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くいかえし  作者: Kot
スイトピーの様な
43/101

2ー17 晴天に手を伸ばす



「おはようございます。アルメさん、ローリエさん」

翌日の朝早くからアシヌス邸の執事長から呼ばれ、アルメとローリエは執事長室に来ていた。

普段はのほほんとしているローリエも何となくだが呼ばれた理由がわかっている様で。仕事を終えた達成感からか、満足気な表現をしている。


「すでにお気づきでしょうが。お二人のここでのお仕事は終了になります。ローリエさんは今日の昼までアルメさんは今日一日までの勤務でお願いします」


「そんなすぐに、抜けていいんですか?」


「元々、卒業パーティーまでの人員として入っていただいていましたから。あなた方はギルドから派遣された即戦力の人材だと……」


「即戦力……」

横に並んでいるローリエのことはあえて見まい。なんだかんだ言って上手くやっていたのだから。


「……実際、無事パーティーを終わらせる事ができました。これは使用人としてのお二人のお給金です」


手触りの良さそうな小袋を差し出され、アルメとローリエはうやうやしく受け取る。

たった二週間ほどしか働いていないが。意外に多い量を貰ってしまい、アルメは驚いた。


「こんなに良いんですか?ギルドにも報酬が支払われると聞きましたが……」


「ええ、調査と使用人仕事は別の労働ですから。働いていただいた分キッチリとお支払いします。

 その方が、後々トラブルになる事もないでしょう」


「「ありがとうございます」」


思わぬ報酬にアルメは喜び礼を言うが、素直に受け取っていいものかと思案した。

と言うんのも。アルメがここにいるのは、ギルドの魔女調査とは関係ないからだ。


白髪の男との関連性がわかるまでの間、アルメは男がこの魔術師総会本部からでない様に防御壁内から出てはいけないのだ。

しかし、執事長がアルメをギルドから派遣された人員と認識しているのなら。彼の話をすれば余計な事を話してしまう恐れがあるため。アルメは口を開けなかった。


とは言え、ここから出られるのはありがたい。自分の現状がわかるのは、今日の仕事を終れた後だろうと思い。アルメとローリエは執事長に礼をして最後の仕事に戻った。







 

「反省、反省、反省」


もう幾度目の反省文を書き終えたオネットはそんな事を呟きながらアシヌス邸に来ていた。

まさか卒業したにも関わらず反省文を書かされるとは。

婚姻後も何かやらかすたびに書かされるとはのでは。そんな事を考えオネットは固めていた決意を黒曜石の様にさらに強く固め。呼ばれたリーブルの執務室をノックした。


「入りなさい」


「失礼します」

いつも通り、抑揚のない落ち着いた声を合図にオネットは扉開いた。

中に入ると、積まれた書類に囲まれたリーブルと視線が合う。


「最後の反省文だね、卒業おめでとうオネットくん」


「人を問題児の様に言わないでください」 


「はは、安心したまえ。僕は君を問題児と思っているが優秀であるとも思っていいる。むしろ偉大なものほど型には嵌らない感性を持ち合わせている物だともね」


その言葉はオネットには思っても見ないもので。面食らってしまった。婚約話後、幾度も直接話をする機会が会ったが。この様に何の裏もなく褒める様な事を言われたのは初めてだったからだ。


「どうなされたのですか?今までと雰囲気が違います……何か企んでいますか?」


「企んではいない…ただラシラス家とアシヌス家にとっては喜ばしくは無いことを考えついてしまっただけだ」


「喜ばしく、無い事……」


オネットは更に疑問が募り思わず聞き返してしまった。

そんな反応を示すオネットにリーブルは穏やかに理由を述べた。


「君とクラージュの婚姻は両者の繋がりを強めるために必要不可欠だったんだ」


「婚姻がなくともすでに随分親しい関係にあると思いますが……」


「政治的方面でだよ……」


リーブルは席から立ち上がり。窓から外を見た。放物線を描く白い柱に囲われ街の様子は見えないが。柱の間から見える青空とあいまえば幻想的に見える。


「ルガルデが殺され、総帥の入れ替えがなされてから、貴族間での派閥争いは年々酷くなる一方だった。」


ルガルデ、幼い頃オネットに僅かな期間だが魔術を教えた人物だ。その人物は魔術師総会の学園を卒業しエグレゴアの学問を受けていないにも関わらず。当時のエグレゴア総帥から直接指名を受け異例の総帥就任を果たし。魔術師会あるいは貴族の間で大きな話題になった。


「やはり殺害されたのですね……まだ表だって事実の公表はされていないのに、私にお話しされて良いのですか?」


オネットは当時を思い出す。突然の悲報、ルガルデは今まで見てきた魔術師でもっとも優れていると幼いながらに感じ、そして今でもその評価は変わらない。

そんな敬愛する先生が魔術実験で死亡したなど考えられるはずがない。それも世界最大の防御術を含むリガール魔術を行使できる人物がだ。

 

「君も、もうすぐ耳にするだろうからね。……エグレゴアはグランの巣窟だ、奴が死ん後でも未だ関与したもの達を摘発できてはいない。証拠を破棄し、地下内で非引導的な実験をしていた者達を匿う貴族もいる」 


