17.知っている
遅くなりました。
リベルテは王都中央貴族街にある、エグレゴアの本部内にいた。
「少ない」
建物内にいる、魔術師の数を見てリベルテは言う。
朝日の光に照らされてた建物は白く、汚れ一つ無い壁は光を反射いている、以前は毎朝の様に見ていた、日に照らされた中庭の花々も寂れてみえた。
「で、どうしてか、教えてくれるかな?」
首を掴まれ壁に押し付けられた魔術師は、憎々しげにリベルテを見る。
「リベル様、何故!?」
「答えになって無いんだけど」
リベルテは首を掴む手に魔力を込める、急激な魔力の圧迫により魔術師は白目を剥き気絶した。
殺しはしない、本当に殺したいのは彼等じゃ無いからだ。
リベルテの背後には数人の魔術師が倒れていた、どうやらここには魔術師がもういない様だ。
「地下か、行きたく無いな」
重い足を動かしてリベルテまた歩き始めた、リベルテは知っている地下施設は実験場と言っていい、特殊な結界魔術を巡らせて、外部からの干渉をできなくしてある、例え騎士団から内部調査が入っても地下などないと言ってしまえば、まかり通る。
隠された入り口、開け方は知っている。
「まだ、入れるんだ」
入り口にはもちろん限られた物しか入れない。予め登録していた魔力に反応して入り口は現れる。
何も無い壁、リベルテは人差し指を壁に向けると魔力に反応した壁が黒く変わり、扉を形成した。
扉がゆっくりと開けられる。下に続く階段が現れ、暗い階段を壁に埋め込まれた明かりが照らしているが、足元がボンヤリ見える程度だ。
「寒いなここは」
日光が入らない地下は肌寒いが、今まで気にならなかったことがリベルテの神経を逆撫でして仕方がない。
「早く、ここから出たい…………どこにいる…グラン!」
静かな地下に響く声、苛立ちながら進むリベルテに答える物がいた。
「いらっしゃいませんよ、ここには」
炎の弾がリベルテを襲い横に避け敵を見る。
「カリヤ先生、いや……クソジジ!」
リベルテは笑みを作る、殺したい奴が出てきた。
「昨日ぶりですね、リベル様、随分汚い言葉をお使いになる、お連れになっていた小汚お嬢さんの影響ですかな?」
カリヤも嘲笑う、捕まえた時にへし折った杖とは別の杖、リベルテが先生として合っていた頃の杖だ。
「本当に、当て付けの様だ」
リベルテは蜃気楼の弾丸を放ち瞬時に横にそれる、防御壁で防がれることは目に見えているからだ、
予想通り敵は炎の魔術を放つ、直進でしか攻撃出来ない汎用性が低い魔術は杖の機動を抑えている。
リベルテは、素早く周りこみ、横から相手を狙う、放たれた圧縮した弾丸は魔術壁を貫通するが、貫通した途端敵は影になり消えた。
カリヤの使う魔術はリベルテもよく知ることだ。自分の脳内を上書きしたり、拘束魔術に封じ込めながらもそれを抜け出せたのは、幻影、幻覚魔術を使いこなしているからだ。
しかし、リベルテは知っている、幼い頃から見ていたからだ。
人は嫌いな人間こそ観察してしまう、いつか必ず復讐してやるために。
「知っているよ」
幻影を使うとゆことは、本体が別にいると言うことを。
カリヤに本体など無い、カリヤ自身が幻影なのだ。
その存在は常に危うい、現れるもするし、消えもする、その危うさが武器であり、リベルテは弱点だと思っている。
何故なら、幻影、幻覚は本来自然界で現れる物だ。水辺で見られる蜃気楼の様に、人が眠る際に見る夢の様に、脳内で起こる異常の様に。
そんな自然を魔術で再現する事はカリヤの長い人生の賜物なのだろう。
「魔術で魔力を構築し続け体を形作る、どうせ自分の肉体を使って、消費する魔力を買っているんだう」
魔力を常に得ないといけない。肉体が無い状態でそれを摂取するには、他者からもらうしか無い。
リベルテは笑みを深める。
「魔女から」
リベルテは標的をカリヤから別の物に移す、地下に感じる最も強い魔力。
グランの物で無いのなら、それは恐らく魔女の物だろう。地下は結界魔術が張ってあるため転移する事は出来ない。
「袋のねずみだね」
カリヤは魔術を打ち足止測るが、一つの魔術を極めたカリヤの攻撃は基本の域を出ないため、リベルテの相手にはならない。
カリヤは冷や汗をかく、リベルテに囚われた時、白髪の少年の魔術によって奪われた魔力の補充で魔女を呼び寄せたのが仇になった。
「遅いな爺さん、魔力切れか?」
カリヤを煽り、リベルテは拘束魔術を生き物の様に張り巡らせながら、距離を稼ぐ。
「リベル様こそ顔色が悪いですぞ、魔力切れですかな?」
お互いに嫌味を言うが、実質の技量は見て明らかだった。
リベルテは魔女のもとへとたどり着いた。扉は硬く閉ざされている。
悪足掻き、そうリベルテには見えた。
「御魔術を張っているのか」
扉に手をかざす。力で押し切るのは、父親と同期した今の自分には簡単なことだ。
「魔力生物め」
部屋の隅で縮こまる魔女。フードで顔は見えない、見る必要の無い…魔女が反撃する前に、リベルテは弾丸を放つ。
