番外編.リーリエと思い出 5
「問題行動だ」
一人の冒険者がそうギルド長に言っている。
ギルド長は無言になりアルメを見る。
顔を下に向け無言のアルメは数日前からギルドで組まれた討伐隊に所属していた。
大人数で組まれた討伐隊はギルド登録をして一年未満の新人とギルド併設時に結成されたパーティ、ほとんどが元騎士や傭兵で作られたベテランによって育成と補佐をするために組まれた物だ。
「悪いがしばらくは討伐隊に参加させないでくれ」
「ああ」
ベテラン冒険者が去った後アルメはグッと両手に力を込め立ち上がり、去って行く冒険者の背中に謝罪した。
「すみませんでした!」
冒険者は振り返らなかったが片手をヒラヒラと振ってみせた。
ジッと頭を下げたアルメにギルド長は声をかけた。
「もう頭をあげろ」
ボリボリと頭を掻きながら、ギルド長は言いアルメに座る様に指示する。
「問題行動での一時除隊だ二週間程座学やら受けてたら、また討伐隊に入れるから」
「はい、すいません」
肩を落とし、反省の色を見せるアルメにギルド長は言葉を続ける。
「で、なんで戦利品、いや魔獣の死骸を持ち去ろうとした?」
「…………その」
歯切れの悪いアルメ、彼女は討伐隊で解体作業が終わったあと人知れず魔獣の肉を一部持ち去ろうとしたのがベテラン冒険者に見られてしまった。
通常魔獣の肉は、解体後残った肉片は土を掘り埋めるか、焼いて処理するのが基本だ。放置して腐ると悪臭を放つし他の動物が食べたら悪影響があると考えられているからだ。
「……何かに使えるかなと思って、処分するなら良いかなと思って」
食べるため、などと言えない。
「そう言うのは興味本位で新人がするもんじゃないぞ」
「はい」
その後、座学の日程の説明を受けアルメは解放された。
ため息を吐きながらアルメはギルドカウンターから離れる。向かいの酒場は賑わい今日部隊にいた新人がベテランに肩を叩かれ叱咤される、そんな風景を見ながら酒場でご飯を頼もうかと思ったが気分が沈んでいるため食欲が湧かずアルメはそのまま借りている部屋に戻る事にした。
アルメはギルドを出ると路地裏に入った、ツツジの赤い葉を横切ると、裏庭が見えそこにはギルドから続く渡り廊下が見える、繋がっている建物は職員の寮として仕様されているが、空いている部屋の一つをアルメは特別に使わせてもらっていた、もちろんリーリエもだ。
「おかえり」
階段で鉢合わせ、リーリエは肩から巾着袋をぶら下げている。
「こんな時間にどこ行くの?ご飯?」
「ご飯はもう食べた」
タッタッタ、と階段を降りてリーリエは入り口に向かい出る前に振り返りアルメに手招きをした。
「アルメ、高台に行かない?星が綺麗だからさ」
少し悩んだが、風にあたれば多少気分も前向きになれるだろうと思いその誘いに乗る。
「うん、行きたい」
星は綺麗で街灯が少ない場所ではその光がアルメ達に降り注いでいた。
しばらく無言で星を眺める二人、なんとなく口を開けずにいるとリーリエが話し出した。
「アルメ、私ね、名前を変えようと思うんだ。」
「えっ!」
唐突に発された言葉をアルメはすぐに理解できなかった。
「私はタイバンの街が好きになった。騒がしくって面白くって楽しい。
おばあちゃんの事も好きだった。静かで、退屈で、落ち着く」
「リーリエの名前は、そんな私の好きな人が付けてくれた名前じゃ無い……」
アルメは無言で次の言葉を待つ。
「顔も知らない、薄情な人間が、せめてもの土産に付けた名前だって、だから大事にしろなんて言われた、でも私はおばあちゃんが呼んでくれるから、それでよかっただけなんだって気づいたんだ」
「街のみんなにリーリエって呼ばれる度に、何かが違う様な感覚がしてずっと気持ちが悪かった、この名前は物心ついた時から、おばあちゃんしか呼んだ事ないから」
「今日ね、ギルド長からお世話になる人に挨拶に行けって言われた。アルメが前言っていた鍛冶屋の人や役所の人」
「第一印象は大事だからね、可愛がってもらえる様にこうやって冠乗せて、ローリエですって言って回った」
巾着袋からローリエの冠を取り出し少女は頭に乗せた。少し時間が経って乾燥したローリエの葉はカラカラと微かに音を立てた。
「ロ、ローリエ!?」
「成り行きだよ、この前あった試合のあまりかな?街でローリエの冠をかぶっている子供を見たから私も乗せたんだ、みんな笑ってくれた、だからこれで行こうと思った、この地で印象に残ったこの名前で、それに少し似ているのが良いなって……」
言葉を切り星を見上げる。
「忘れてしまいたいけど、忘れたくない物もあるから、いつかおばあちゃんになってもこの響きはずっと忘れないんだろうなって」
「忘れたくないもの」
リーリエの複雑な感情に、アルメは共感した。アルメにも”忘れてはいけない物” “忘れたくない物”があるからだ。
あの日、故郷の村が魔獣に襲われた日にアルメ以外の村人は皆食われてしまった。思い出も家族も約束も。
