2−2 オネット
オネット、そう名乗りアルメ達に自信の身の上を話始めた彼女。
やはり育ちが良い様で、人の少ない酒場の椅子に座ると。頭のフードを外し、背筋を伸ばし自己紹介した。魔術師総会が設立した魔術学校の生徒でもうすぐ卒業することそれと同時に十歳も年上の人物と婚約しなければならないと親にきめられてしまった様で、彼女は話ながら高く一つに束ねたベージュの長い髪を左右に降り、自身がどれだけそれが不服か、初めてあったアルメ達に訴えている。
「考えられません!ようやく卒業できる時に婚約しろなんて!自分の親とわ言え考えが古過ぎます!
それも十歳も年上ですよ!おじさんじゃ無いですか!」
「オネットさんは今何歳なの?」
「十七歳になります!私、十一歳で入学したんです、だから通常の人よりも年下なんですよ」
彼女が言うには、魔術師学校は十二歳から入り、そこから六年間学ぶ事ができると言う。
彼女は親が有名な魔術師で彼女自身も幼いうちから才覚を表し、早くの入学が認められた。
(二十七歳はおじさんなのか……)
「それに私、やりたい事があるんです」
オネットは眉に皺を寄せる、感情が顔に出やすいのだろう。
彼女は拳を握り締め、高らかに掲げ宣言した。
「私!自分の魔術を作り上げたいんです!ルガール魔術や古代魔術の様に、私だけしか使えない魔術を!」
椅子か立ち上がり、まるで大舞台で演説を終わらせた後の様に力強く、そして凛々しい顔付きにアルメとローリエは拍手を送った。パチパチと息が揃っていない拍手だがオネットは満足し、笑顔を浮かべ椅子に座るといずまいを整えて、再び真剣な顔に戻りアルメ達に訴える。
「婚約してしまったら、本格的に研究に専念できなくなります、それに相手の母親は魔術に関して一切の興味が無い方、女性には不必要と私が魔術師をする事に難色を示しておられました」
アルメはピンと来なかったが、婚約した後の貴族の娘は相手の家に属するため、娘の指導一切は後に義母になる人物に任せられる。嫁いだ家の慣習を学ぶ花嫁修行と言えば聞こえは良いが、実際は義母の趣味嗜好に合わせなければならず、気が合わなければ辛い事なのだ。
オネットは両手で手を組みアルメに視線を送る。
「お願いします、貴族席の身分証では直ぐに居場所が見つかって連れ戻されてしまいます。
冒険者ギルドの身分証が必要なんです!」
ずいっと体を近づけ圧をかけてくるオネット、しかしその表情は少し泣きそうで、彼女が追い込まれている事が伝わった。
「だってアルメ」
ローリエはアルメに視線を向ける。二人の視線を受けてアルメは口を引き結ぶ。
(やっぱり、私が決めるのか)
貴族のことだ一市民ですら無いアルメが手を出して良い話ではない。もしもオネットが冒険者になっても恐らく直ぐに見つかってしまうだろう、そこからオネットがいくら口添えをしても、オネットの両親や婚約者予定の相手にアルメが詰められることは想像できたし、貴族の女性が魔術師とは言え冒険者になる事は外聞は悪いだろう、その火消しのためにアルメを誘拐犯にしてしまう事もできる。
何より……死亡してしまったら。
アルメは自身に降り注ぐ、災難を想像して身震いした。
「どしたの?」
キョトンとした顔でローリエは言う。その表情はいつも通りで自信がどれだけ無茶振りをしているか気づいていない。
アルメはとりあえずその足りない頭に軽くデコピンをした。
「イッタ」と額を抑えるローリエから、こちらもキョトンとした顔しているオネットに向き直りアルメは言った。
「無理だ」
「そんなー!」
オネットはガバっと立ち上がりさらにアルメに詰め寄る。
「どうして!」
「同情はするよ、でも私が手を貸していい事じゃ無いんだ、オネットさんは貴族でしょ?」
「どうして……」
オネットは顔を青ざめさせて、アルメ達から一歩離れる。
「いや、貴族席って……」
「はっ!!!」
「ああ!」
オネットは両手で口を押さて、ローリエは今気づいたようで、片手に拳を乗せてポンと良い音を鳴らした。
「そそそそそそれは!大丈夫です!私がお願いしたって言えば!アルメさんになんの被害もありません」
「いや、お願いを聞いてくれるなら、ちゃんと話あった方が」
「それができないです!」
今度は床に膝を付けて机に突っ伏しってしまった。なんて忙しい子なんだとアルメはオネットを同情する様な目で見てしまう。するとローリエはアルメを突く。
「前は貴族の男をギルドに紹介した癖に」
口元を少し尖らせ、ツンツンと肩、腕、脇腹と狙ってくるので、アルメはその手を鷲掴みにし内心イラつきながら答えた。
「アレは仕方なくだろ!あの段階は噂話出だし、今も本当かどうかもわからないんだから」
ローリエの手を投げ返す様に解放すると、ローリエはその手をさすりながらまだ何か言いたげな視線をアルメに向ける。
「私……」
またデコピンをしてやろうかとか、そのおでこに狙いを定めると突っ伏していたオネットは喋り出した。
「私……居場所がないんです……」
「居場所?」
「母が亡くなって、その直ぐに父は継母と再婚しました。継母には私の2つ下の娘がいて父はその子の事をすごく可愛がって、何故か私はほったらかしで」
(そ、そんな話しないでー!)
