第八話「入学試験Ⅲ」
僕は実技試験が終わった後、試験官の人に言われたように闘技場に向かった。闘技場に着くと入口に案内板が建てられていた。それによると今回の実戦試験に呼ばれた人は僕も含めて全員で十人、その中にはエイトやアカネ、コハルの名前もあった。
―エイトたちも実戦試験に呼ばれたみたいだな
名前の後に説明文が書かれていた。それによると名前の書かれた人はそれぞれ別室で試験官の人が呼びに来るまで待機し試験官に呼ばれると呼ばれた者同士で模擬戦を行ってもらうというものだった。僕は案内板に示された部屋に移動し、椅子に座り試験官の人に呼ばれるのを待っていた。
―この間にも模擬戦をしてる人がいるんだな、エイトたち無事に合格できるといいんだけど、いや、みんなならきっと大丈夫だ。今は自分のことだけ考えよう。
しばらくすると僕のいる控室に実技試験の時の試験官の人が入ってきた。
「お待たせしました。実戦試験を行いますので闘技場に行ってください」
「はい、わかりました」
―いよいよだな、頑張らないと
試験官の人に呼ばれ僕は闘技場に向かった。闘技場に着き中に入ると中には今までの模擬戦がどれだけ激しいものだったのかを物語るような光景が広がっていた。所々地面がえぐれ、岩属性の人が作ったような大きな岩から少し小さい岩まであちこちに散らばっていた。
観客席に視線を移すとそこには数人の大人の人が座りこちらを見ていた。僕は視線を闘技場に戻すと向かい側の入り口から少し長めの黒い髪に黒い瞳、黒い服を着て口元を黒いスカーフで隠している全身黒衣服を着たおそらく僕の対戦相手であろう人が闘技場に入ってきた。そして僕たちが向かい合うと実戦試験の試験官であろう人が僕と相手の人の間に入った。
「これより実戦試験を始めます。両者横にある武器を手に取ってください。武器はすべて木製です。自分が得意とする武器を取ってください」
試験官の指示に従い僕たちはそれぞれ武器を取る。僕はたくさん振ってきた木刀を選ぶ。
「両者、武器は取りましたね。それでは、ユウとシンの実戦試験を行います。実戦試験では魔術の使用は自由ですが武器の強化などをした場合、その武器に殺傷能力がある場合は相手への直接的な攻撃は禁止とします。勝敗は相手の戦意損失または戦闘不能もしくは私が勝敗が決したと判断した場合です。説明は以上になります。両者、準備はよろしいですか?」
「はい!」
試験官の説明を聞き終え、僕たちは準備ができていると返事をする。
「それでは、実戦試験最終戦、開始!」
試験官の開始の合図と同時に僕たちは武器を構える。
「術式展開、影裏」
シンが術式を展開する。シンの下の地面に濃い紫色の術式が浮かび上がる。するとシンの体が地面に沈んでいく。そしてシンは地面の中に消えた。
―どこだ、どこにいる
僕はシンがどこから出てくるのか辺りを見渡し周囲を警戒する。すると僕の後ろの岩の影からシンが出てきて僕に向かって短い木製の短剣で切りかかる。僕は後ろから切りかかられていることに気づき体を後ろにひねり木刀で間一髪のところで相手の攻撃を防ぐ。
「くっ」
「よく防いだな、だが!」
そう言うと、シンはせめぎ合っている武器を引き少し後方に下がり再び地面の中に沈む。
―くそ、またか!
僕は再び消えたシンがどこから攻めてくるのか周囲を警戒する。僕が右を向いた隙に左にある岩影からシンが現れさっきより早く襲い掛かる。気づくのに遅れた僕は木刀で防ぐが相手の方が勢いがあったため防ぎはするが後方に少し吹き飛ぶ。攻撃を終えたシンは再び地面の中に沈み再び僕の隙を見て襲い掛かる。
「俺は影の魔術を使う。この環境は俺にとって有利だ。前に戦った奴らのおかげでこの闘技場には無数の影がある。影に沈んで俺はお前を好きなタイミング、好きな所からいくらでも攻撃できる」
「そういうことか、なら影の位置を把握すれば!」
「把握しても無駄だ!」
そう言うとシンは再び影に沈む。僕は影の位置を全て把握するがどこの影からどんなタイミングで攻めてくるのかわからず僕はシンの攻撃に防戦一方になる。
「くっ仕方ない、術式展開!アイシクルソード!」
僕は木刀に青い術式を展開する。すると木刀が氷に覆われていき氷の剣ができる。そしてシンが攻撃を仕掛けてくるタイミングでシンに向かって地面から上に向かって剣を振り上げる。すると地面から氷が出てきてシンに向かって襲い掛かる。
不意を突かれたシンは氷を短剣で防ぐが後方に吹き飛び地面に膝をつく。
「氷か、やるなあ、そんな攻撃の仕方があるとはな。少し驚いた。けど、感謝するよ、影を増やしてくれてありがとう。これからもっと早く攻撃するぞ、術式展開、シャドウブースト」
シンは新たに術式を展開し、地面に再び術式が浮かび上がる。するとシンの体から濃い紫色の影のような物をまとい再び影の中に沈む。
「うわあああああ」
攻撃に備えていた僕だったがシンが攻撃を仕掛けるとさっきよりはるかに速い攻撃を防ぎきれず、体にシンの攻撃が直撃し僕は後ろに吹き飛ぶ。その後もシンの攻撃を防ぎきれず攻撃を受ける。
―くそ、このままじゃ負ける、あの影をどうにかしないと。よし、あれを使うか
「そろそろ終わりにするか」
そう言うと再びシンは影に沈み始める。その時
「術式展開、フロストネブリーナ」
僕の下の地面に青い術式が浮かび上がる。すると辺りに霧が発生する。
「こ、これは」
急な霧に困惑するシン。すると観客席から少し声が聞こえる。
「ほお、氷の使い方にこんな方法があるとはな、しかもこれは普通の霧じゃないな、どちらかというと濃霧だな、これだとせっかくの影も人影くらいしか出てこない」
一人の男の人がそう言うと別の人が付け加えるように言う。
「濃霧だけではないですね、霜も出ています」
地面にできた霜を見て言う。
「くそ、何も見えない。どこにいる」
濃霧に視界を奪われたシンが辺りを警戒する。
「この勝負勝たせてもらうよ。僕は君がどこにいるのかどう動いているのかすべてわかる」
僕は氷を扱う、どんな氷でも扱える。それは霧や霜も同様。僕はこの霧の中で霧の異質な動きを感じ取れ、どこで何をしているのかが分かる。
「術式展開、氷華結縛」
僕は更に術式を展開し地面に術式が浮かび上がる。
「な、なんだこれ」
シンの下の地面から氷の茎が出てくるとシンの体を縛る。そして縛った茎から氷の花が咲く。
「くそ、動けない!」
体を縛られたシンが抜け出そうと体を動かすが抜け出せない。そして僕は歩いてシンの元に近寄りシンの首元に剣を近づける。
「術式解除、僕の勝ちだ」
そう言うと辺りを覆っていた濃霧が晴れる。そして試験官や観客席から見ていた人たちが縛られて身動きの取れないシンの首筋に武器を近づけているのを見る。それを見た試験官が叫ぶ。
「勝負あり!勝者、ユウ!」
試験官が勝負がついたことを叫び実戦試験が終了した。