5.あはは
初の戦闘描写、難しい
次の日アルメは朝早くからギルドに来ていた。
「はい、狼の魔獣討伐の受容書です」
ギルドスッタフから受容書を受け取るアルメその後ろには男が待機しておりその背中には新調した鍋が主張していた。
初めて会った時より何かと意思疎通が出来たが、結局アルメは付き纏いから解放される事は無く、昨晩もアルメを枕にするなどし、その寝苦しさに目を覚ます羽目になった。
「お前も手伝えよ」
男に受容書を見せてアルメは言う、やはり無表情で返されたが視線は用紙に向いているので内容を確認できる様しばらく男に見せ続けていると、後ろから女冒険者が近づいてくるのが見えた。
それは、一昨日アルメたちに話かけてきた女冒険者、昨晩男を食事に誘った女冒険者。
「行くぞ」
アルメは用紙をしまい、急かす様に出口に向かう。
「ちょっと!」
女冒険者の声は無視したいが、残念ながら出口に先回りされてしまった。
仁王立ちをして腕を組むその姿に近寄りたく無いと思ったが、一般の出口は一つしかないのだ。
「お前行ってこい」
アルメは後ろの男に声をかけ背中、もとい背中に背負わせた鍋底を押す。
「あんたよ!」
「わたし!?」
何故かアルメを睨み、男を押し除けアルメにズンズンと近づいてくる、アルメも後退りするが、やがて壁に背中があたる、周囲にいた冒険者や職員の注目を浴びてアルメは気まずくなる。
「あんたでしょ!私が彼を誘った時に!彼に余計なことを言ったんでしょ!自分が目をつけていたのを横から取られそうになったくらいで!人の恋路を邪魔するなんて酷いと思わないの⁉︎」
支離滅裂とまではいかいが、話が飛び飛びながらもアルメは内容を読み解いた。確かに女冒険者に男が誘われたあと「行け」と言ったし。あわよくばとも思った。女の主張とは逆の意味なのなが食事に誘っていざ食べ始めるところで男が消えたら、しかも料理ごと持って行かれたらいい気はしない。何かの悪戯、揶揄われたと思うだろう。
「いや、誤解で、私はせっかくだから行ってきたらってアドバイスしただけで」
ギルドカウンターの奥からローリエがこちら見ていたが目が合うや否や首を左右に振られた。
助けは見込めないらしい。
「だったらなんで突然いなくなるなんてことになるの!ギルドに来たらアンタといるし!」
女冒険者の背後の男を見るが何かする様子はない、こんな時こそ転移を使ってほしい物だがやはり無理そうだ。
「あーあの向こうで話しません!ここじゃ目立つし!」
酒場の方を指差しアルメは言う、女冒険者は逃げるなよ、と言いたげな目で睨みながら酒場の方に歩みを進めた。無論アルメは逃げた、女が背中を向け少し距離が離れた隙をついて全速力でギルドを出た。後ろで何か聞こえたが無視し、そのまま街の入り口に向かう。
朝早くとも人通りはある、しかし人の目など構う暇なく走りやがて息を切らせながらもアルメは街の外壁が見えるところまで逃げ切る事ができた。
「幸先が悪い出発になったな、追われるようなのだけはごめんだけど」
少し息を切らせながらアルメはチラリと後ろを向いた、男がおりその後ろを覗き込み確認する、誰も追ってくる姿がない事に安堵した。
若干だが申し訳なく思いながらも荷物を背負いす。
「ローリエあたりが宥めてくれてたらいいけど」
無理だろうな、などと既に他人事の様に考え街を出るため歩き出した。
「あ、いたいた」
不意に聞こえた声は軽く、一瞬追ってきた人物かと思い身構えたが声の主を見てそうではないと確信した。
黄金そんな例えがすぐ出てくる。髪色も瞳も鮮やかなブロンドの男だ。
(こんなやつギルドにいなかった、街でも見たことないな)
一目見ただけで目に留まる容姿の男は、友人に接する様な気やすさで後ろを付いて来ていた彼の肩にに手を置いた。
「探したよ」
エグレゴア! 途端にその単語が頭の中に浮かびアルメは冷や汗をかいたがすぐに冷静になる。
(迎えがきたのか? なんだ、わざわざ本部に連れて行く必要なかったのか嗚〜呼鍋どうしようか、)などと考えていたが。
瞬間、彼の表情は今までに見たことないほど目を見開き、拒む様に己の肩に置かれた手を振り払った。
「ははは、まあそうなるよね」
振り払われると同時に距離を取った金髪の男は、何かを書く様に空中に人差し指を添わす。
それと同時に手の平にを男に向ける彼を見て隣にいたアルメは思わず彼の手を押さえて込んでしまった。
街中で攻撃する様な魔術を使わせるわけにはいかないからだ。
しかしアルメの予想に反して、使われたのは転移魔術の様だった。いつのまにかアルメたちは街の外に出されて荒野のど真ん中にいた。
「あらら、いらない子も連れてきちゃった
その声の主、金髪の男が魔術を使った本人らしく、アルメは自ら巻き込まれてしまったと悟った。
「うん、やっぱ君はいいや」男は発したと同時に人差し指をアルメに向ける。
瞬間、風が固まりとなってアルメを襲い後ろに吹き飛ばされる。リュックのおかげで頭は打たなかったが腰を強く打ちすぐに起き上がれなかった。
ドーン!!
