2−19 準備と食事
旅の準備は念入りに行うものだ。
気になったアルメがリーブルの使いの人物にそう尋ねると。準備物は長年冒険者をしていたアルメに任せうと言うものだった。
では準備はどこでするか。当然、魔術師総会本部内に鍛冶屋や旅の必需品売り場は存在しない。
つまりである。
「出られた……」
魔術師総会は結界で囲われ、アルメがハッキリとその姿を目にしたのは。白髪の男が出ようと魔術を使用した際に雷雲の様に稲妻を走らせているすがただった。
そんな姿を見たら。容易には出ることはできないと思っていたが。騎士団長に担がれて入った様に何の感覚も無く出ることができた。
そしてあれほどまでに出ることを拒まれた白髪の男も背後に連れてだ…
(許可は貰っているけど、特に証明書と貰ってないし。どんな仕組みなんだ?)
疑問に思ったそれは考えてもわからないこと。
気を取り直しアルメは数日ぶりにタイバンの街を歩いた。
「手分けして……はできいないか……」
思考が常に働いているか合間な男にお使いは頼むことできないだろう。
「荷物持ちよろしくな……」
そう言って軽く背を叩くと。フンと呼吸が漏れる音を出してアルメを見下ろした。
(こいつたまに偉そうなんだよな……)
そんなこんなで準備買い出しを始めたアルメ。
結果初めてすぐに、あることに気づいた。
そもそも、転移を乱用するリベルテとの旅に、何を持っていけば良いのか。
(結局野宿もしなかったしな)
攫われた彼を追って魔女の家に泊まったがあれが野宿と言えるかどうか。
どの様に調査を進めるかによって必要な物も代わってくるため。アルメは。冒険者様の必需品店の前で止まってしまった。
「アルメさん?」
悩んでいると高い少女の声が聞こえ。アルメは驚きながらそちらを振り返った。
「オネット!?外出できないんじゃなかったのか?」
オネットは太ももほどまであるローブを身につけ。初めて会った時と同じ白いブラウスと紺のプリッツスカート姿で、幾つか買い物をしたのだろう。両腕で紙袋を抱えて不思議そうにアルメを見ていた。
「本当にアルメさんだ!よかった会いたかったんです!」
駆け寄りアルメの手を握るオネット。その手は荷物で片手が塞がっているが、両手で握られた時より力強い。
「実は私の婚姻話はお父様も納得させれば取りやめが確定になるんです」
「へぇ、それじゃ実家に帰るんだね」
「ええ、ですがすぐではありません。何せ私は社会を知りませんから、リーブル総帥が魔術師として仕事をくださり。その王都まで行く間しっかり考えて話合いなさいと言われました」
「そっかーパーティーが終わって学園を卒業したんだったよな。魔術師として初仕事だ」
「はい!それもですよ。アルメさんと同じ調査に出る事ができるんです!」
通行の邪魔にならない様に入り口からそれた場所で話すアルメとオネット。
「そうなの⁉︎初耳なだけど……」
「えぇ!もうすぐ出発ですよね?」
驚きの声を上げるオネット、アルメは驚きより安堵の様な物を感じた。
性格に難のある魔術師と聞いていたため。どんな人物か本当は不安が会ったのだ。
だがオネットなら口達者だが、何かと親切に接してくれるのだ。
「よかった、オネットだっだのか。なら安心だ」
笑顔で安堵の表情を浮かべるアルメ。それから魔女騒動の後の卒業パーティーの話や。依頼を受けた経緯の話をしたあとアルメは、当初の買い物を思い出し、オネットに魔術師は何が必要か聞いた。
「私も調べた事になるので。実際はどの程度必要かはわからないのですが」
オネットが言うには調査の場合。その場所に滞在しなければならないため。
そのための寝袋や防寒具、そして携帯食が必要なのだそう。基本火を起こすのも水を生み出すのも全て魔術で可能のため、自身の魔力量で魔術具など旅の補佐をする物を揃えるらしい。
「魔力量に自身がある方は杖一つで済ませる方もいらっしゃいますね。身軽で羨ましいです」
「その場所食事はどうするの?」
「食事するその時だけ転移したりとか、後は仕事が終わるまで何も口になさらないとか」
「それは……ハードなタイプの人だな」
「限界が長い分、歯止めの効かない研究堅気になってしまうのでしょうね」
アルメはオネットとに礼を言うと。結局、魔術師のタイプは千差万別でリベルテはおそらく最後の部類だろうと結論付けた。
ならば、下手に揃えても荷物になるだけなので。今まで通りアルメの冒険者スタイルで必要な物を揃えた。
「アルメさんって特殊な物を揃えられるんですね」
「そうかな」
「調べた時。大体の冒険者は、回復薬や傷ぐすり。それに戦闘を補佐する魔術具を揃えてられるとか」
アルメの買った調味料や新調した鍋などを見ながら。オネット言う。
「私の狩の性質上、怪我をする事があまりないんだよ。主に罠を使ってやるからね。必要なのは気配を消すことと、ひたすら待つ忍耐力、後運かな」
「冒険者パーティーには入っていないのですか?」
「うん、その方がやりやすいからね」
アルメにとって重要なのは借りを終えた後の食事。
故に料理に必要な調味料は欠かせない無い物なのだ。オネットはアルメの魔獣食を知らないため。この時、アルメに罠に調味料を使用する何かが含まれているのだと思っただけだった。
「ははぁ〜懐かしのギルド」
変な声を出しながら、浸っているのはアルメでは無くオネットである。まるで今までここで働いていたかの様に言うので。アルメはどう返して良いかわからず。ただ暖かい目でその背を見守った。
