2−10 隠された魔女
二日後、仕事を終えたアルメは与えられた、使用人寮の部屋にて窓を開けて月の光を浴びていた。
「湯冷めするよ」
寮の受付にギルドからの手紙の返事が来ていないか確認していたローリエ、風呂あがりの少し湿った赤毛を左右に揺らしながら、ヘナヘナとベットに倒れ込んだ。
「今日は丁度良い」
夜風に靡いた短いアルメの黒髪はすでに乾いておりサラサラとなびく、ローリエはそんな爽やかな光景をうつ伏せの状態で恨めしそうに見て呟いた。
「いいなーサラサラ」
「なんだよ、普段ボサボサの寝癖まみれで受付にいるくせに」
「ここはオシャレさんが多い、なんかみんなキラキラしてるんだもん、無いはずの自尊心が芽生えた」
「自尊心無かったのか……」
寝る前の何気無い会話、リーブルからの計らいでローリエと同じ部屋になったのは唯一感謝すべき事だとアルメは思う。
まだ、新人だった頃、ローリエとこうして何気無い話をしていたのを思い出し、アルメは少し懐かしい気持ちになった。
「ギルドからは連絡来なかった?」
「まだ来て無い……届いて無いのかなぁ」
「もう直接言いに行った方が早いかもな」
残念ながら高い放物線の壁で見えないが、実際ここからギルドまで、数十分で着くのだ。
「はぁ、おやすみ」
ため息を付いてローリエは布団の中に潜って行った。疲れているのであろう、ギルドの受付とは違い途中で昼寝をする余裕などないのだから。
「ここに入れば鍛えられそうだな」
「無理ぃ〜」
そんな言葉を最後にローリエは本格的に眠り初めたので、アルメも寝ようと布団に入る事にした。
少し窓を開けて眠る、あるはず無いと思うが、またあのズルズル滑る音が聞こえないとも限らない。
秋の風は寒いが、今晩はふかふかの布団い潜ると丁度良い。
「……」
ザッ
「……」
ザズ
「んー」
ザザザザ
わずかに聞こえる音、それが滑り落ちた音になった瞬間アルメは飛び起きた。
「ローリエ、ちょっと出てくる」
「ぅご」
パジャマを脱ぎ捨て、そばに置いてあるいつも来ていた上着と短パンに着替え、窓を大きく開き飛び出した。ローリエは普通に出ろよと思ったが、アルメがスタイリッシュに出たの深夜に外に出るには受付で理由を話す手間があるからだ。
正直、頼みごとをしているので、また涙目になる前に迎えに行きたい。
「オネット」
「アルメさん」
夜中なので声を潜め、アルメはオネットが待つ塀の向こうへ飛び降り、合流した。
「見た?」
「はい、捕まえました」
ニコニコと良い笑顔でそうゆう物だから、アルメは目を見開き呆気に取られた声を出した。
「捕まえたの⁉︎」
「はい!」
まさかそこまでしてしまうとは。アルメは驚きながらもオネットの案内の元、魔術学園の敷地に訪れた。
その学園も白を基調とした建物で、ドームの様な屋根が印象的でお城の様だとアルメは思った。
正門は閉まっていたが、オネットは特に気にする事なく門を登って中に入ってしまった。
「なんか、セキュリティ緩くないか」
「まぁ、総会本部に入る事が難しいですからね」
オネットは星が輝く夜空を見上げた。
「本部を覆う防御壁は、何百年もかけて何千と言う魔術語が組み込まれています。残念ながら、管理をしているリーブル総帥にしかその全容が理解出来ません、羨ましいですよね」
美しい星空、普段は目で見る事が出来ないその魔術をアルメは一度だけ目にした事がある。本部に入る時まるで雷の様なその幕を通り抜けられるのか不思議だったが、どうゆう仕組みか痛みは愚か、何かに触れた感覚もなく通り抜けてしまった。
それを思い出し、アルメ魔術とゆうもが普段自分が使っている魔術具の性能だけでは測り知れない物なのだと思った。
「ここです」
オネットに連れられ着いたのは、古い一階建の建物だった。古いと言っても手入れは入っている様で、外壁は塗装が少し剥がれているくらいで中庭の雑草たしっかりと刈られていた。
「綺麗だね」
「ええ、たまに魔術実験を行う際に使用されます」
へーっと合槌を打つとオネットが再び歩み始めたのでアルメも後ろを付いていった。
「この校舎の中に?」
「いいえ、ここです」
そう言いオネットは中庭の付近で立ち止まると、背丈程の杖で地面を着いた、杖の魔術語の一文が光輝き地面に陣を表す。
その光景にアルメは驚き一歩二歩と下がる。すると魔術陣の現れら地面が隆起し土を巻き上げながら黒い木製の箱が現れた。
その箱は縦長く大人一人が入れるほどの大きさで、アルメは棺桶を思い浮かべた。
「大きいな」
「ええ、この中に」
「オネットが入れたの?この木箱に?」
「いいえ、この前拾った針を頼りに探索魔術を使ったのです。結局拾った場所に導かれてしまって、検討違いかと思ったんですが、試しに地中に魔力探知を行ったんです、そしたら見事にアタリまして。地中から出てこれな様に対象に拘束魔術を使用したんです」
目を見開き少し鼻息荒く語るオネットはさらにこう続けた。
「私も姿を見るのは初めてなんですが、この中に大きな魔力の渦を感じます、間違いなく魔女かそれに付随する物です」
「魔女本人がこの中にいる可能は……」
「0ではありませんよ、魔女は魔力生物とも言われています、魔力さえあれば、何千と生きることもできますし、逆に言えばこの場所の様な常に大きな魔力の流れが生まれる場所は格好の餌場、地中に身を潜め魔力を得るのはるのとても良い案です」
「そう、そうなの」
その相槌はアルメがしたものではない、近づくまでは気づく事が出来なかった、ゆっくりとした土を踏む音と共にその人は暗闇から現れた。
「カ、カーシェさん」
「今晩は、アルメちゃん」
驚き固まるアルメとオネット。
「アルメさんあの方使用人の制服を身にまとっていますけど」
「私とローリエの先輩」
「そんなに驚かなくても、初めてまして学生さん」
オネットは返事を返さなかったがやがて何か結論を出し、目の前の人物からアルメを守るため一歩前にで杖を構えた。
「オネット?」
「アルメさんあの方は魔女です」
「なんで⁈」
オネットがそう判断した事に対する非難の声ではない、短くとも良くしてくれた先輩に対する物だ。
「私、ヒヤヒヤしたわ、甲冑を運び出した時、急にアルメちゃんが現れたから」
カーシェは下を向いたまま一歩とまた近づく
「それに、全く魔力も無い子の教育を任されて、全然足りない」
何が足りないのか、そのセリフは、彼女が魔女であると仮定したら当てはまる単語がある。
「アルメさん下がってください」
下がるも何も後ろには木箱、しかも中には魔女がいるのではないか混乱する頭は考えたくもない答えを出した。
魔女が二人いるこの総会本部内に。
「オネット逃げるぞ」
「いいえ」
部が悪い、そう判断したアルメはオネットにそう言ったがオネットはその提案を拒否した。
訝しげに彼女の横顔見れば、口角が上がりオネットからは恐怖を全く感じなかった。
「後ろにもいるのに、一人でどうすりの、私は魔術は使えない」
「大丈夫ですよ、こう見えても私、強いんです、だって私は」
榛色の瞳を月の光で輝かせ、オネットは宣言した。
「歴史に名を刻む、魔術師になるのだから!」




