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くいかえし  作者: Kot
ムレスズメの様に
50/101

3−1 魔力の塊

三章開始です


それは本部を出て少したころ。そう、まだ街の中のこと。


終始不機嫌なリベルテは完全に納得していないながらも、駄々をこねることはなくなった。


しかし、次に異議を唱えたのはオネットだった。


「転移旅じゃないですか!」


少し歩いたリベルテが三人に提案と言うか。元々そのつもりだった様で転移を使うと言ったのだ。

その言葉にやる気に満ち溢れていたオネットは口をへの字にした。


「君ね、目的は調査であって旅じゃ無いんだよ」

先ほどまで子供じみた抵抗を続けていた男は。今度は手のかかる子供も相手にしている様なそぶりでため息をついた。

 

「必要な時間をより多く得るために転移した方がいいに決まってる」

「だからタラタラしてたのか」


少し皮肉げに先ほどまでのリベルテの様子を言えば、すかさず眼光が向けられアルメは視線を逸らす。


「確かにそうかもしれません、ですが禁足地に行くまでの魔力調査も必要だと思います」

「それは必要ないことだ」


キッパリ否と言うリベルテにオネットは悔しそうな顔をした。


魔力だの調査だのわからないアルメは、どちらにも擁護する事ができなかったが。オネットの表情から彼女が冒険したい自身の要望を通すためにそれらしい事を言ったのはなんとなくだがわかった。


「オネット、私でよかったらリベルテがいない時に旅の事色々教える事ができるよ」


「本当ですか!」


「調査が目的だって言ってるじゃないか……」


「いない時な。リベルテは転移でホテルなり何なりいけばいいけど。私らは野宿なりして旅を楽しむから」


「野宿が楽しい人なんているんだね」


「お前、夜の星の綺麗さ知らないだろ」


「いいですね、星を見ながら眠りにつくの」


「……」


夜、どれほど星が綺麗か興味の無いリベルテは、再び深いため息を吐いた。


「それじゃ、転移を使うよ」


そう言うと、返事を待たずにリベルテはアルメ達を連れ転移した。



久しぶりに感じた体がフワリと落ちる様な感覚によろめいたアルメは背後に背負うリュックを誰かに支えられて、後ろを振り向いた。そこには白髪の男がリュックの量端をガシリと支えてくれた様だ。

「あ、ありがとう」


こんなふうに直接的に手助けされた記憶が無いので、アルメは少し驚きながらもお礼を返すと彼は無表情で直ぐに礼を受け取るためにアルメのリュックを開きその中身を物色し始めた。


「おーい」


「何をなさっているにですか?」


始まった男の奇行にオネットがこちらを見てそう言った。


「いや、多分……」

背中にかかる重みがなくなって後ろを見れば予想通り男が干し肉の入った袋を持ち出して中から一枚干し肉抜くと獣を思わせる大きな口を開けて食べ始めた。

アルメは呆れた顔でその光景を見送った後オネットに向かって

「この光景が常になるから気にしないで」と話した。


「わかりました……」


パチパチと目を瞬かせたオネットは気の抜けた返事を返した。


「雑談はもういいかな?」


転移直後に始まったやり取りにリベルテは説明を出来ずにいた様で、切りがそさそうな場面で声をか掛けた。


「それじゃ、大体の役割はリーブル総帥が言った通りだよ、君達二人は調査中の僕の護衛。調査が後半に入るほど集中したいから、なるべく早く討伐してね」


「わかった」

アルメと白髪の男を指してリベルテがそう言うと今度はオネットの方を見た。


「今更だけど何ができるの?」


(ひどいこいつ⁉︎)


