽く驚いた。
久しぶりの作業故か新鮮な気持ちで進めた解体作業はどうにか日暮までに驚いた終わらせる事ができた。
並べられた黒い爪、牙、骨、皮。どれも大きくアルメの腕ほど長く胴程太い。
「こう見ると大物だったな……」
そうやって達成感に浸っているとこちらに走りよる足音が響いた。
「アルメさーん!」
オネットが手を振りながら笑みを浮かべてこちらに走り寄ってきた。
「オネット作業は終わったの?」
「ええ!今囲い骨が魔力を正常に吸収し始めています。もうすぐ防御壁が展開されますよ、アルメさんも……」
話ながら走り寄って来たオネットは、アルメの元に近づくとその足元に気づき、言葉を切って感嘆の声を上げた。
「これ、あの魔獣の素材ですか!こんなに大きいなんて!」
「オネット、魔獣の素材見たの初めて?」
「いえ、加工前の実物は幾つか見た事はありますが、ここまで大きな物は初めてです」
「私も、久々に見たね」
魔獣化した際、魔獣は元の動物の体積に比例してその体の大きさが現れる。
アルメとオネットは牙や骨を掲げまじまじと観察していると背後で聞き覚えの無い音が響いて。
「あれって……」
「村の防御壁です!無事展開された様ですね!」
頭上から半円の膜が降りる様に構成されて行きアルメが一度廃村を見渡した傾斜の部分に等達すると、防御壁は見えなくなった。
それを見てアルメが並べられた素材使用とすると掴もうとした牙が持ち上がりった。もしやと思いオネットを見ると杖の文が光っていた。
「戻りましょうアルメさん!」
そう声をかけ、駆け足で廃村に戻るオネットにアルメも後を追おうとしたが、肉の存在を思い出し。慌てて彼にも抱えさせて後を追った。
「僕は、今幻覚を見てるのかな……モンスターに遭遇したみたいだけど……」
「何ですか?風空魔術ですよ……」
一般的な風魔術の応用である程度の重さの物質を浮かせる物だが。黒い骨や牙が幾重にも浮かんだ姿を背後に登場したオネットにリベルテは最早お得意の冗談を披露したが。オネットには首を傾がれてしまった。
「知っているよ。大量で何より……」
「魔獣の骨や角は以外と軽いんですね。私一人で運べました」
「ほとんどが魔力物質だからね、硬さだけは一流だけど」
「十分だろう……」
遅れたアルメと白髪の男、肉と皮を持って現れた彼等にリベルテは眉を顰めた。
「骨が軽い分肉が重いな」
よっこせと保存袋に入れた肉を下ろすと、オネットが慌てた様に声をあげた。
「すみません!私がそちらを運べば」
「いいよ、そっちで十分。これは自己満足だから」
「自己満足?」
「まさか振る舞う気」
オネットには魔獣喰いを伝えたいないアルメ。調査中食べないと言う選択肢があるが、せっかく狩った魔獣の肉を地中に埋めるなどやはり勿体無くてできなかった。
だからアルメはリベルテの訝しげな発言に乗ってあっけらかんと言い放つことにした。
「なんだ、リベルテだって以外とイケるって言ってただろ?」
「…………どうにかしていた」
「なんだって?」
小さな声で言われた言葉は聞き取りにくいがリベルテが顰めっ面をしているため嫌なのだろうことはわかった。
「…………無理に全員に食べさせるわけ無いだろう。食べたいやつだけ食べればいい」
「食べるんですか?魔獣?」
アルメは少しギクリとした。一般的に魔獣を食べることは推奨されないし。その体は魔力の塊でほとんど構成されているために人の体は受け付けない。実際アルメも解体するさい。ほとんど黒く変色した部位は食べられない物として除外し。通常の肉と大差ない色合いをしている物しか口に入れない様にしている。何の根拠も無くしていた行為だが。今まで四年間体を壊さなかったのが、正しい魔獣肉の捌き方として証明されているが。骨や牙を取り出すよりも手間がかかるので大っぴらに人に伝えたいと思う物でもないのが事実だ。
