番外編.リーリエと思い出 2
少女が目を覚ますと、そこは身に覚えのな部屋だった。体が重く、暑い、風邪を引いた時と同じ感覚
モヤがかかった様な頭を動かし、あたりを見渡そうと首を動かせば、鈍い痛みが走る。
「ん、気づかれましたか?」
ローブを身につけた女性が少女に優しく声をかける、すぐに返事をする事ができない少女に、女性はさらに尋ねた。
「熱が少しありますが、軽度の底魔力症状による物です、命に別状はありませんよ、何処から痛むところはございませんか?」
痛むところ、そう問われて少女は頭を指さす。
すると女性は少女の頭に指先を当てと指先が小さな光を放ち数秒で、スっと頭の痛みが取れ少女の意識はより鮮明になった。
「倒れた際に強く頭をうってしまった様ですね、朝になれば、すぐにタイバンに搬送できますので、もうしばらくお休みください。」
少女に毛布をかけ直すと治療をしてくれた女性は立ち上がり、ベットの脇に立てかけてあった杖を持って少女のいる部屋を出て行った。
どうやらここが村の中である事に気づいた少女、記憶が遡るように、今まで起きた出来事が蘇った。
草木をかき分ける腕、足裏の痛み。
人の叫び声、崩れる家の音
強く背中を押され、聞こえた声、「走って!!」
「っ!おばっちゃっ!」
それは、最後に聞いた、たった一人の家族の言葉。
涙が溢れ嗚咽をこぼす、制御する事の出来ない、感情の波に襲わた少女の鳴き声は静かな廊下に響いた。
ドアを一つ隔てた先に、自分と同じように傷ついた少女がいる。しかしアルメ、扉を開け励ます事ができなかった、きっと今はどんな言葉も聞く事が辛くて仕方がい。
どれだけの時間がったったかわからい、少女の泣き声が聞こえなくなり、アルメは現実に引き戻れ我に返った。どうやら、泣き疲れて眠ってしまったらしい。
あの後、魔獣を一人討伐したアルメ、村まで後少しのところでギルド長に遭遇した。
いや合流したなのだが、大人二人を担いで暗闇から歩いて来る姿は、もう一体魔獣が現れたのかと思い、心臓を跳ねがらせた。
アルメの使った矢尻が起こした爆発に反応し急いでその場所に向かっていたらしく、アルメが魔獣を倒したと言うと、ギルド長は目を吊り上げ、アルメの頭に拳骨が落ちて来た。
そして、村に着いてからもいかにアルメのした事が危険な事か、コツコツとお叱りを受けた。
魔術師の女性が少女が目覚めたと声をかけてくるまで、説教は朝まで続いただろう。
部屋の前から離れる、朝日はまだまだ先で未だ空には月が大地照らしていた。こんなに長い夜は久々で、体が疲れていはずなのに、眠れない自分に気づく。
不安、漠然とそんな言葉が頭をよぎる、こんな時は、無理に眠る事はやめてしまおうとアルメは考えた。
今の自分が何を抱えているわけではなにのにそれだけで胸が少し軽くなる気がし、アルメは何も何を思うでもなく廊下の窓から見える月を眺めていた。
やがて朝日が差し込んだ。気づけばアルメは壁にもたれかかる様に眠っていて、誰かが毛布をかけてくれたらしく、体からズレた毛布を手に取り、アルメは立ち上がった。
村長の家は村で一番大きく、アルメや残った物達が数人泊まらせて貰っていた。
あてがわれた、部屋はベットが敷居で区切られており、アルメが入ると、まだ眠っている物達がいた。あ
「起きたか、」
「ギルド長、おはようございます」
「廊下で寝るやつがあるか、声をかけても起きないし」
寝癖を跳ね上がらせた髪から、ギルド長はすんなり眠る事ができたらしい、経験の差から見える、その余裕な立ち居振る舞いにアルメは感化した。
外が何やら騒がしくなり、窓の方を見るとどうやら、タイバンから馬車が、迎えに来た様だった。
「もう来たのか、おい!タイバンに戻るやつは起きろ!馬車が来たぞ」
手を叩きながらそう声をかけるギルド長、頭は寝癖だらけだが、出発の準備ができているらしく、素早く部屋を出た。
起きた人達はどうやら、ほとんどが魔術師らしく、ローブを羽織るだけでそそくさと部屋をでって行った。アルメも自身に用意して貰ったベットのその横に立てかけられた、弓矢を背負い後を覆う様に部屋を後にした。