何かと言いくるめられてオネットを連れてきたリベルテだが結局オネットの参加には納得いっていない模様で片眉をあげて試す視線でオネットに聞いた。


「その前に調査の具体的な内容を教えください。リーブル総帥からは前例の無い調査方法だから現地で見た方が早いだろうと聴かされました」


「……そうだね、」


まるで見下される様な視線にも物怖じせずに答えたオネットにリベルテも言われた内容には了承した様でわずかに足を進め、直ぐに立ち止まった。


「ここが禁足地だよ」


「はい?」


そこで改めて周囲を見渡すアルメとオネット、森のど真ん中のあたりは草木が生い茂っており、一目見ただけでは普通の森だが、見れば見るほどその異様さに気づく。

リベルテの立っている少し先から草木がわずかに変色している様で、自然の元の色に灰色を混ぜた様な配色をしており所々開けた場所には、木の破片や、人工物と思われる瓦礫があった。


「言っとくけど、この場所に続く道は封鎖してあるからね、……ここは六年前に禁足地になった場所だ」



「その変色している場所は入ったらどうなるんだ?」


アルメの質問にリベルテは魔術で答えた。

彼が片手を少し上げると、水色の魔術陣が現れたと同時に陣の中心から水が発生した。そして周囲から水を巻き上げる様に回転したそれは片手程の大きさの球体になった。

リベルテはそれを禁足地に向け軽く投げ放つと。水の球体は直ぐに禁足地の境界線で弾け霧散してしまった。まるで水滴が水面に落ちた様だ。


「術として形成された魔力が、密集する魔力と衝突して解除されたんだ」


初めて見た異様な光景。まるで壁がある様に見えるが、しかし向かい側から流れて来る風にそれは無い事がわかる。


「なんか、怖いな、道が塞がれているとはいえ、気づかず森の中を通って入ったら……」


水の玉の様に体が弾ける恐ろしい想像をしたアルメに、リベルテは口角を上げてさらに恐ろしい事を言った。


「入って見る?」


「入るか!」


「冗談だよ」


悪意を感じる冗談にアルメが叫ぶと、隣にいたオネットが禁足地に着いて説明した。


「人が入った場合、肉体があの様に霧散する事はありません。魔力同士の衝突で起こる現象ですから、肉体がそれを阻んでくれるんです。魔力は体内に存在しますから。ですが密集する魔力によって呼吸をする事が叶わなくなる様です、例えるなら口の中に大量の水を流しこまれるイメージですね」


オネットのわかりやすい説明によりアルメはイメージをとらえる事ができた。

この禁足地が他に幾つも存在しているのかと思うと、よく今まで遭遇しなかった物だ。


「調査に魔力探知する必要は無いんだ、魔力の塊にどれだけ細部を確認しようとしても意味が無い」


その言葉を聞き杖を握る手に力が入ったオネット。

自分にできることとして、魔力調査を上げていたためか羞恥の感覚が生まれてしまったが、すぐに気を持ち直した。この調査に肝はリガール魔術を行使する事にあるとリーブルからの聞いていたのだ。


「それでは調査はリガール魔術にのみによってしかし行う事しかできないのですね」

 