そんな魔獣食の趣味が生きがいと言ってもいいアルメ、今更ながらオネットに引かれた反応をされるのが恐ろしと感じ。少女の目を見る事ができない。どう答えたものかたと逡巡したが。一度反応を見るべきだと判断しそっと少女と目を合わせた。
少女の目はいつか見た様にキラキラと輝いていた。
「食べるんですね!魔獣!」
興味ありと一目でわかる反応にアルメ戸惑ったが同時にに安堵した。
「オネットも食べる?」
「はい!いただきます!」
返事は何の躊躇もなく発せられた。
「よーし腕によりをかけよう」
意気込むアルメとオネットをリベルテは距離と取り冷ややかな目で見ていたが、アルメは気にせず調理を開始した。
昼間拾った栗を剥き軽く下茹ですると。研いで水に浸けていた米と合わせ塩を入れ、火をつける。
魔獣の肉は一口サイズに切り。大鍋で焼く。周辺に生えていた葉物の山菜をざっくりと切り鍋に加え肉と軽く混ぜて合わせると、水を加えて煮立たせる。
「アルメさんお米を入れた鍋が溢れそうです」
「そのまま蓋は開けないでくれ」
火の番をしていたオネットが焦った様声を出したのでお玉と小皿を渡して吹き溢れる汁を掬う用お願いした。
鍋が煮たってき、味噌を入れると香ばしい香りが強くなり腹の虫が騒ぎはじめる。
「いい匂いがしますね、優しい匂い」
「寒いから暖まるぞー」
魔獣の肉がしっかり火が通ったのを確認すると。アルメは完成の声をあげた。
喜ぶオネットとヨダレが垂れそうな白髪の男。一人離れて家の外壁であっただろう煉瓦に腰掛けいるリベルテだけが片手で目を覆い見てはいけない物を見た反応を示していた。
「何だよ、その反応あからさまだぞ」
「人にはね見たく無い物があるんだよ、周りが異常だと特にね」
「いただきますー」
「どうぞー」
語の最中に食事を始めた一同、リベルテは呆れた顔でそっぽを向いた。
「リベルテさん」
「いらない」
そうして一人輪から外れていると。見かねたオネットがリベルテに器を差し出しながらそう言ったがリベルテは直ぐ突っぱねた。
「お腹空きませんか?リベルテさんあまり食べて無いでしょう」
「君は意外と食いしん坊なんだね」
「食事は力の基本ですから。頭を使うにしても体を使うにしても」
「……」
「体調が優れないのですか?」
「……そうだよ」
「私もです」
以外な返答にリベルテは思わず聞き返してしまいそうになったが直ぐに平常真を保ち無言で返した。
「今心臓がドクドクしているんです、緊張、高揚、不安、それと喜び。その全てに当てはまるこんな感情は初めてです」
「……」
夜空に輝く星を見上げオネットは喜びを含んだ声でそう言った。
リベルテは顔を背けているが、その声や言葉に耳を傾けてしまった。意識してしまったのだ。
ただ聞こえたのでは無く。聴いてしまったのだ。
「リベルテさん」
「……」
黙っていると。オネットがリベルテの正面に移動してきた。
「はいアーン」
「は⁈」
そして差し出されたのは魔獣の肉を煮込んだスープだ。
匙には小さな肉の塊と葉のかけらが浮かんでいる。
「……いらない」
「アーン」
「やめて」
「アーーーーン」
尚も差し出され続ける匙と対面しリベルテは放心した。
「冷めますよ?リベルテさん」
「……」
「美味しいですよ。食べても異常はありませんでした」
「……」
「体が温まりますし。何より」
また、目の前に差し出された匙よりオネットの声に集中してしまう。
「嬉しい気持ちになります」
「……」
そんな物は求めていない。優しさは今の自分には必要ない。
「冷めてしまいまいたね」
目を見張りジッとしていると目の前の冷めたスープの入った匙がまた気遣い、優しさによって下げられて行く。
リベルテは下げられるオネットの手を掴み匙に齧り付いた。
冷めている、体は温まらないし、嬉しいと言う気持ちも感じない。
けれどもどうにも複雑なそれは覚えのある、幾つもの感情が混じりあった、そんな感情が生まれていた。
どうしてか鼓動が早く。体調が優れない。