突然始まったオネットの話は、さらにアルメの同情を掻き立てた。
「十一での入学も、私を早く追い出したかったんです、だから……」
「オネット!」
暗い表情をして俯き語る彼女は、名を呼ばれ顔を上に上げる。今度はアルメが椅子から立ち上がり、オネットっを見据えた。
「わかった!」
「ほっほんと」
「そこまで」
喜ぶのあまり床か立ち上ったオネットの言葉を低い声が遮った。
声の主はいつのまにかそこにいたのかアルメ達のすぐ近く、オネットとアルメ達が座る席の目の前に腕を組み仁王立ちをしていた。
「ギっギルド長」
アルメはギョッとした声を上げるが、直ぐにハッとし振り返る。しかしそこには赤毛の娘はおらず、受付にも見当たらない。
「はぁー」
ギルド長は深いため生きを吐き机の下に腕を伸ばす。すると机の下から赤毛出てきて、その表情は口元をへの字にし嘘がバレた子供の様だった。
「迎えが来たぞ」
「!」
「む、迎え?」
オネットは顔を青ざめさせて、アルメは首を傾げる。
酒場の奥、厨房につながる扉から大柄の男が出て来た。
「き、騎士団長、何故」
どうしてそこからと言う言葉は出なかったが、その後にゾロゾロとギルド内に騎士服を着たもの達が入って来た。それぞれ、白い服と黒い服の人物達は、魔術師団と王国騎士団の制服
(あ、これ私ヤバいことした?)
了承の言葉を言ってまだ一分も経っていない、もしかしたら了承することすら補導案件なのだろうか。ジワジワと焦る気持ちが膨れ上がって自分の心音を落ち着かせるためアルメは椅子に座り直した。
「リーブル様がお探しになられていましたよ。オネット・ラシラス様」
「やめてください!」
魔術師団の団員が一人近づきオネットの名前を言うがオネットは驚くほど拒絶した反応示した。
ギュッと杖を握る姿は、威嚇している様だった。
その様子に一同は言葉を発せず静寂が襲う。
「はー、今ここで駄々をこねても仕方がないだろう、ギルドの迷惑も考えるべきだ」
ボリボリと頭を掻きながら騎士団長は言う。
その言葉にオネットは下を向き、そして諦めた様に肩を落とした。
「わかり……ました」
「オネット……」
オネットの姿に跳ね上がりそうだった心臓は今度はズキリと痛んだ、余計な事をして彼女を傷つける形になってしまった。微かに震える肩に泣いているのかと顔を覗き込む。しかし彼女は泣いてなどいなかった。口は引き結ばれているが端がわずかピクピクと震えており、目元は閉じられているが、一向に涙が溢れる様子もない。
(笑ってる)
アルメはわずかに驚き目を見開くが、それ以上は出さない様にそっと元の体制に戻った。
どうやらオネットは一筋縄では行かない性格らしい。
「緊急だ、サイモスそこの冒険者、借りてくぞ」
「ああ」
ギルドに属するが冒険者は自営業だ、しかし本人の意識を聞かずに、アルメは借りられる事になってしまったがその言い方から補導じゃない事に安堵する。
ギルド長の言葉に王国騎士が一人近づきアルメを椅子から立たせた。
「あの、何が」
「見ればわかる」
そう言われてアルメはギルドの外に連れ出された。
見ると街に中に透明なドームの様な物が見えた、音はしないがビリビリと雷雲の中の雷の様に光、その光景に見覚えがあり、瞬時に白髪の男の姿が脳内に浮かんだ。
通りの住人がなんだなんだと立ち止まりその光景を眺めている。
「お前を連れて来れば良いと言われてな、時間が無い急ぐぞ!」
「えっうぉ!」
騎士団長自らアルメを担ぎ上げる、背後から騎士達が追ってくる姿が目に入った。
目が合いそうになり、アルメは下を向いて抗議の声を出した。
「自分で走れっ」
「喋ったら舌噛むぞ!」
もう遅い、盛大に舌を噛み痛みを堪える。
誰がアルメを連れてくる様言ったのか想像がつく。アルメは舌の痛みと、息苦しさに耐えながら、リベルテを殴っていない事を思い出していた。




