16.誘拐
王都内を走る馬車はどれも煌びやかだ。
ほとんどが貴族か商人、特に貴族街に入って行く馬車は、どれも装飾が惜しみなく、権力を表している。
夕暮れ時、王都の街でもオレンジ色になるのは同じで、その光景に目を細めながら、アルメは貴族街の入り口が見える、路地に身を潜めていた。
「いける、」枕言葉は、「たぶん」だがアルメは本日、五台目の馬車に目をつけた。
煌びやかな馬車が通るなか、その時馬車は装飾が少なく簡素だった。
「しゅみましぇん!」
アルメは馬車が通りを曲がる前に御者に声をかける。基本的に荒野を駆ける馬車より、遅いスピードだ、声をかけられないことはなかった。
少し前のめりに身体を、出すと、御者は迷惑そうな顔をして馬車を止める。
「お願いしゅましゅ、友人がお屋敷で勤めていて、お見舞いに、行きたいのでどうか中までのしぇてくだしゃいませんか?」
「なに言ってるんだあんた」
呆れた顔をして御者は手綱を握り直す。
ダメか!
「どうした?」
馬車の中から声が聞こえた。しかしその声にアルメは、違和感を覚えずにいられなかった。
「いや、婆さんが、友人の見舞いに行きたいからのせてくれと、」
「婆さん?」
馬車か男が二人降りてくる、一人は剣たずさえて、もう一人は大柄な身体を持つ見覚えのある男だった。
なんでだよ?!
アルメは咄嗟に逃げた。同じ相手に同じで格好で似たような文言など通用するわけない。
「捕まえろ」
「はっ!」
剣を携えた男が、逃げ足の早いアルメに、すぐに追い付く、ローブが邪魔であったが、それがなくとも捕えられていただろう。
足をかけられ体制を崩し、地面に抑えこまれる。
「孫の次は友人か」
後ろから大股で追い付いた大男にフードを剥ぎ取られ、顔を見られた。
「フッ乗せろ」
鬘の崩れた顔を見たあと男はそういい、転んだ際に外れた片方の肩紐掴みリュックを強奪して、馬車に戻る
「はっ!」
「ちょっえ?おい!」
担ぎ困れてアルメは馬車に入れられた。
「進め」
「えっ進むの!?」
二人の男の正面の座席、起き上がったアルメは彼らと目が合う。
「また、合ったな若い婆さん」
「ははは、すみません」
愛想笑いをしてしまたが、従者と見られる男に睨まれ、思わず謝る。
なにはともあれ、難関を、越えたアルメは。
さて、どうしたものかと、とてつもななく不安になった
二人の男は、騎士だ、一人は、ゴーデンから馬車に乗せてくれた。団長で、灰色の髪を左右刈り上げており、凛々しく太い眉毛が特徴的だ、その目付きは悪く、正直言って悪人ズラである。
もう一人は、アルメが乗った台にはいなかったが、常時剣を持ち、臨戦体制の男は部下だろう、
耳が少し隠れる程の茶色い短髪で、こちらも太い眉毛が特徴的だが、横にいる悪人ズラと比べたら、厳しくアルメを見る目も、穏やかに見えた。
「で、どうして貴族街に入りたがった」
アルメは言葉に詰まるが、嘘をついても直ぐバレると思い、そのまま話す事にした。
「孫は嘘だよ、早く王都に、エグレゴアの本部に行きたかった」
「本部の人間なら会員証で中に入れた思うが、」
違うな?と目で問われる
「私は魔術師じゃない、私の、友達が魔術師で、そいつに会いに来たんだ」
リベルテの事を思い出し、アルメは今さっきまで忘れていた。苛立ちが再び湧き上がってきた。
それでも、誤解なく伝えようとし口を開く
「私は、そいつを……殴りたい」
素が出た。
「は?」
「エグレゴアの本部に入って、私の友達を助けたい!」
「殴りたいって言ってなかったか?」
「殴りたくもある……」
団長としばし、睨み合いの様な状態になる、もとい睨んでいるのはアルメだけで、団長はこれが素の状態なのだろう。
「ふッ、ハハハ!」
団長に笑う、かなり長くツボに入っていたらしく。アルメは、何が面白いのかサッパリわからないため、その光景を不気味に思った。
そうこうしている内に馬車が止まった。
「到着しました」
御者が馬車の扉を開く、先に、部下の男が降り、続いて団長が降りた。
アルメも降りる様に促される、馬車から降りたら、両脇に別の部下が待機しており、アルメは両脇を持ち上げられて、屋敷の中に連れていかれた。
その屋敷は豪奢な住宅内では簡素だった。
全体的に濃い茶のイメージで屋根が、黒に近い色をしており、日が暮れた時間に溶け込んでいた。
