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くいかえし  作者: Kot
ムレスズメの様に
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3−2 海の街


鮮やかな青い海を街の一部としているカイカームは、観光地としても有名な地だ。

通常どの街も外の風景を閉ざす高い壁に囲まれているが、このカイカームは観光地として名高い事もあり海や周りの風景を閉ざさない様に、頭上何百メートルで放物つ線を描いた柱が街の堺にあるのみで、まるで王冠を逆さまにした様な白く美しいその姿は魔術師総会本部を囲う外壁と似ている。

そしてその柱は陸地から数百メートル先の海まで囲い、夏は海水浴を楽しむ人々で活気が溢れるにだ。


「幼い頃一度この街に来た事があるんですが、本当に綺麗ですねー」

「そうだな、私は国中の街で一番綺麗な街だと思っているよ」


秋口の季節は肌寒いため、海で泳ぐ人の姿は無いが、漁師の乗る船が数隻浮かぶ風景はまた違う風情がありそんな光景を海辺の宿から見ていたアルメとオネットは冷たくも気持ちの良い海風でそれぞれ髪を靡かせた。


「寒いんだけど」


部屋の奥から声を上げたのはリベルテだ、そう同じ部屋にいるのだ。


海辺の観光地シーズンが過ぎたとは言え、カイカームは海鮮料理も絶品で街の外からの客はどの季節でも止まることはない。

夏は海辺の宿が常時満員、海水浴の季節が終われば、今度は海から離れた宿が客で一杯になる。


街に入った時、最初に寄った宿屋で空室が無いと言われたアルメ達は、その後、陸地方面は空きがないだろうと言う情報を聞き、手っ取り早く海べの宿をとる事にした。

しかし残念ながら海辺に訪れて宿を巡った結果、今いる宿の一部屋しか空いていなかったのだ。

迷ったが、どうせ男女で別れてものちにリベルテの一人部屋状態になってしまうので、部屋を分けた意味が無くなってしまうだろうとアルメが言うと、リベルテはどちらでも良いらしく、オネットは頭に?を浮かべながらも了承した。