「……」


「君や、クラージュには悪いが。魔術師の核とも言えるラシラス家とアシヌス家の婚姻は現エグレゴア。ひいては他の貴族の圧力にもなりうる」


「それは、かなり早い段階で決まっていたことですよね、なぜ卒業を控えた段階でお伝えになられたのですか?」


「元々は年の近い子同士で、進める話だったんだ。君とジュスト。あわよくば学園で恋仲、せめて友人くらいにはなってほしいと思っていたが。芳しくなかった様なのでね。いつでも変更できるよう様子を見ていたんだ」


ジュスト恋仲。それを聞いた瞬間オネットはゾワリと悪寒を覚えた。

 

「何より、魔術の勉強に専念して欲しかった。君の入学を早めたのは、何も魔術師長の娘だからではない。ルガルデからも評価された君の才能を認めていたからだ」


「そこまで、考えられた婚約話だったのですね……」


敬愛する先生の死、そこから始まったエグレゴアの歪みを少しでも抑えるべく結ばれたものなら。オネットも真剣に向き合わなければいけない。


漠然と家同士の取り決め。その嫌悪感からまともに話を聞いていなかったのはオネットであると痛感した。


「しかし、流れと言うもんは変わるものだ」


反省からか心痛な表情になったオネットにやけに明るい声が落ちてきた。

リーブルは窓を背に穏やかな表情をオネットに向けている。


「流れ?」


「グランは死んだ。そして残された魔術師…残党といった方が当てはまるかな。彼らも突然のことで、隠しきれない綻びを表し初めている。今や二代勢力から挟み撃ちになっている状態。圧力をかけるより、絞り出す方が手っ取り早い」


「……それは」


「私はね、もう婚約をする必要はないと思っているんだよ。それよりも、もっと君には魔術師として活動してもらった方が良いともね」


これほどありがたい言葉はない。今までオネットがアシヌス邸に通い詰めたのはこの言葉を聞くためだったのだから。


「それは、お父様も了承を…」


「いいや、まだ私の一存でしか無い」


「そう…ですか」


まだ確定では無い。その返答にガッガリはしなかった、むしろ少し興奮しかけた心を落ち着かせる程度のもので。オネットはため息とも言えぬ息を吐いた。


「魔術師長は、父として君の婚姻先をアシヌス家から変更する必要は無いと思っている。そして願わくば、安全な総会本部にその身を置いてほしいと…」


オネット眉間に皺がより、複雑な心境を物語っている。


「アシヌス家との婚姻を拒否するのであれば君が直接、魔術師長に娘として話しをしてほしい。アシヌス家はラシラス家からの申し出を断る理由が無い」


「わかりました」


何の淀みもなく発せられた声に、リーブルは苦笑した。そして自身の執務机に戻り引き出しから封書を取り出す。


「そして、もう一つ。魔術師として君に依頼したいことがある」


「依頼ですか?」


差し出された封書をうやうやしく受け取り、オネットは中身を確認して良いかとリーブルに尋ねると

「構わない」と了承をもらい、オネットは中身を確認した。


「禁足地の調査依頼……これは」


禁足地のこともオネットは知っている。魔力の流れが起きず、溜まり場となり圧縮した魔力によって。人も動物も呼吸を許されない場所だ。


そしてそれが、近年増加状態でる事も。


「グラン総帥がおこなった魔術実験が関与している…と言う事ですか」


「ああ、君は短期間とわいえ、ルガルデの教えてを受けた子だ。彼が禁足地の魔力循環について研究していた事は知っているだろう?」


「勿論です!」

オネットは食い気味に答えた。本人からは研究段階であると言われて詳しくは聞けなかったが、残された論文を読み漁ったオネットはリガール魔術にその手段があると知っている。

 

「今回依頼する内容はグランが実験を行ったであろう禁足地の調査。それとまだ研究途中のリガール魔術の試験も兼ねて、君にはその補佐を頼みたい」


「補佐を?……私でよろいんですか?リガール魔術を行使したいと、ルガルデ先生に教えをこうた魔術師は多くいらっしゃいましたよね。それに、こんな卒業したばかりの魔術師は尚更足で纏いになります……」


本当は受けたくてたまらないが。現実的に見てオネットの実力は魔術師会で下の方に位置する。

もっと相応しい魔術師は大勢いるのだ。


「魔術の熟練レベルはこの際必要はあまり無い………調査の肝はリガール魔術を行使できる者がどれだけその魔術と向き合えるかにある」


リガール魔術師を行使できるもの……その言葉にオネットは卒業パーティーで見た金髪の青年を思い出した。


「君は優れた魔術師に嫉妬した事はあるか?」


「あります。何故その様に使いこなせるのか、知りたいと思います」


「知りたいと思う、その前にどんな感情がある」


「感情?……」


それは考えても見ないもので。オネットにはサッパリ思い浮かばなかった。

ただ知りたい、話したい、聴きたい。突発的に起こる興奮状態は、オネットの長年の悩みの種だ。


「嫉妬と妬みは違う。僕は君の魔術と向き合う姿勢をどの魔術師よりも高く評価している」


今日は槍でも降るのか。そんな言葉を言われたのは、いく年振りだろうか。


「魔術師オネット・ラシラス。この調査に必要なのは君だ」


リーブル(理事長)とここまで視線を合わせて話たの初めてかもしれない。そう思う程、黒曜石の様に黒い瞳からは。淀みを一切感じ取れず。背後に広がる青い空と同じ光を見ている様だった。


「はい、喜んでお引き受けいたします!」


空は雲一つ無い晴天だった。

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