大きな音静かな荒野に響き、アルメは肘を地面に突き、起き上がる体制のまま固まってしまった、彼が魔術を撃ったからだ、それも魔獣の防御すら破壊する攻撃。
しかしアルメの不安は杞憂に終わった。
その髪色の様に黄金の魔術語がドームを形成し攻撃を防いでいた。
(魔獣を一撃で仕留めた攻撃を……)
「なるほどね」
男は口元に笑みを浮かべながら、内側から自身の防御壁に触れる。
「どうしたの?追撃しないの?」
男の言葉に再び大きな衝撃音を出し、攻撃が繰り出さらえた。
彼らの戦いを離れた位置から見たアルメはその異様やに気づいた、
(遊ばれている)
何かを試す様に男は攻撃をしている。
彼に至っては、同じ攻撃を繰り返すばかりでまるで…
「あいつ、本当に魔術師か」
アルメは気づいたら荷物を置き、走り始めていた。
「それしか使えないのか」
男は攻撃を中断した、すかさず彼の魔術が飛んでくるが防御壁がそれを阻み男は無傷だった。
彼はと言うと服はところどころ破け、かすり傷が出来ているが防御壁を使った痕跡がないのにその程度、随分と軽傷だった。
男は訝しむが次の攻撃を繰り出そうとした時、視界の端に光るものが見えた。
当然当たるはずのないそれは、小さな矢尻の様な形をしており包帯が巻かれているため描いてある魔術語は読み取る事ができない様にしてあった。
防御壁に直撃し爆破を起こしたが当然防がれてしまった。しかしそれにより上がった土煙は消えることなく男を取り巻き続けた。
(衝撃による爆破、それと包帯にも魔術語を刻んでいたのか)
アルメが仕込んだ罠に気づき男は視界を塞がれてしまった。包帯に刻まれた煙幕の魔術、その煙は周辺を濃い煙で覆い一寸先を見る事ができない。
「おい!このまま逃げるぞ!転移を使ってくれ!」
俯瞰していたアルメは気づいた。彼は攻撃を避ける、または防ぐなどの行動ができてはいない。
それに対し金髪の男は何故か攻撃の際に防御壁を解除するなどを繰り返していたが、どちらにしろ彼の攻撃は全て防がれてしまっていた。
二人の因果関係は知らないが、このまま争っても彼の勝ちは見えない。アルメは巻き込まれただけだがこのまま二人を放置するなどしても後味が悪いため一度逃げて状況を整理したいと思ったが。
「ちょっ!」
アルメを無視して彼は攻撃を繰り出した。煙幕の中放たれた攻撃煙を押し除け、男の防御壁に命中する。どうやら彼はその提案を拒否したようだ。
(こいつ、煙幕の中でも場所を特定できるのか)
魔術師は魔力で相手の位置を特定する事ができるらしがアルメが放った煙幕はより魔力に敏感な魔獣から逃れるために作られた物だ。言わば魔力の煙と言っても良い。
両者が姿を認識した事で再び戦闘が始まった。
彼は距離を一気に縮め男のまじかで防御壁に攻撃を放つ。中にいる男は彼の無駄な行動を防御壁越しに見るがやがて冷や汗を垂らし始めた。
(魔力の消費が激しい)
このままでは防御壁を維持できず直撃してしまう。そう考え一か八かで防御壁を切り替え、風魔術で真上に避ける。結果通常の防御壁は直ぐに破壊されたが、うまく避ける事ができた。
すぐさま真上から攻撃しようと魔術を放つがしかし彼は避けも防ぎもせず、男に狙いを定め魔術陣を出す。空中にいる男は無防備、再びあの攻撃を受けたら消し炭になってしまう。
「やめろ!」
アルメもそれを察知し、思わず静止の声を上げてしまった。
風が吹きアルメの煙幕が霧散する。それは大きな風の固まりとなって男の体を吹き飛ばした。
「やりすぎ」
飛ばされた男はどこにも見えない、ついでに言えばアルメ自身も後ろに飛ばされ再び尻餅をついた。
「結局迎えじゃなっかったのか?よくわからないやつだった」
彼は無反応だ、しかしどことなくスッキリした様な表情でアルメを見る。
「しかし、どうするかな」
計画を変更するか考えたが周囲の戦闘の後を見てアルメは早くここから立ち去ることに決めた。
*
雲一つない青空を見ながら男は地面に寝転んでいた。落下の衝撃はなかったが魔力の消費が予想より多く体を起き上がらせる気力もなかった。
「あはは、飛ぶってこんな感じなんだ」
「便利だけどやっぱり実力不足だな、父さんの言うとうりだ」
空に手を伸ばし男はそう言った。
名無しが二人も出てしまった。
男金髪 彼白髪 です。
読んでくださりありがとうございます。