窓子はいくつか明かりが漏れて降り、
何人かの人の気配もする。
「食堂に座らしとけ」
今だ笑いが漏れだしながら団長はスタスタたと、どこかえ行ってしまい、アルメは持ち上げられたまま、運ばれた。
「私のリュック」
運ばれるさい、どうしても気になり、右側の騎士にとう、
「中を調べさせてもらう」
上から見下ろされる、高圧的だが、さすが騎士、そこらの冒険者とは違う圧にアルメは、口を一文字にして頷いた。
食堂につき一番近い席に座らせられる、直ぐにリュックを持った、先ほどの茶髪の騎士が来て、アルメの目の前にリュックの中身を並べて行く。
「危険物があるなら、今の内に進言する事をオススメする」
アルメはすぐさま、上着の下にある短剣を取り出して机の上に置いた。
左の騎士が、直ぐに回収し、鞘から抜き刀身を確認している。
「後、魔獣を討伐する矢尻と解体用のナイフがその中にある」
アルメが進言した通り、危険物が他には出てこず、問題なしとみなされ、荷物は全て戻された。
途中、食べこぼしのシミが付いたシャツを仕舞われる際、
「服はきちんと洗濯しなさい」
と叱られてしまった、
お母さんかよ
「待たせたな」
食事の扉が開くと同時に団長がそう声をかけ入って来た。
横に並ぶ騎士達が入り口を向き背筋を伸ばす。
「食事にする、アシエ以外、下がって良い」
「はっ、」
左右の男は揃っ返事をして食堂から出ていった。左の騎士が出る前に。アシエと呼ばれた、騎士にアルメの短剣を手渡した。
「食べれない物はあるか?」
すっかり笑いから解放された団長は、そうアルメに聞く。
「無い、何でも食べれる」
そう言うと直ぐ横から、ワゴンの音が聞こえ、アルメの前に料理が並ぶ。
「おぉ」
貴族の食事がどういった物か知らないがアルメのイメージでは、何かと金ピカしているイメージだった。
しかし目の前に並んだ食事は、一言で言えばボリューミーだ。
木製の大きなボウルに、サラダが盛らており、キャベツの上に花の様に切られたトマトが乗せられ、ドレッシングが光輝いている。
スープはポタージュで、上にかけられたクルトンはスープを少し吸ったくらいで、歯応えを楽しめそうだ。
そして、メインは茶色い衣のコロッケだ。
日常で油を多く使う揚げ物をするのは大変だ、アルメは家を持たない、基本狩のため、野宿で、街で宿を借りる生活をしている。油はそんな旅ではただでさえ荷物が多いアルメにとって持ち運ぶのは遠慮したい物だった。
だが揚げ物を食べたい欲は常にある、何と言ってもサクサクの衣が食べられるのは揚げ物だけだからだ。
「遠慮するな」
団長とアシエの目の前にも同じ様に料理が並べられている。
団長の料理の量はアルメの二倍程盛られていた。何故かアルメは自分もそのくらい食べられるのにと謎の対抗心が芽生えた、ご馳走になる手前顔には出さないが。
「いっいただきます」
礼を言い手を合わせ食べ始める。当然メインのコロッケからだ、できるだけできたてで食べたいからだ。ナイフで切るとホクホクのジャガイモが湯気を上げていた。
サクサクの衣とホロホロのジャガイモ、ミンチ肉と玉ねぎの食感がアクセントになり、疲れた体にご褒美をくれる。
「う、美味しいです」
うまい、などといつもの調子で言うのは良く無いと、思い、アルメは言い直す。
「うまいだろ、」
団長のその返しに、アルメはカグンと肩を落としそうになったが、気を取りなをし、質問をした。
「あの、ご馳走になっているのに、何ですが、私、早くエグレゴアの本部に行きたくって」
「エグレゴアか、今の総帥になってから、よく耳にするな」
「!?」
団長は、半分に切ったコロッケを一口で食べる、するとアシエが代わりに話し出した。
「エグレゴアは現在、魔術師総会の出席をほとんど拒否しています」
「バカだよな、やましい事をしていますって、主張しているもんだ」
「やましいこと?」
「お前も噂くらい耳にするだろ、」
団長がコロッケを切りながら、言う。
アルメはローリエとの会話を思い出す。あれはリベルテが情報をローリエに聞こえる様にしたものだが、それ以前に、アルメが耳にしていた噂があった。
「誘拐?」
その噂は、エグレゴアが魔力の多い身寄りの無い子供を誘拐している、そう言った物だった。
「特に、浮浪者が多いゴーデンの街、」
アルメは、納得した。
