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くいかえし  作者: Kot
スイトピーの様な
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2−9 オネットの好奇心


 次の日、アルメは朝早く縫製部に訪れたが昨晩ローリエと話していた様に残念ながら学園に届ける衣類は、昨日で最後だったらしく、学園に堂々と訪れる機会はない様だった。


(困ったな)


真っ白い塀に眩しい青空の光が反射し、洗濯紐に吊された衣服は呼吸をする様にたなびく。

そんな清々しい日にも関わらずアルメの表情は暗い。


数日で慣れてしまった使用人生活は、はっきり言ってつまらない。もとより幼い頃から狩りや畑仕事をしていたので、現状は有り余る体力を持て余すばかり。いっそ邸内を外周してやろうかと思うが、そんな事をしても満たされるとは思えず、何より今より窮屈な立場になるのではと想像できてしまい、想像の中で止まる程度の考えだった。


バサッバサッと洗濯の皺を伸ばし、紐にかける洗濯籠が空になったら次は研究棟から沢山のローブなどの衣服が届く。今日一日は洗濯類中心の仕事だ。


仕事とはこうも窮屈な物なのか。


青空を見上げ、まるで自身が鳥籠の中の小鳥になった気分でいた。


雲の無い空を見上げ少しの息抜きをしているとふと外壁の向こうから人の足音が聞こえた。

巡回している士団員のものかと特に気にしていなかったが、ザリザリと地面とブーツが滑る音が響き、まさか何者かが壁を登っているのではと不安になった。


しかしその音の主はいつまで経っても塀の向こうから顔を出す事はなく、幾度も壁を滑り落ちる音が聞こえるのみ。


(見てみるか)


士団の者であれば滑稽だが、しかし諦める様子の無いその精神にアルメは心あたりがあった。


「よぉっと」

勢いをつけて壁に足をかけ、大股でタンタンッと足を伸ばして壁をかけ上がる、重力に落とされる前に、両手で塀に手をかけ体を起こして勢いに任せて体を塀の上に乗り上げると、塀の向こうがよく見える。


「何してるんだよ」


塀の下、服が汚れるのも構わず、両手と体を塀に付けたままの姿は今し方滑り落ちたであろう事は想像がついた。


「アルメさん」


オネットは少し涙目になりながらも数日ぶりの再会に笑顔を浮かべた。


「すいません引き上げてくださいますか?」


「いや、正面から回ってくれば」


まるで突き放す様な言葉だが、今は勤務中、オネットには申し訳ないが彼女のお願いを聞く事はできない。


「入れないです」

「なんで」

「出禁になりました」


そんなこんなでアルメはオネットを引き上げる事にした。

全身の筋肉を使いオネットの両手を掴み引き上げる、塀に手をかけさせたので後は自分で上がれるだろうと、手を離したが、オネットはぶら下がったまま動かない。


「……」


アルメは無言で塀の外に降り、今度は下からオネットを持ち上げた。

「ううっあと、少し……うぉ!」

足を塀に上げ前にめりなると同時にオネットはバランスを崩し塀の下に落ちてしまった。

「オネット!」

アルメは慌てて塀を登り塀の向こうを確認するとオネットは服を叩いてこちらに笑みを向けた。どうやら無傷の様で聞けば、風魔術で衝撃を和らげた様だ。


「魔術でのぼれ無かったのか?」

「この外壁、魔術を通さない仕組みになっているんです。外壁の頭上に魔術を通す事もできません、風魔術も元々範囲が広い魔術なので、外壁のそばでは人一人をこの高さまで浮上がらせるのは不可能なんです」


オネットはニコリと微笑みそうアルメに教えた。


「へー」

「それよりアルメさんお会いできてよかった、まさか外壁のすぐ向こうでお仕事されているなんて、今日ほど幸運な日はありませんね」


ニコニコと満面に笑みを浮かべ、アルメは両手を握られ相変わらずの圧に戸惑ったが、確かに他の使用人だったら、大きな騒ぎになっていたかもしれない。何せ出禁になっているのだから。


「聞いても良いかな、出禁の理由…」


「えぇ、対した理由では無いのですよ、アルメさん達と会った次の日も私は確認したいことがあったので、ここアシヌス邸に訪れたのですが、門前で「今は忙しいから、こちらから呼ぶまでは来るな」と守衛の士団員に言われまして。あぁこれは先伸ばして、うやむやにされるのではと……」


話している途中だんだんと暗い顔を作りそして眉を吊り上げ怒っているのが伝わった。

彼女が婚約話で困っているのを知っているアルメは少し同情したが、本当は対した理由ではないのを安心したの方が大きい。何せアルメがオネットを敷地内に入れたのは他でも無くオネットに頼みたいことがあるからだ。


「そうか、出禁て言うほどでなくて安心したよ、オネット……実はオネットに聞きたいことがあるんだ」


「聞きたいこと?……なんなりと!」

疑問の表情を作ったが一瞬でパァと花が咲く笑みを作り、内容を聞いていないにも関わらず随分と協力的だった。アルメは頼もしく感じ、これまでの経緯を掻い摘んで話した。



「動く鎧……」

話を聞き終えたオネットは、そう呟くと何かを考える様なそぶりをした。


「何か心あたりある?実際に見た、とか」


「いいえ、ただ気になることが一つ」

そう言うとオネットは話し始めた。


学園が長期休みの現在でも、毎日の様に学生寮から学園内にある図書館に通っており、その帰り道一度だけ不可解な事に出会したらしい。


 

その日、いつもの様に返す本を持って図書館に訪れたが、借りたかった本がよく行く西棟の図書館にはなかっので、仕方なく他の図書館を見て回った、結果東の小さな図書室に保管されており、安堵したオネットはついでにあまり来る機会のない場所だからと門限ギリギリまで、図書室に入り浸っていたのだ。その帰り、近道になる旧校舎を通り抜ける事にしたオネットは、薄暗い中庭で、外套に照らさせ、反射する物を見つけたらしい。急いでいたが好奇心が勝りその正体を近づいてみれば小さな針が幾つも周辺にばら撒かれていた。


「針?」

「ええ、実物は私の部屋に保管しているのですが、丁度三センチほどの極細の物で、よく観察してみると、注射針の様に中が空洞になっていたのです」


「普通の針だったらだけかがぶち撒けたと思うけど、注射針なんて」

施設内にも医療機関はもちろんのことあるだろう、しかし、おそらく使用されていない旧校舎の中庭でそんな物が落ちているのは不可解だ。


「それとですが、何本か調べて見ましたら、どれも使用済みの様で」

「イィってことは、血が付いていたのか⁈」


「ええ、気持ちが悪いので一本だけ残して後は捨てました」

そこで全部捨て無い所にオネットの好奇心がどれほどの物かを見誤ったことがわかった。


学園内で起きていることを実際の生徒から聞けたのはよかったが、実際は動く鎧の関連性は見えてこない、やはり頼むしか無いとアルメは申し訳無い気持ちになるながらお願いした。


「オネット忙しい所悪いんだけど、その動く鎧、実際に見つけて欲しいんだ……」

「私が?」

「見て、噂話じゃないってことだけ知れたらいいんだ!お願い」


「いいですよ」

手を合わせて懇願するアルメにオネットは微笑んで承諾した。

そして……


「むしろ暇で暇で仕方ないので、今軽い軟禁状態なので、ワクワクします!」


聞き捨てならない言葉が聞こえたが。本人が乗り気なので、アルメは聞き返すのをやめた。

それはそれは、軽い軟禁です

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