18.頼れよ
日が沈み、一日の疲れを食事や酒で解消する市民街とは違い貴族街は静かだった。
アシエに連れられ、アルメはエグレゴアの本部前にいた。
白い壁、嵌められた窓からは一切明かりが漏れておらず、アルメ達は顔を見合わせた。
リベルテが何かしたんだろうけど……み、皆殺しにしてないだろうな、
「入り口が開いたままになっている」
明らかな異質を感じ他のかアシエはしばらく様子を見たあと、静かに足を踏み入れた。
アルメも無言で後ろに続く、中は暗く、寒い、手に持ったランプを掲げ奥を見ようと目を凝らす。
静かで動く影は自分達しかいない空間で突然アシエが駆け出した。
何かを見つけたのかと、アシエのあとを追った先には、倒れている数人魔術師を発見した
しゃがんでランプを置き、その手を取る、手は温かく脈も感じる。
「気絶している、強い魔力の圧迫による低魔力症状になっているな」
「大丈夫なのか?」
「命に別状はない、個人の魔力が、一時的に他の魔力によって抑えて込まれて意識を混在させてられている。長く押さえ込まれればショック死するが、そうならない様に調節されているな、そいとうな手練れだな、お友達は」
睨まれ萎縮するが、彼らが皆生きている事に安堵した。
「騎士団に報告する、宿まで送ろう」
気絶する魔術師に何やら魔術師をかけたあと、アシエは出口に向かおうとする。
「……っ、まだ友人を見つけてない、なぁ魔術師なら魔力を感知出来るだろう?アイツがどこにいるかわかるか?一目見たら大人しく下がるから」
「残念ながら、見ず知らずの魔力を感知してもお友達の物かわからない、ただ、この建物内にいる魔術師は、皆身動き一つしていない」
それはつまり、もし建物内にリベルテ達がいるなら同じ様な状態にあるとゆう事。
「おい!」
アルメは走り出す、最悪の事態が起きたのだと、リベルテ、そして共に消えた彼までも、相打ち、またはそれに巻き込まれたんだろう。彼は魔術を使って良い状態では無いと、リベルテが言っていた。こんなに早く動き出していたとは、王都ではしゃいでいた自分が許せなく、奥歯を噛み締め、建物内を走り回った。
「リベルテ!!どこだ!!」
一階の開けた中庭そこにも数人の魔術師が倒れており、その中からリベルテを探そうとランプを近づけ顔を確認する、その腕をアシエが掴みアルメの行動を止める。
「落ち着け!後は騎士団にまかせろ」
アシエの腕を振り払う。
「騎士団が来るまで捜索させてくれ、荒らしたりしない」
下を向き言うアルメその声は震えており、アシヤは眉を下げ懐か何かを取り出した。
それは銀色の腕輪で、細かな魔術語刻まれていた。
「位置を特定する魔術具だ、付けた物しか外せない仕様になっている」
アルメは無言で腕を出す。本来は本部に入る前に付ける予定だったのだろう。
「騎士団が到着するまでだ」
そう言うとアルメから一歩離れてアシエは自身の手のひらを見る、腰に携えた鞘に刻まれた魔術語が光だし、鞘から手の平に薄青い光が集まり、開けた中庭から空に飛んで行った。どうやら騎士団の連絡方の一つの様だ。
アシエの言葉にアルメは感謝しリベルテを探す、残念ながら中庭の魔術師の中にはいなかった、次だと思いアルメは顔を上げる。
その時視界に入ったのは大きな黒い扉、異様な存在感を放つそれに来た当初は気にならなかった。
暗闇が見せた幻影かと思ったが、近づくと、確かに存在しており、アルメは冷や汗を流す。
扉を開けようと押すが、鍵穴が無いのに開かず、アルメはアシエを呼ぶ。
「この扉、中から閉められている、開かないか?」
アシエも近づき扉に手を当てるが、開かずさらに、眉に皺を寄せて首を少し傾げる
「……結界だ、中と遮断されているから感知でき無い」
アシエは下がり、アルメにも離れる様に言う。
剣を引き抜き扉に向ける、剣に刻まれた魔術語がいくつか光だし数秒の無言の後、扉がまるで板を無理矢理引っ張る様に開いた。
「結界の本質は認知させないことだ、存在に気づけば、破るのはそう難しく無い」
アシエは剣を仕舞わず進み始める。アルメも続くが、足元を少し照らすだけの明かりに不安になる。
地下は牢獄の様だとアルメは思った。煉瓦を積み上げただけの壁、壁に埋め込まれる様にあるランプは幾つか割れており、明かりの役割を果たしていない。
「魔術の痕跡が多く残っているな」
アシエは、階段を登り降り直ぐに周りを見渡しそう言う。
「痕跡?」
アルメの問いにアシエはしばし無言になり、答えた。
「激しい戦闘をすると残りやすい、そこかしらにあるが、消えかかっているな、それなりに時間が経過した後だろう。この地下に、魔力は探知でき無い」