「随分と弱い魔女を使っているんだね、生まれたてか?」
死んだ魔女を見下しながらリベルテは言う、カリヤが追いつきリベルテに魔術を放つ。
「リベル!!!」
「こう言うの何て言うんだっけ」
きっとアルメならこんな言葉を発するだろう。
「ロリコンジジイ」
カリヤの首に黄金の魔術語が浮かぶ、魔力抑制陣。
魔力の流れを途絶えさせれば、魔術そのものは持続できなくなる。
幻影は消える。
残されたのは、寂れた杖だけだった。
「次だ」
*
リシアは任務をら全うして総帥の元に転移した、こちらにきづいた総帥はフードで顔が見えないが、長い白髪の髪が、除かせており、同色の瞳が見え隠れしている。
「それが」
「はい、魔術師リベルテと同行を共にしておりました」
腕を持っていた少年が、リシアの手を振り払う。
リシアは思わず少年を見るが、赤い瞳は総帥を見据えている。表情一つ変えないため、親子の感動の再会には見えなかった。
「彼女がかけた魔術か、ずいぶん幼くなったな」
総帥は少年に近ずき、手を伸ばすが少年はそれを弾いた、総帥は眉間に皺を寄せるが、拒否されたからではなく、一瞬の触れた手から読み取ったリベルテの掛けた魔力抑制陣を感じとったからだ。
憎々しい黄金を思いだし、グランは名を呼ぶ。
「ルガルデ!」
一瞬の激情、少年から視線を外し、グランは部屋の中央に向かう。
「この部屋に結界を張り巡らせろ、私が戻るまで決して逃すな」
リシアは一瞬躊躇した、自分が張る事のできる結界は、一度に一つ。
現在リベルテを閉じ込めている結界を解除してしまって良い物か、交戦している同士の心配もあるが、総帥の名を優先させるため、リシアは王都郊外で張っている結界を解除し、現在いる空間に結果を張る。
これで結界を張った物しかこの部屋には出入りする事は出来ない。
グランを見送り静かになった部屋でリシアは少年を見るが、少年は壁をじっと見たままピクリともしない、まるで人形の様だとルシアはおもった。
少年の観察をしていても、結果を張ったこの部屋から出る事は出来ないのはわかりきっているため。ルシアは外の様子を見に行くことにした。
何度か実験を行った場所なのだろう、周りを囲む木々は、根本が黒く変色している。
周辺には何かの遺跡があり、石で出来たそれらはところどころ崩れている。
「これだけの結界を張っているのに、私の結界は必要無いのでは」
実験上を覆う様に張ってある結果、グラン本人が張った物だろう、そのおかげで、他の魔術師協会から認知される事が無い。
その本人であるグランは、目の前の黄金を憎々しげに見据えている。
「カリヤの術が解けたか、可哀想に」
リベルテも憎々しげにグランを見る。しかしその顔には笑みを湛えている。
「可哀想なのはお前だろう、彼にかけたリガール魔術はしっかりと機能しているみたいだね、父さんみたいに出来て良かったよ」
父の様に、これはグランに取って煽りとも取れる言葉だ。
「僕を殺しても解け無いよ、知っているだろう?」
魔術は基本術者が死亡したらその魔術は解けるが、古代の魔術、魔女が使う魔術は実際今日に至るまで維持されている物が数多く発見されている。
古代の魔術を解読し、それを元に作られたリベール魔術はその特性を多く受けているため、当然リベルテを殺しても魔術抑制陣は解けることはない。
「お前がルガルデの足元にも及ばないことか、ルガール魔術の解読のため、生かして置いたのに、特に成果も無い、いい加減、手に余って仕方が無い」
図星を突かれてリベルテは笑みを消す。
「いい機会だ、殺せ」
瞬間、幾つもの攻撃がリベルテに襲いくる。
魔術を込めた刃はリベルテの防御壁を破壊する、後ろに飛びのき避けるが。
背後にも敵が待ち構えおり、仕方なく黄金の防御壁を張り敵に対応する。
グランにも意識を向けるが、男はわずかにほくそ笑み転移した。
リベルテは奥歯を噛み締め、防御壁を時瞬間に左右に弾丸を飛ばす。吹き飛んだ二人の敵は素早く体制を整えて再びリベルテに襲いくる、
二人同時に相手をするのはぶが悪い、リベルテそう考え、一人を拘束魔術で阻害し、一人を弾丸でいなす。
それぞれ剣を振り、魔術で対応するが、途切れる事の無いリベルテの魔術に一人が拘束され、そのまま壁に叩きつけられ瓦礫と共に身動きが取れなくなった。
魔術陣を増やし、弾丸の数で相手を押せば遂には耐えきれなくなり防御壁を貫通して敵の腹に穴を開けた。
瓦礫と共に伸びている敵にも体を向け、とどめを刺そうとするが、その瞬間背後から刃が襲い来る。
「まだいるのか!!」
防御壁を破壊され、身をかわすがわずかに刃先がリベルテの頬を切る。
数人の魔術師、リベルテは苦い笑みを浮かべ、ふらつく体を動かした。
総帥の名前はグレンではなくグランです。
誤字脱字は、気づき次第修正出来るよう努力しますので、温かい目で見守ってください。