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くいかえし  作者: Kot
スイトピーの様な
42/101

2−16 面影を持つ魔術師

パーティーが終わり、静かな夜が始まった。


「疲れたー」

「足が痛い」


アルメとローリエは怒涛の一日を終え、厨房の裏口で座り込んでいた。

魔女騒動は使用人の間で広まる事なく収まり。そしてカーシェと言う使用人は持病の悪化のため、一時実家に帰宅する事になったと伝えられた。


実際は違う嘘の内容なのだが、ここ数日体調が思わしくないカーシェの姿を見た者が多く、疑問に思う物はいなかった。また、パーティー会場の準備日や当日も休む暇が無いほどで。その忙しいさが幸いしたのかほんの少しの疑問を抱く事や考える暇もなく。カーシェの事は思考の外に追いやられた。


ローリエにカーシェの事を伝えたのは。パーティーの仕事がひと段落したついさっきのこと。

短い間でもお世話になった人物の事をどう伝えたものかと悩んだが、アルメはありのまま起きた事を伝えた。しかし、ローリエの反応は思っても見ないものだった。


「カーシェさん?……誰だっけ?」

「はい?私たちに仕事を教えてくれた人だよ…………クッキーもくれた……」


そう言うとローリエは腕を組み頭を悩ませている。ここまで言ったのにその姿が思い浮かばないとは、アルメは今までに無いほどローリエの頭の中身を心配した。


「うん、その人はいた。けどなんかピンとこない。こう……」

ローリエは目を閉じて、頭を捻り絞り出す様にそう言ったあと、くねくねと体を動かして何かを表現しようとしている様だ。


「モヤの様な、あれ忘れたかも」

「お前、大丈夫か?頭」


「うーん、多分カーシェさんが、魔女だからかな」

「魔女だと忘れてしまうのか?」


「ギルドでさぁ、ラシオンさんがたまに蘊蓄を自慢するんだけど……」


「自慢してるわけでは無いだろうけど」


「魔女はそもそも、人の記憶に残る媒体では無いって……」


「「どう言う意味?」」


何故か言った本人すら聞き返す反応そ示し、アルメは呆れた。


「自分で言ったんだろう」

「どう言う意味だろうね、わかんないや」

あははとまるでふざけた様に言うローリエ。普段ふざけているが、道徳に対してはわきまえた行動をとる程度に人間をやっていると思っていたが……疲れたからそれすらできない状況になってしまったのだろうか。

いや、きっとその道徳心が作用しないほど。カーシェの事を思い出すことができないだろう。

まるで意図して思い出すことができない様にされている様でアルメはゾッとした。


「……なんとなく、わかったかもしれ無い」


「へえー、どう言う意味?」


「でも、私はしっかり覚えてるんだよなぁ」

「無視かい?」


新たな疑問が生まれ、思案したが。そもそも、魔術の心得がないのでさっぱり思いつかない。

アルメはローリエと自分の違いを思い浮かべた。


(違いと言うか。あの夜ローリエがいなかった事くらい…………)


「ねぇーアルメさーん」


 モヤモヤとしたアルメと疎外感を覚えたローリエ、そんな二人に厨房にいたシェフが声をかけた。


「二人とも、休憩は終わりだ。もうすぐ皿が来るから洗ったら今日は終わり。あと少しだから頑張ってくれ」


「「はい」」


短い休憩を終えてアルメとローリエは立ち上がった。













  

ソファーでくつろぎ、本のページをめくるリベルテの足元には、白髪の男が拘束されており、モゾモゾと扉に向かおうともがいている。


この男のお守り役を買って数日が経った。食事が目の前になければ、何かを求めて何処かえ向かおうとする男。観察してわかった事は、やはり何を考えているかわからないと言う事だ。


行動は全て同じで。まるでそれしか脳内にないかの様に動く存在。人形というには自由に動き回る男はしかし、退屈なこの場所では多少気を紛らわせるのに一役買っている事に間違えはない。


これも()なのだろうか。少なくともリベルテはそう受け入れいるが。今夜のパーティーで久々に見た男の反応に、リベルテは手元の本をめくりながらも頭の片隅で思考を巡らせていた。



アルメ、その名前に反応したからか。それとも魔女の残り香(魔力)に反応したからか。

突然現れた少女を見て、先日学園の方向から感じた魔力の流れを思い出す。

昨夜は特に彼が動きまわて大変だった。


リガール魔術の魔力抑制陣を使用しているはずなのに。彼は拘束魔術を破かん勢いで暴れまわるので。何重にも壁から伸ばされた、半透明の鎖で繋いだ。

異変を察知したリーブルが部屋を除きに来た時には。男は逆さまに吊るされ、蜘蛛の巣に捉えられた様な姿になっており。その時のリーブルの苦笑が記憶に残っている。



「君は、なんなんだろうね……」


ゴロゴロと転がる姿は魔女の弟子によって子供の姿にされた時なら、多少可愛げがあったろう。

しかし今の成人男性の姿でそれをやられても、ただただ奇妙なだけである。


そんないつも通り男の行動を視界端に監視しながら本を読んでいると。扉がノックされる音が響いた。


「どうぞ」


手元の本を閉じそう言うと。リーブルが部屋の中に入ってきた。


「異常は無い様だな…」


彼の姿を見てそう答えたリーブルは。扉前で転がる男を避けリベルテに近づ相手いるソファーに座った。


「何かわかったか?」


閉じた本を片手に持つリベルテにリーブルはそう声をかけた。


「あまり、学生時代の落書きに近い」


リベルテが手に持っている本は。卒業パーティーで会ったラシオンの令嬢、オネットが話したリベルテの父ルガルデのメモ書きが書いてある本だ。気になったリベルテがリーブルに話すとすぐに本が貸し出された。