途中少女のいた部屋が気になり軽くノックをする。少女はどうするのだろう、軽傷に見えたので、この村に残るのだろうか、そう考えていると、魔術師が声をかけて来た。
「あの子なら、今村の墓地にいますよ」
優しい声音で言ったその顔は、語らずともわかるだろうと言わんばかりに眉が下がっていた。
残念ながら、山で見つけた人で生き残っていたのは、少女一人だけだった。
「そうですか、ありがとうございます」
アルメは軽く会釈をして村長の家を出た。
女性は村に残り、村の防御壁の様子をしばらく見ないといけないらしい。昨晩村長やギルド長とそう話しているのを聞いた。
村の教会は魔獣によって半壊させられていたが墓地は無事だった、しかし村の神父も重傷を負い街に搬送されたため一晩たった今、その場所は静かだった。
アルメが崩れた教会から視線を外すと、墓地には少女が一人佇んでいた。
「体は、大丈夫?」
「……うん」
「そう、」
アルメは続く言葉が思いつかなかった。
しばらく一緒に墓地を眺める、少女達を呼ぶ声が聞こえるまで、二人はそうしていた。
馬車に揺られながら、無言の時間が続く、馬車は魔術師一人、それとギルド長、アルメ、少女の4人だけだった。
「他の人達は?」
沈黙を破り、アルメが話始めるとギルド長は答える。
「それぞれ村を出た、そのまま周辺の魔獣を狩るんだろうな、村にまで来なくてもスタンピードの影響で、引き寄せられる魔獣がいるからな、」
「そうなんだ」
再び無言になる馬車内、次に沈黙を破ったのは少女だった。
「あの、聴きたい事が、あって」
「何だ?」
「おばぁちゃん……私と同じ赤毛の老人が、街に搬送されていませんか?」
ギルド長は他の二人に視線で問う、アルメは昨晩に事を思い出すが、残念ながら該当する人は思い出す事はできなかった。魔術師も小さく首を振る。
「村の半数が搬送されたからな、街に着いたらすぐに探そう」
「はい………」
そこから街に着くまで、誰一人言葉を発さなかった。疲労もあるが、ほとんど面識も無い物同士だ、アルメも無理に話題を作らず、窓から見える風景を眺めていた。
半刻後、無事街に着くと、それぞれあわだたしく動き回る、ギルド長に背を押された少女は、村人達が搬送された病院に案内されていた。
アルメはと言うと、昨日の協力金を受け取りにギルドのカウンターに、訪れた。
「ご協力ありがとうございました。」
渡された袋に、金貨と銀貨が詰めれてたおり、アルメは驚いた。
「こんなに!」
「ええ、人命救助には国からも報奨金が出るのですよ、またご協力お願いします」
村から戻る道中、暗い気持ちでいたアルメはそこで改めて自分が誰かを助ける事ができた事を知る。
「はい」
少し笑みを浮かべ、アルメは返事をした。ギルド内は昨日の様な騒がし差は無いが、酒場の笑い声やカウンターでのやり取りに、前の日常に戻ったのだと気持ちを入れ替えた。
私にはやらないといけない事があるんだ。
アルメはギルドを出た、魔獣を狩った際に気づいた事をまとめながら、歩く。
後少し遅れいたら、魔獣の防御壁に阻まれていた、弓矢だとスピードが足りないのかもしれない
あと今後討伐に向かうなら、時間を考えないと、一人でするには、真夜中挑むのは良く無いな、
あっそうだ、鍋!鍋がいるな、せっかくお金が入ったんだから、大きい鞄を買って、色々旅の準備をしないと、
考えていくうちに、早歩きになり、アルメは鍛冶屋に入った
「鍋?」
「そう、このぐらいの大きさの」
「金物屋に行け、ここは武器扱う場所だぞ」
「あそこにかかっているのは、」
「あーあれは、部隊の遠征様に頼まれたやつだ、武器の整備と一緒に頼まれてな」
「遠征か、スタンピードがあったもんな、ついでに作ってよ」
「お前な、前にも無茶振り言っただろう、矢尻に爆破の魔術語を刻めなんざ、こっちはハラハラしたぞ、」
「あの矢尻!今回すっごく役に立った、私でも魔獣を討伐できたよ!」
「話を逸らすな……良かったな」