少し緊張しながらギルドの扉を開いたオネットは、入った直後ごその人に多さに驚き一度扉を閉めてしまった。
「今は、一番人が多い時間だからね」
「……」
「驚いた?」
こくりと首を動かしたオネット、ギルドの中は喧騒で包まれ。扉を開けた瞬間気性が荒い冒険者の怒鳴り声も聞こえたのだ。
扉を閉めれば。近所に配慮して音が抑えられる建築をしてあるのか。その騒がしさは聞こえない。
「混んでる様だし他のところでお昼ご食べようか」
買い物を終えたアルメ達、せっかく外に出られたのから外で昼食を食べようと話になり二人はギルドの酒場を利用しようとした。
「いいえ、私あの喧騒の中でお食事を取りたいのです!」
「アハハなにそれ、まぁ、今混んでるのは受付だろうから席は多分空いてるかな」
何故か必死なオネットにアルメは可笑しくなり笑うと。閉じられギルドの入り口に手をかけた。
「それじゃぁ、これも社会勉強だな」
そう言ってアルメ達は喧騒の中に入っていった。
…
「すごいです。お隣の席とこんなに近く」
「人が多くなると席数を増やすんだよ。腹を空かせた冒険者ほど手に余る者はないからね」
「なるほど」と言ったオネットはすると懐からメモ帳を取り出した。
「いや、メモするほどのことじゃないって」
昼食といっても、昼時はとっくに過ぎているためアルメの予想通り席に座れる事ができた。
二人掛け様の小さい円形の机だが。椅子をもう一席追加して席に座ると人一人がギリギリ通れるほどの巾だけになる。
「ほら、あんまり席を下げて座るとウエイトレスが通れないだろう」
平均よりもそこそこ背が高い白髪の男はいつもダラダラしているくせに。ガタイが良いので二人掛けの机は狭苦しそうだが。ウエイトレスが通れないので。椅子を机側に押し込んだ。
「意外と種類があるのですね。どれも美味しそう」
メニューを見ながらオネットが物珍しそうな声を出した。
「オススメはハンバーグ定食、日替わりでスープもついてくる」
「では、それをお願いします」
「わかった。すいませーん!ハンバーグ定食三つ!」
アルメが手で指を三本作り大声でそう言うと馴染みの顔のウエイトレスが他の席に食事を運びながらも反応し。承った意で、同じ様に指を三本立てて頷いた。
注文が通ったのを確認したアルメはオネットに視線を戻すと。少女はまたメモを取っていた。
「何事も知識は重要です。郷に行っては郷に従え、スムーズに生きるコツですね」
「確かに」
アルメの視線に気づいたオネットは自身をこめた声色でそう言い。アルメも肯定した。
「おまたせしましたー」
「あれ、ローリエ」
数分後嫌に気の抜けた。声で料理を運んできたのは赤髪の娘ローリエだった。
いつもはギルドの受付で仕事をしているが。何やをやらかしてウエイトレスに移動させられたのだろう。
「休憩中だから。代わりに運びにきました!」
「あぁ、そうなの」
どうやら。酒場で遅めの昼食を取っていた際にギルドに入ったきたアルメ達を見つけ。ウエイトレスの代わりにここに料理を運んだ様だ。
「この料理ちゃんとここのテーブルの物か?間違えてないか?」
「確認しました!もーう私を何だと思っているんだ」
プンスカとしながらお盆に乗ったハンバーグ定食を三人の前に並べ。狭い席には流石にローリエの座る席は作れず。ローリエはアルメの席の三分一に自身の体を捩じ込んだ。
「狭いわ」
「久しぶりだねオネット、冒険者になりに来たの?」
アルメの苦情を無視してローリエはオネットに話始めた。
「それなんですが。必要がなくなりまして、これからは魔術師としてギルドにお邪魔します」
「……考え深いね、ここで泣いていた子がこんなに成長して」
「何目線で言ってるんだそれ……」
「ふふ、ローリエさんとはこれから取引先にもなりますね。改めてまして魔術師オネットです」
「よろしく〜タイバンギルドのムードメイカーローリエっ」
間延びした声でそう挨拶していたローリエの襟首はいきなり現れたラシオンの腕によって掴まれた。
「きゅっ休憩はまだ」
「今しがた終わった」
「ブラックだ、一秒単位で管理しなくっても」
「お前は散々ミスしといて一秒でも多く休憩がいただけるとでも思っているのか?」
「うっすみましぇん……」
どうやら、久々の受付仕事でミスを連発してしまったらしいローリエは。ラシオンの逆鱗を刺激しまったらしい。
「ラシオンさん。士団の方は終わったんですね」
「こいつだけ戻すと悪い未来しか見えないからな、元の様にある程度出来る様になったら士団に戻る」
「そうですか……」担がれ受付に戻られていくローリエを見送りながら、アルメは聞く人もいない相槌を返した。
「ラシオン・ルーザ様。学園でもトロフィーの勲章でその名前を見たことがあります」
「あんまり、戦っているところ見たこと無いけど。ギルド長の息子だけあって強いんだね、士団にも呼ばれるくらいだし」
ローリエの扱いは酷い物だが。ローリエがギルドに入ってから、一番フォローをいてきたのもラシオンだ。面倒みの良さは父親譲りなのだろう。
「あの、アルメさん」
無事受付で仕事を始めたローリエを見ていると。オネットが言いづらそうな声でアルメを読んだ。
「どうかした?」
「半分なくなっています、ハンバーグ」
言われ視線を下げると。白い手がもう半分のハンバーグにフォークを刺しているのが写った。
「……早いって」




