稀代
冷たい基地の床に倒れている敵兵。報告の通りならば、静かな空間が待っていたハズ。なのに、到着するや否や浴びせられる罵詈。救出の際に真珠が眠らせていたはずだが。
「お客の扱いがなってないよ。こんな冷たい所で寝かせるだなんて」
今までが嘘のように淑やかな口調。もしも撃墜時には無事だったのだとしても、想像剣で気絶をさせ、真珠の攻撃を受け、もう一度眠らせたのに、平然としている超人。
もう一方の男も当たり前のように起きて、日本語で喚いている。先ほど見せた尋常ではない抵抗なども含め、彼らも人の域から食み出しているのは明らか。
だとしても二人の変貌に説明はつかない。両目ともにウルフアイであった者が、片目は完全な別物へと変化している。男は濃いめの黄色。女は暗い青。
「何ジロジロ見てんだよ。見世物じゃねぇんだぞ。何より、ディアナに触んな」
縛られたままであっても、睨みを利かせる男。彼を上から押さえている錬一の体が揺れ動く。全力で暴れたのなら一溜まりもない。
「アポロを苛めていいのは私だけなの。早く降りなさい」
女は身動きせず言葉のみで威圧。二人から発せられた言葉により、機体ではなく搭乗者の名であったのだと判明した。だが、考えを巡らせる余裕はない。
ディアナに乗る彩愛の表情が曇る。敵二人の要求は同じ。なら解決方法も単純なもの。
「無論だ。我々としても君らに危害を加えるのは本意ではない。大人しくしていてくれるのなら、手荒な真似はしないと約束しよう。これから先にもだ」
押さえている龍神家の二人を振り落とし、立ち上がってなお何ら表情に変化を見せない敵エース。ただ、双方の視線は僕へと注ぐ。氷と炎を思わせる、対照的な色味。
背後からは漸く後続の気配。足音は一つ。真珠が先行したらしい。僕の言葉が聞こえていたのだろう。両親の危機を前に、落ち着きは保ったまま。若しくは、絶対的な自信。
今の自分であれば、何が起ころうとも二人を助けられるという、明確となった事実。
僕へ向けられた敵意が一瞬、背後へ。青い瞳が隠れ、深く吐かれた息。
「いいわ。勝ち目もないでしょうし、私たちの負けでしょうしね。アポロもいいわね」
切れ長の目で男へと合図。もしも裏があるのなら、バレバレな方法は選ばないだろう。
「お、おう。俺はディアナが無事で済むならなんでもいいぜ」
数秒前と比べ、勢いを失った声。ディアナからは返答がなく、代わりに立ち昇る湯気。
性格が変調したのに伴って、二匹といった呼び方が似合った見た目も、せいぜい獣人と形容するのが限度というほどに落ち着いた。けれども、遅れてやって来たメイドたちから上がるのはどよめき。彼女たちとて龍神家に関わる際には、相当な覚悟をしたのに。
「私たちからしたら、旧世界のヒトのほうが珍しいんだよ。人間さんたち」
おそらくは社会性を持つ必要もなく、間を繋ぐ理由を排した世の中で育った二人。龍神という家を支えるために尽力するメイドたちとは、正反対の存在。
「珍しいなら、ちゃんと見なさい。私たちもアナタたちをちゃんと見させてもらうから」
希少性においても、地球上で彼女に勝る者はいない。神が世に顕れた今という時でも。
「アンタだけはよく知ってるよ。龍神真珠」
己を打ち倒した相手。なのに、ディアナの瞳にある彼女は、正しく映る。
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