「そうか……そのはルガルデのお気に入りでな。初めて借りた時、うっかり書き込んでしまったらしく。すぐに買い取ったんだ。卒業時に思い出として。再び学校に贈呈したんだ、恥ずかしさからか、あまり目に入らない場所に差し込んであった様でな。私も本の名を聞くまで忘れていたが、目につく学生はやはり手に取る本らしい」


リベルテはそっと本の表紙を撫でた。著者の名前は見覚えがあり、有名な魔術師の名が書かれている。


「そうだね、内容は面白い」


「あのあと君がすぐにその本を確認したいと言ったのは驚いた」


「手帳復元の参考になると思ったからだ。それに父さんが読んだ本には興味があった」


「そうか、私の覚えている限りで持ってこさせよう」


「父さんが、学生時代に読んだ本は数十冊程度なの?」


リーブルは若い頃の弟弟子の姿を思い浮かべた。毎日毎日数冊の本を借りるために図書館に通い詰める姿。


「……いっそ図書館を君の部屋にした方が早いか、今は長期休みに入っているから丁度よい」


冗談だろう……しかしこの男はそれをしてしまう、危うさがありリベルテは制止した。


「僕にそんな時間はないでしょ、確か一周間後に調査を開始しする予定だった様な…」


「そうだな、手帳の復元は調査中も行って構わない。実際に魔術を使うことで見えてくる物があるだろう」


それを聞いてリベルテは安心した。実際に使用実験ができると、できないとでは掴める感覚も違う。


「色んな人が話かけてきたけれど、僕と一緒に向かう魔術師はどの人なの?」


「……少し、悩んでいる」


「……一週間後なんだよね……」


「一人は決まっている、あと一人、少々性格に難があってな。研究熱心で優秀なのだが……君と会うかどうか……」


リーブルは顎に手を添えジッとリベルテを観察する様に見る。居心地が悪い視線に目を逸らすと、リーブルは微笑みこう言った。


「これも、実際に会えばわかるか。問題があれば、別の魔術師を付けよう……」


「誰でも大丈夫だよ……僕は気にしない」


「そうか……」


リベルテは一つ気になっている事を思い出してリーブルに尋ねた。


「そういえば、彼はどうする?」


床に転がる彼を見る。今だに、もがき続けている男は。リベルテが魔術抑制陣を使用しているため魔術を使用する事ができないが、リベルテが禁足地を解除するためにルガール魔術を使用するとなると。

誤って魔術を解除してしまうかもしれない。


使い初めてまだ数週間の物だ。実際エグレゴアに地下からグランの結界内に転移させられた。あの時は魔力も多少回復した程度。距離もあったため、何かしら魔術の穴を見つけ彼が魔術を使用する事ができたのだろう。


「言い難いけど、調査中ルガール魔術を使うとなると。僕の魔力の消費量次第で、彼は魔術を解除してしまうかもしれない、彼の魔術はどうにも相性が悪い……」


「ああ、知っているよ、魔術を使用した時確認できた」

リベルテは彼が防御壁を突破しようとしていたのを思い出した。そのあとかけた拘束魔術で彼の魔術の構想を見たのだろう。


「それも、決めてある。調査中、君が研究に専念できるよう、彼には護衛役をしてもらおう」


「護衛?彼が?」


リベルテはリーブルがなにを言っているのかわからなかった。彼がリベルテを守る行動をとるとは思わなかったからだ。

しかしすぐにある可能性に気付いた。


「まさか?すでに決まっている一人って」


「君が言ったんだろう。彼女の言葉なら聞くんだと。実際君たちがここに(魔術師総会)に来るまでは、魔術抑制陣を使わずとも彼は大人しかった様だし」


確かにアルメとはコミュケーションをとれている様に見えたが。道中まるで聞き分けのない生徒を相手にしている教師の様なアルメばかり見ていたので。ハッキリとは言えない。


「……まぁ知らない誰かよりもマシか。どちらにしろルガール魔術は僕しか使えないし……」


「そうだろう。それに君にはあまり気を張って欲しくないんだ。その方がルガール魔術と向き合えるだろう」


「……そう、心遣い感謝するよ」


どうしてここまで気を使うのかわからないが。実際、パーティーで受けた哀れみの視線を受けるより、アルメや彼の様に、ある意味で無関心の方が気が楽だ。


「ん?ねぇさっきの口ぶりだと、二人ほど、僕と調査をする予定なんだよね。その性格に難のある魔術師って彼のことではないでしょ?」



「ああ、彼を入れていなかった……」

初見から思っていたが。どうにもリーブルは彼を人として認識できないらしい。

それはリベルテも同じだが。目の前でそんな事を言われている男は今もなおゴロゴロと転がっている。


「その魔術師って、どんなの?」


別にどんな性格でも構わないが。自分よりアルメがその魔術師と合わない可能性があるため、騒がれるのはごめんだとリベルテは思った。


「そうだな……強いて言えば……」

リーブルは少し悩んだが、すぐに微笑みを浮かべてこう言った。


「ルガルデに似ている」

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