「だから、王国騎士団がいたのか」
夜の街ゴーデンは、その名の通り繁華街で、酒場や、カジノなどが多く、また王都からさほど遠く無いのにも関わらず、孤児院などの国の支援を受けれる建物が少ない、そのため路地に入れば浮浪者や身寄りの無い子供が、身を潜める様にしている光景が頻繁に見る。
「山間部の魔獣の襲撃率は高いからな、ああいう街はどこにでもあるが、王都からのはみ出しものが自然と流れ着くところでもある、治安の悪さは折り紙付きだろ」
団長はそういいスープを一気飲みした。
「誘拐うんぬんは前からある事だが、ここ一週間、何人もの魔術師が、ゴーデンの孤児院に顔を見せているらしい、どいつも特に何かする訳では無いらしいが、魔力の多いものを出す様に言う、」
それで怪しんだ孤児院の役員が、騎士団の友人にこの話をしたのが始まりらしい、
元々、増えつつある、誘拐や、子供の浮浪者の数に、国側も業を煮やし、騎士団には調査命令が出ていた、魔術師関連な事もあり、魔術を得意とする第三騎士団が、調査と牽制も兼ねて、ゴーデンに訪れていた。
「俺《団長》が、動くとうるさいだ、」
ゴーデンの街で、騎士服を着ていなっかった理由を言い、団長は、最後の一口を食べ終わる。
気がつけば、アシエも食べ終わっており、アルメも最後の一口を飲み込んだ。
「で、特に何も成果を得られず、撤退することになった、変な婆さんを連れてな」
団長は最後の言葉にニヤ付きながら、話した。
「お前を乗せてやったのは親切心だ、魔術師でないことは見たらわかる。
……エグレゴアが、何をしてるか、知ってるんだな?」
アルメも待ち望んだ、質問だ、しかし、リベルテがいない今、勝手に首を突っ込み続けていることに今更躊躇してしまった。
鋭くこちらを見る目に意を決して答えた。
「友人が親を殺されて、復讐しようとしているんだ、私は最初、巻き込まれただけだけど」
こちらを見上げる赤い瞳を思い出し、
「今は、助け出したいんだ、そんでぶん殴ってやりたい」
リベルテが消えた理由は、これ以上巻き込みたくはなかったからだろう、でもアルメは納得しないし、今は、エグレゴアの本部に近づいている。
「気が強いな、いや、……惚けか」
「違う」半眼になり即答した。
「まぁ、その話はこちらも願ったりだな、手伝ってやる、本部内の調査は今の段階じゃできないし」
団長がそお言うと、アシエはすぐに席を立ち、アルメの目の前に預かっていた短剣を返す、
「本部は基本会員じゃなければ、招待されたものしか入ることはできない、アシエは騎士団員だが、エグレゴアにも登録してある」
「どうして」
「身内を使うには、噂話じゃ情報が心もとなくってな、」
団長も席を立ち上がり扉に向かう、アルメも立ち上がり続いて食堂を出ると、入り口のすぐ側でアルメのリュクを抱えた従者が待機していた。
「本部を捜索できる機会が得られるなら、どんな布石だって打つさ、好きなだけ復讐してこい」
つまり、アルメ達を足がかりにしたいらしい。どの道、中身は真っ黒だ、アシエの招待でアルメが本部に入ったことぐらいは、そこまで問題にはならないのだろう。
アシエは何やら団長と目を合わせると、いったん部屋に戻っていった。アルメ達が玄関ホールに着くとアシエも、直ぐに合流した。
「あの、さぁ、彼もエグレゴアの一員何だよね、」
「あぁ、試験を受けた時はまだ、前総帥の時だったからな、」
何故か、少し悲しそうに言う大男に躊躇いながら、アルメは聞く、
「裏切ったり、しないよね」
団長はアルメの頭に手を置いて、頭を左右に振り、笑いながら言った。
「俺らからしたら、お前の方が怪しいぞ、まぁ、サイモスんところの冒険者じゃそんな心配はして無いがな」
サイモスはアルメがお世話になっている、タイバンの街のギルド長だ。
「それに、身内だって言っただろう、何か隠し事をしているなら直ぐわかる」
てっきり騎士団での身内の事を指していると思っているアルメに団長は意味ありげに、アシエの肩に手を置いて並んで見せた。
「…………ぁ、」
その雰囲気から彼らが親子であると 思い至ったアルメ、しかし正直似ているとは思えなかった、おでこにある太い眉毛以外。
どうやら、アシエは母親似らしい。
屋敷を後にする際、窓から、アシエに手を振る、小さな子供とその母親らしき人物を見てアルメはそう思った。