そもそも、随分前から禁足地の調査が行われており、その発生理由は解明されている。

今回調べるのは解除方法のため。今ま行われた調査とは別の物になるのだ。


「そうだよ、僕はてっきり父さんからリガール魔術を教わった魔術師が来る物だと思っていたけどね」


また嫌味な事を言ったリベルテだが、オネットは冷静だった。


「使用されるのは第五の回路術式ですね」


「知っているんだ……」


リベルテ以外そうな声を出してオネットを見た。


「私も幼い頃短期間ですが、ルガルテ先生から魔術を教えていただきました」


「そういえば、そんな事言っていたね」


魔術師総会で紹介され、リーブルとオネットから言いくるめられる時にその様な内容を言われた事を思い出した。


「それじゃ、君の役割はわかっているでしょう?……邪魔しないでね」


そう言うとリベルテは指先を禁足地に触れさせ、オネットが再び口を開く前に魔術を発動した。黄金の糸が禁足地の境を這う様に進み、その全体像をリベルテ達に見せた。


「でかい球体みたいだな」

「ええ、想定されていた形ではありますが、実際に見ると迫力がありますね」


しばらく黄金の糸が蠢く様子に魅入れてた、アルメは何気なく疑問に思った事を呟いた。


「何を調べているんだ?」


「回路術式は魔力循環に影響を与える事ができます。詳しい内部分は分かりませんが。大概はあの糸が触れた魔術を読み取り、無効化をする事ができるとか」


「じゃぁすぐに終わるのか」


一人ごとに近い疑問だったが、オネットは自分の知る限りの情報を教えてくれた。

その話だけを聞けば、無効化とはなんて便利な魔術なのだうとアルメは思った。


長期戦を予期していただけに体の力が抜ける様な感覚を覚えた。


「そんな簡単な事ではないよ」


しばらくすると、黄金の糸がゆっくりリベルテの指先に戻っていきリベルテがアルメの想像を修正する様に話した。


「魔術と魔力は違うんだ。形を持っていない魔力に無効化なんて通用しない」


「そうなんですね……ですがこの濃密度の魔力の塊に触れても消滅しないなんてさすがはルガール魔術ですね」


想定していた結果と違った様で少しばかり暗い声色を出したリベルテ。

オネットは励ましの意味を込めてルガール魔術の特異性を褒めるがリベルテの表情は納得言っていない様だった。


「どうかな、特に大した変化も無いみたいだし。そこまで言うほどでも無いだろうね」


「何故その様な事をおっしゃるんですか⁉︎」


「オネットなんで怒るの⁉︎」

ガッカリだそう言っている様に聞こえたオネットは自身の尊敬する人の魔術を馬鹿にされたと感じた。


「大きな声を出さないでよ、君には……」


「関係無いとかどうでもいいんです!リベルテさんのそのトゲのある言い方は魔術に失礼です!言動を改めてください!」


「魔術に失礼……」


まるで想定していなかったオネットの怒り所にアルメは面食らってしまったが、それはリベルテもだった。


「…………はは、可笑しいな君は……たまに君見たいな事を言う魔術師がいるけど一体どんな感覚を持ち合わせているのかな」


「馬鹿にしていますね」


「理解出来ないだけだよ」


睨み合う二人。アルメは喧嘩が始まらない様に間に入る事にした。


「それで、次はどうするんだ」


「……一旦持ち帰りたい、近くの街に宿を取ろう」


「もう、いいのか?」


「今は何しても変わらない」


そう言うとリベルテは歩き始め、アルメ達を追い越していった。


「転移しないのか」


「疲れたから、歩く」


「どんな理屈だよ……」


普通は逆ではと思ったが、魔力的なこと何だろう。魔術師の感覚はわからない。


「オネット……」


アルメも後を追おうと進もうとしたが、オネットの表情はどこか不機嫌を表していた。


「ああ、そういえば野宿したいんだったな」


「野宿……」


恐らく違う事に不機嫌になっていたのだが、オネットは野宿の言葉にその表情を変えた。


「そうですね、野宿しましょう……リベルテさんは街に、またこの場所に来られるんですよね」


「…………そうだね、またここで合流しようか」


何となくだが、全員の機嫌が向上した様何でアルメは安心した。


「じゃ、一応伝えておくけど僕はカイカームの街にいるから」


「カイカーム……」


その言葉に今度はアルメの表情が変わった。


海に沿うその街は美しい風景だけでなく、その土地ならではの海鮮料理が絶品なのだ。


腹の音が聞こえた、一瞬自分の物かと錯覚してしまうほど近くで聞こえたその音は、干し肉を全て食べ尽くした男から聞こえたものだ。


赤い瞳と目が合えば再び腹の音が聞こえる。それと同時にその瞳が訴える声が聞こえてきた。


食べたく無いのか、海鮮料理。食べたく無いのかパエリア、食べたく無いのか海鮮パスタ。


食べに行こう今すぐに。


どちらの願望かわからない声はどちらともの腹の音によって利害の一致を確認した。


その異様な光景を見ていたリベルテとオネットにアルメはそっと顔を向けて言った。


「オネット、海鮮料理食べたく無い?」


すっかり毒気を抜かれたオネットは穏やかな表情でアルメの提案を受け入れた。


「はい、食べたいです海鮮料理」


こうして一同は海の街カイカームに向かうのだった。

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