神化
瞬間移動の最も有効な使い方。インパクトのタイミングで敵の前に現れたのなら、回避を行うなど不可能。ただ神の領域であれば、攻撃の動作自体が遊びだとも言えるのだが。
現れた神は左の手刀を振り抜いた。まるで標的の抵抗を感じさせず、残された衝撃波が大地を抉り取る。目に映るのは、真珠の一部をも認められぬ惨状。
神覚を使わずの蛮行。一呼吸の後、仲間の悲鳴が木霊する。
「私はただ待っているとは言わなかったわ。忠告代わりに、まずは一つ」
今の自分が倒されることは承知の上でも、奴に溢れるは勝者の余裕。
「そう。ならついでも貰って行こうかしら」
僕に注ぐ視線。魅力のない芸術的な顔で、挑発するような表情を選ぶと、大きく右手を振り上げた神。防がれてもよく、目的を達成できてもよいのだろう。
ただ、僕がするべきは標的に選ばれた敵のエースを守ることではない。優先するのは、泣き続ける味方に状況を示すこと。
「皆の気持ちは理解できる。だが、しっかり今を見つめるんだ。奴は何も成せはしない」
眼中にないものに挑発されたとしても、何も感じはしないだろう。けれど、自身と同等か格上だと理解しているものからであれば、反応せずにはいられない。
人間サイズに縮んでいた神。精神も人間と同等になったのだろうか。表情に翳り。
「なら。この場で貴方の宝を全て消すわ」
理の力が奴の存在を歪める。いや、正しい姿へと戻したのかもしれない。嗚咽を漏らすシンライと肩を並べるほど大きな、ヒトとは異なるモノだと知らしめる巨影。
僕の言葉を否定するためか。恐怖心を煽るかのように、力強く、けれどゆっくりと振り下ろされる拳。絶望や滅びをもたらすはずの一撃。だが、奴の思い通りにはならない。
「私を待つ必要もないでしょうに」
瞬間移動の利点を最大限に活かした戦法。銀の剣が敵意を砕く。胴と分かたれた右腕は空へと舞い上がり、傷口から迸る閃光。痛みなど感じないはず。なのに歪む神の顔。
「人間が耐えられる訳がないのだ。なのに、なぜ。なぜ貴様が現れるのよ」
現れた純白の救世主。シンセイの体には、傷一つない。大穴は消え、輝きを放つ装甲。
「どうやら我々の希望は、予想を遥かに超え成長しているらしいな。嬉しい限りだ」
僕の心に浮かんだ言葉を、パールの美声が同時に読み上げた。誰に知られることもない必然の奇跡。真珠が遂げた進化だって同じ。
弥生との戦闘を経ていなければ有り得ないこと。成長という定義には収まり切らない。
「僕らと同じか」
彼女たちならばいずれは到達すると思っていた。溢れ出るオーラは人の身に宿るものと違い、物理法則の外にあるもの。欲目なんかではなく、正しく神の力。
「ただでさえ勝ち目はないというのに。神を愚弄するのもいい加減になさい」
残る左手を伸ばす敵。もはや勢いはなく、悪足掻きや意地を張っただけ。
現状に届きはしない。シンセイは消えると同時に伸ばされる神意を断ち切った。再出現は奴の背後。当然ながら相手は振り向こうとする。許されるはずなどないのに。
「真珠、神は滅ぼすな。その先にあるのは、絶対に抗えない存在だ」
先程は僕にだけ届いた声。今は真珠の耳に向けて飛ばされた。シンセイは響きを受けると同時に転移。倒すため放った蹴りは威力を失くし、世界に亀裂を入れただけ。
「気を抜くなと言ってるのよ。ずっと」
元より敗北を覚悟して現れた相手。勝機を逃したときに選ぶ一手は、世界に入った亀裂をも覆い隠すほど鮮烈な、自らを爆ぜさせる意志の輝き。
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