第一章-1
「は…っ!」
ガバッと勢いよく起き上がり、自分の首をペタペタと触れる。
首が真っ二つに刃物で切られた感覚が残っている。
あれは夢….だったのだおうか。
それにしては、かなりリアルだった。
ーーコンコン。
扉のノック音が聞こえると同時に「失礼します」と言って部屋に入ってきた小柄な侍女。
「…..っ!」
ベットから勢いよく飛び降り、部屋に入ってきた侍女をぎゅっと強く抱きしめる。
「お、お嬢様!?」
いきなりのことで驚き、声が裏返ってしまった綺麗な三つ編みが特徴のリリィ。
「会いたかった….!」
私の味方をしたせいで叔父家族に殺されてしまった。
ずっと申し訳なく思っていた。
彼女にも家庭があったのに、家庭よりも私を守ってくれていて、本当に嬉しかった。
「お嬢様、どうされたのですか….?」
少し焦りながらも私の肩を掴み、ゆっくりと引き離す。
ソファーに座らせながら優しく問いかけた。
さっきからこれは夢…なのかな。
夢にしてもリアルすぎる….
自分の頬を思いっきり引っ張って見る。
….うん、痛い。
ちゃんと、痛い。
ジンジンと頬に痛みが夢でないことを語っている。
けれど、中々信じられなかった。
「リリィ、手鏡をくれる?」
「こちらです」
鏡み映る自分の鏡を確認する。
鏡の中には、少し幼いが若い頃の自分の顔が写っていた。
15歳くらいだろうか。
「リリィ、今は何年何月何日かしら?」
「今は、ルミナ暦428年4月28日ですよ?」
「し、がつ?」
「ええ、1ヶ月後にお嬢様の婚約式ですよ〜!」
ニコニコと嬉しそうにしながら、ハーブの香りがするお茶をティーカップに淹れた。
1ヶ月後、婚約式…?
……やっぱり、戻っている….
婚約式1ヶ月前だと、私は15歳であっていた。
この国では、15歳過ぎて婚約者がいるものは貴族であれば、婚約式を行うのが暗黙のルールになっていた。
これは神様がくれたチャンスだろうか。
それとも、神様のいたずらなのだろうか。
….そんなの、どっちでもいい。
もう一度こうしてチャンスをくれたのなら、神様に感謝をしなければならない。
「ふふ…っ」
嬉しくて、口から声が漏れる。
「お嬢様…?」
「リリィ!」
「はい!」
私の大きな声に釣られ、リリィも大きな声をあげる。
「やるわよ」
「はい?」
今度こそ、絶対に殺されない。
むしろ、叔父家族をルルエルディア家から追い出してやる。
そしてーー。
ルカート殿下をお守りするわ。
*
「リリィ、婚約式は1ヶ月後と言ったわね?」
寝巻きのドレスから、部屋着のドレスに着替え、ソファーに再度座り、リリィが入れてくれた紅茶を口にする。
「はい、そうです」
「そう....」
リリィが入れてくれる紅茶は心を落ち着かせてくれる。
あと1ヶ月後に婚約式、ね....
ん?....ちょっと、待って。
私は、あることに気が付く。
ふと私が処刑された日を思い返してみる。
そう言えば、ルカート殿下のことで頭がいっぱいだったけど、
私が処刑された日、私の婚約者のキール殿下はいなかったわね...
キール・リミテッド第二王太子殿下。
現・皇帝と皇后の子供であり、私の婚約者でもあった。
婚約者と言っても、皇后が決めた婚約相手。所謂、政略結婚。
今思えば、たぶんだけれど、大公女の私を婚約者にすれば王位継承権がキール殿下になると思ったんだと思う。
そもそも、今思えば、私の処刑もおかしなことばかりだったわね。
処刑は大公家だからといって、簡単に行えるものではない。
皇族の許可が必要なはず。
かといって、皇帝が許可を出すはずなんてない。
皇帝が、お父さんを裏切るはずないもの...
となると...
皇帝に悟られないよう内密に動き、キールと皇后は、叔父とニベアに関与していた可能性が高いことになる。
....いや、まさかね。
キール殿下も皇后もあんなに優しかったじゃない...
あまり信じたくない可能性が出てきて冷汗が出てくる。
けれど、思い返せば返すほど、違和感しかないことに気が付く。
お父さんとお母さんの死の真相を知りたいと言ったとき、キール殿下も皇后も模索されないように話を変えられたことがある。
私に唯一親身になってくれたのは、ルカート殿下だけだった。
もしかすると、キール殿下と皇后さまにも気を付けた方がいいかもしれない...
叔父とニベアとの関係を探らなければいけない。
なんて思っていると、更に大事なことに気が付く。