ため息を着いた鍛冶屋の主人、アルメが昨晩使った矢尻は、この鍛冶屋でダメ元でお願いした物だった。基本武器に刻まれた魔術語は使用者の魔力を使うが、アルメには魔力がないので、衝撃などの。条件をつけて、爆破が起こる様にお願いしたのだ、それは当然作る際に爆破する可能性もあるため店主は初は断ったのだが、アルメの力強さに根負けし特別に作った物だった。
「金稼ぐにも、もっと安全な方法があるだろう、サイモスに頼んでギルドで働かせてもらえ、人手は多いにこした事はないんだから、」
「そうだけど、私は魔獣を討伐したいんだ、……」
人の良い店主の言葉にアルメはしょぼくれた声で返した、その様子に店主は再びため息を吐き、カウンター下から箱を取り出した。
「何それ、」
「内で作るには、危なっかしいんでな、矢尻は用意したから、魔術師に頼め、紹介状も書いてやったから」
そう言って箱の上に手紙を置きアルメに差し出した。
「ありがとう!」
「銀貨三枚、鍋は金物屋に行け」
「あ、はいはい、後、これも」
支払いと同時に、思い出したかの様にアルメは魔獣解体用のナイフを取り出した。
「随分刃こぼれしているな、」
鱗の付いた魔獣の解体が初めてで、アルメ何度も刃を滑れしてしまい、それを見た周りの冒険者からは心配と何度か手ほどきを受けた。三体目ですっかり慣れたが、おかげでナイフは痛々しい姿になってしまった。
「ふっ、まあ、頑張れ、明日の朝にはできているからな」
「お願いします、後」
「まだなんかあるのか?」
「魔獣を攻撃するのに、弓矢じゃ心許なくって、」
「あぁ、まぁそうだろうな、あいつ等は臆病だからな、弓矢のスピードじゃ防御壁に防がれるだろう」
うんうん、と頷くアルメ、昨晩の反省を店主に報告し、時間が許す限り話し合った。
「じゃ、明日な、忘れるなよ、」
「うん、お願いします」
打開案が見えてきてアルメは明るい声で店を出た。
紹介された魔術師はギルド経緯で依頼がでいるため再び、ギルドに戻ったアルメ、しかし
「かしこまりました。依頼料、仲介料、金貨三枚です」
「うっ……」
財布の中を見てアルメは唸る、今回買った矢尻全てに、魔術語を刻むとなると、やはりかなりの値段がかかるようだ、そして仲介料、痛い、しかし背に腹はかえられない。
アルメは血の涙を堪えながら、支払いをした。
報奨金、全部つかちゃった。
肩を落とすアルメ、そしてなる腹の虫に、さらに出費がかかることに気分を落とした。
「スナイサさん、お手伝いさせて、」
「あら、アルメちゃん」
アルメがスナイサと呼んだ人物は併設してある、酒場の管理をしている人で、何度かアルメがお駄賃をもらった場所だ。
「丁度良かった、もしアルメちゃんが来たらちゃんと紹介してやれって、言われてね」
そう言い調理場に案内さたアルメ、そこには村で救助した赤毛の少女が、ジャガイモの皮剥きをしていた。
「こんにちは、」
アルメが声をけると、少女は立ち上がり、お辞儀をした。
「リーリエです、助けてくれありがとうございます」
落ち着いた声、でも赤く腫れた目を見て、アルメ少し笑って「どういたしまして」と言うことしかできなかった。
後で聞いた話、少女の祖母は残念ながら搬送された病院で亡くなってしまったらしい。
リーリエの祖母の遺体は少女のお願いで、村ではなくタイバン共同墓地に収められることになった。
「ここに、残ろうと思ったんです。村には帰る家もないですし」
「じゃあ、ギルドで働くの?」
「それは、まだ考え中で、でもしばらくお世話になります」
「それで、皮剥きしてるんだね、私もお駄賃貰いに来たんだ」
リーリエは思いのほか喋った、まだ心の整理はついていないかもしれないだろうに、時々、思い出すかの様に涙目になりながらもアルメ達は皮剥きを終た。
「お疲れ様、一旦休憩しようか、」
スナイサが差し出してきたのは、パイだった、香ばしく、ほんのりお肉のいい匂い、ミートパイだ
「やった、お腹空いていたんだよね」
アルメはなんとか抑えていた腹の音を解放した。
グーっと間抜け音におばさんは、微笑みながら、切り分けてくれた。
「食べ終わったら、今度は、買い出しお願いね」
「「はーい」」
調理場には少女達の明るい返事が響いた。