アシエはそう言い、地上え戻ろうとアルメの横を通り階段を登っていった。
アルメもそうしようとするが、少し考え。
「……手分けしいないか、私は一応、地下を見て周るよ」
アシエは下の段にいるアルメを横目で少し見た後。
「騎士団の到着まで、半刻程だ」
と言い、階段を登り始めた。どうやら許してくれるらしい、アルメは少し駆け足で探し出した、騎士団が来てはリベルテ達と話す隙が無くなってしまうかも知れない、アシエは魔力は感知でき無いと言ったが、争った形跡もあると言った、リベルテ一人で戦ったなら、魔力切れを起こしていてもおかしくない、元々睡眠不足、疲労がある様に見えたのもあいまってその可能性が強くなる。
地下は圧迫感が狭苦しいようだが、広く、迷路の様だった。壁にわずかな、傷や、シミなどがあり、アルメ新しいくできたであろう物を見つけそれらを目安に進む。
少し乾燥しているが明らかに血の様なものまであった。
それらを辿と、当然そこには倒れた人がおり、近づいて見れば、すでに息絶えていた。
さらに奥、奥に進むと、死体の数も増え、剣や、杖など、投げ捨てられた様にまた、力なく手から滑り落ちた様に、持ち主の手元から離れていた。更に足元に注意を向けながらアルメは進む。
その扉はひっそりと、地下の奥に存在していた。
息絶えた多くを辿り、ついた場所、呼吸をするかの様に薄らと開いた扉の隙間。
ただ静かな地下では、風も無いはずなのに、わずかに扉が動いた様に見える物だから仕方ない。
「リベルテ……」
恐れながらもアルメは、扉に手を掛けた、無意識に扉の軋む音さえも出さない様に、扉を開ける。
奥に光が届く様に腕を上げるが明かりに照らされた金髪は、暗闇の中でも直ぐにアルメの目に入った。
「!!」
アルメは直ぐに駆け寄りリベルテの手を取る、冷えているが今まで見て来た死体とは違う、微かに動く脈は、アルメを安堵させた。
外傷は無い、ただ顔色は余りにも悪くアルメの予想が当たったのがわかる。
リュックを置き中を漁る、リベルテの体を温めるために毛布を出し、体に包む、水も飲ませたいが、眠っている状態では無理だ。
「リベルテ……何をしたんだ」
アルメは部屋中を見渡す。机や椅子、本棚に並べられていたであろう本すらも、バラバラに破壊されている。
「なぁ、あいつはどこだ?」
きっとまだ幼い姿のままであろう彼、その白髪は部屋の何処にも見当たらない、小さな体で、壊された家具の隙間に隠れているのかと思い隙間をくまなく探す。部屋の隅から隅まで照らすが、見当たらない。
「ゴホゴホ」
リベルテが咳き込みアルメは駆け寄る
「リベルテ!大丈夫なのかよ」
起きあがろうとするリベルテの体を支える、辛そうな体は言葉を発せず、咳ばかりでる水を飲ませてやろうと、そばに置いていたリュックに手を伸ばす。
「ゴホッ今、なんじ?」
コップに水袋から水を注ぎ入れ、リベルテに手渡す
「今は、夜、お前が消えてから丁度一日たった頃だろう」
「そんなにたっていたのか」
水を飲みリベルテはまだ立ち上がる。
「リベルテ、どうして私に何も言わずに消えたんだ」
「君は巻き込まれただけだろう」
「望んで巻き込まれたんだ」
眉間に皺お寄せるアルメ、水袋を握った手には力が入っている。
「これは、僕と彼の問題なんだよ」
少しの言葉を発しただけでも咳き込むが、リベルテは扉の外に出ようとする。
「そんなフラフラで何する気だ」
「ただの魔力切れだよ」
拒絶する様な背中にアルメは怒りを表し彼の胸ぐらを掴んだ。
「頼れよ!!」
抵抗する気力も無いのだろう、眉を顰めるがリベルテは何も言わない。
「お前一人が何人も殺して、殺されかけて、お前の復讐は、こんな荒い物でいいのかよ、全部終わった後、お前は満足するのか?これでよかったって笑えるのか⁉︎」
「騎士団も動いてる、もうすぐここに到着するらしい」
アルメが手を離すと、リベルテは壁を伝う様に床に座り込んだ。
「無駄なんかじゃなかったよ、でもこれは、最終手段だ、もっと時間をかけてもよかった」
「……」
彼に向かい毛布を投げ、アルメは扉に手を掛けた。
「あいつを捜してくる、何処か心辺りはあるか?」
「……この地下内にはいない、何処か結界を張った場所に閉じ込められているんだろうね、……魔力の探知もできない」
「そうか……手がかりが無いか、ギリギリまで探すよ、リベルテは休んでろ、お前はまだ、やる事があるんだから」
「……」
「私をここまで連れて来てくれたのは、騎士団のアシエって言う奴だ、信用していい」
まるで、怯える子供を落ち着かせる様に言い、アルメは、彼を探すため部屋を出た。