終わらない復讐だ。何故ならアルメの故郷を襲った魔獣はとっくに討伐をされた様で、アルメが目覚めた時にその魔獣は影も形も見当たらなかった。
どこにも行き場の無い怒りは渦を巻き、アルメの心を侵食し続けていた。
(私は本当はどうしたい)
わからない、そんなはずない、体は動くのだ。
しかしいつまで続くのか
考え出したら不安になってしまい、アルメは下を向く。
「アルメ!流れ星!流れ星!」
リーリエは隣にいるアルメの肩を叩く、下を向いているアルメは見逃してしまった。
アルメも上を見上げて星を見る。流れ星は残念ながら通りすぎてしまったが、星の輝きは静かでそれでいて耳を澄ませば音が聞こえる様な気がした。今度は下を向かない様に星を観る。
「リーリエ、私ね今日討伐隊を除隊されたの」
「えっ!アルメが」
「問題行動をして、一時参加不可になった、二週間程座学を受けられたらまた入れるらしいけど」
「何したの?」
少し小声でリーリエは尋ねるまるでいけない事の様に話すので少し苦笑してしまいながらアルメは答えた。
「魔獣の肉をね……本当は解体した素材や討伐の賞金は隊を通してそれぞれ配給されるから、個人で素材を持ち去ったりするのはいけない事なんだ、残った肉片は売却されないから、いいかなと思って持ち帰ろうとしたら、見つかって怒られた」
「なんで魔獣のお肉を?」
「食べるため」
あっけらかんと言うアルメにリーリエは目を点にしてた。
「あぁあああ!」
何かを思い出したのかリーリエはアルメを指差しパクパクと口を開きながら言葉を話す。
「っく、食い返すってそう言う」
「そうだよ」
アルメは再びあっけらかんと答えた、リーリエはしばらく酸っぱい物を食べた様に口をモゴモゴして話し出した。
「……それは危ないじゃないの?」
「危ない?」
「魔獣を食べる人はいない、過去に食べた人が何人も死んじゃって」
「そうかな、少なくとも今は体になんの影響もないけど」
「食べたの⁉︎」
「うん」
「いいいつから⁉︎」
「街に来た時、解体作業を手伝う度にちょいちょい」
リーリエは呆れてしまった、まさか常習犯だったとは思わなかったのだ。
「……美味しかった?」
「興味ある?」
「無い」
少しあったがリーリエはブンブンと首を横に振った。
「美味しかったよ、普通のお肉、少し硬いけど、多分元の動物の影響もあると思う」
「アルメ……」
名前を呼ばれてアルメはリーリエを見る。また酸っぱい物を食べた時の様に口をモゴモゴと動かしている。
「アルメも一緒にギルドで働こうよ……」
リーリエの言葉にアルメは少し驚いて目を見開く。
「アルメは恩人だから……危険な目にあって欲しく無い」
リーリエは下を向いて真剣な声でそう言う。
「アルメが魔獣を討伐するのって、食べようとするのって、多分……たぶん家族のために」
「リーリエ、それは違う」
リーリエの言葉を遮ったアルメ、何よりアルメとてわかっているのだあの優しい家族がそんな事をしても喜ぶはずがない。ましてやアルメの故郷を襲った魔獣はもういないのだから。
「私のため、そうしてやらないと気が済まないから」
再び星を見上げてそう呟いた。リーリエもつられて星を見る。
「いつまで続けるの?」
その疑問はアルメも幾度となく自分に尋ねた物だ。しかしその度に答えは出ず。大きな心の穴に吸い込まれる様に思考が溶けてしまう。考えたくないのだ、だから迷いながらもこう言った。
「……私が……満足するまで」
アルメがそう答えればリーリエは複雑そうな顔をしたが、途端に笑って見せた。
「なんか、アルメらしいね」
「私らしい?」
「強いんだよ」
その言葉にアルメはリーリエに笑顔を返した。
「だったら私は何も言えないな、でもお腹壊して病院に運ばれたら思いっきり笑ってしまうかも、だから言ったのにって」
アルメはムッとして口を尖らせた。
「そうならない様に、気をつけるよ」
「気をつけてね……」
小声でそう言いリーリエは再び星を見た。
「あ!流れ星」
「えっ、また見逃した」
再びアルメが顔を上げようとした時そう言われて僅かに遅れてしまった事に少しへこんだ。
「…………ローリエ」
少し慣れないがアルメは友の名前を呼んだ、自分の道を受け入れてくれたのだから、アルメも形に示したかったからだ。
「……何?」
ローリエの明るい声はとてもワクワクしている様に聞こえた。
「ありがとう」
星を眺めた夜、それは誓いの日だったのかもしれない。本当の自分の気持ちを伝えたいのは、もう言葉を交わせない人達だ。リーリエがローリエと呼び名を変えると決心した日、アルメが自ら復讐の終わりを決めた日。
再びやって来た新しい日常、その流れる時の中で少女達は成長した。
身長が伸びて、口調も変わった、一人で狩りをする様になったし、問題児扱いもされた。
それでも暖かな人々に囲まれている日々は、昔も今も変わらない。彼女達はそんな日々を進み続けた。
番外編終わりです。
次回第二章スタートします。