「ごめん、何してるんだ」


パタンと窓を閉めリベルテの方を見れば。年季の入った手帳を開き、新品だろう手帳に何やら書き込んでいた。


「回路術式の見直しをしている」


「……そうなんだ、何か持ってこようか食べ物?」

どうやら難しい話らしい。アルメにはわからないので何かつまめる物でも買ってこようかと提案したが。

「いらない」

と断られてしまった。


機嫌が悪いのがありありと伝わってき、お邪魔の様な気がしたアルメは部屋の外で観光でもしてこようかと立ち上がった。


「どちらへ?」

「観光、必要な物があれば何か買ってくるよ」


閉じられた後も窓の外を見ていたオネットは立ち上がったアルメにすかさず質問をすると、待っていましたと自分も立ち上がった。


「私も行きます」


イキイキとそう言ったオネットは少し顔を伺う様にリベルテに尋ねた。


「リベルテさん指定してくだされば、必要な資料を探しますよ」


「…………」


少し無言になったリベルテは新し手帳にペンを走らせ、ページを破くと無言でそれをオネットに差し出した。


「わかりました」

オネットは丁寧にメモを受け取りローブと杖を持ちドア前で待っているアルメ達と一緒に部屋を出た。

どうやら一人が良かったらしいリベルテは結局四人全員で街に来る事になった事が不服らしい。


「機嫌悪いなー」

「もう、慣れてしまいました。ですが少しは歩み寄ろうとしている様ですよ」


宿の入り口を出て、アルメの横を歩きながらオネットはリベルテから貰ったメモの中身を確認する。

あの態度からオネットの申し出も断るだろうと思っていたが、そこまで頑固ではなかった様だ。


「何が欲しいって?」

「すでに売られてい無い古い書物でね。アルメさん図書館に寄ってもいいですか?」

「ああ、特に行くところは決めていないから」


そうして3人は海沿いの宿から街の中心部に向かった。

どこの街にも屋台が立ち並ぶ光景を見る事ができるが、特にカイカームの街は海が近い街特有の個性がありアルメは好きだ。


「やっぱり海の幸が多いですねー」

「観光地だしね、私はこの統一感が好きなんだよ、屋台の屋根の色とか街全体が青系統で、旅してるって感じがするんだ」


「それわかります、絵本の世界にいる様な不思議な気持ちになります」


魚介類の焼ける匂いとタレや醤油の香ばしい香り。欲望に抗えるわけもなく、アルメの手にはいつのまにか魚の串焼きが握られていた。


「アルメさん何本目ですか…その串焼き」

「いつのまにそんな食べてた⁉︎私!」

「……」


人々の声が飛び交う屋台を通りを抜け。五つの道が集う中央広場に到着したアルメ達は改めて現在地を確認するために広場の中央に広がる地図を覗き込んだ。


「あった!図書館!」


カイカーム唯一の図書館は、海風から配慮し。街の端、海辺から遠い場所にあった。


「遠いなー、必要なら街に入った時に行けば良かったのに」

「いざ研究を始めると、必要な書物が手もになかったりしますからね、私も一日に何度も図書室を出入りした事があります」


意外と魔術師あるあるらしい。へぇーっと相槌をついて、図書館に行こうと地図から顔を上げたアルメは何かが足りないことに気づく。


「あれ?」

「どうなさいました?」


そうしてアルメが回りを見渡しているとオネットともその違和感に気づいた様でアルメ同様周囲を見渡した。


そう無口でその存在に慣れてしまえば影が薄くなってしまう男がいないのだ。


「どこ行ったんだあいつ、屋台のほうに置いてきた?」

初めてタイバンの街に入った時を思い出したアルメ、まさか他の客に迷惑をかけているにではと不安の気持ちが湧いて来た。


「オネット、探してくるから先に図書館行ってくれ!」


「いえ、私も一緒に探します」


慌てて元来た道を引き返すアルメを追って、オネットも引き返すがその足は直ぐにアルメの背に追いついた。

立ち止まっていたアルメの目線の先を見れば、白髪の男がこちらに向かってくる姿が見えた。何故か二人の女性を両腕で引っ張りながら。


「なんで、捕まってるんだよ」


アルメが呆れた声でそう呟く。よく見ると確かに腕を掴んでいるのは二人の女性の方だった。

 

「お兄さん!良かったらお茶しない!」

「近くに美味しいパスタが食べられるお店があるの良かったら奢るわよ」


(スッゴイ必死だ⁉︎)


出会ってから基本街中を歩くことがあまりなかったからか、過去に一度だけしか見なかったナンパの光景。あそこまで必死になる女性達の目的はなんなのか。

「声かけたく無いな」

アルメの言葉にオネットも無言で頷いた。


しかし声をかけないわけにはいかない。アルメは恐る恐るだが、声をかけた。


「あの、友達が何かしました?」


「何?友達?」

「ごめんなさい、お連れさんがいたのね〜」


と一瞬怪訝な表情をしたが、女性達は意外とアッサリ引き下がっていった。


「良かった〜直ぐに諦めてくれて」

「驚きました」


女性からナンパする風景など貴族の令嬢であるオネットには見慣れない光景だった様で、パチパチと瞬きを繰り返している。


「あそこまでのはさすがに…珍しい人達だと思うけど……」


改めてアルメは彼を見た、スンと無表情で何事もなかった様に佇む男。

白い肌、白い髪は神秘的だそれにその赤い瞳も魔力量が多い事を知らない人でも魅入られるだろう程綺麗だ。


「老婆の変装でもさせるか……」

「何故、老婆なんですか?」


次こういった事が起こったら真剣に改善策を考えなければいけないと思うアルメだった。

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