変容
眼前で伸びた敵から、真珠に視線を戻す。すると目に飛び込んできたものは、爪先から降りて左へ膝を曲げ、前転することによって衝撃を流す、華麗な受け身。一つ間違えれば大怪我では済まない。幼少からの訓練で身体に染み込ませた、自然な動作だからこそ。
ただ、今の彼女ならばシンライを優に越す高度からの三点着地を行っても、無傷だったのかもしれないが。
「援護が間に合わず、申し訳ありません」
意識を真珠の後ろに動かすと、シンライは銃口を敵エースへと向けていた。おそらくは味方全員が退避していた場合、ゲイルが危険を排除していたのであろう。
「いや、鳥黐だとしても射線上に味方がいては安易に撃てまい。中佐の判断は正しいよ」
誰もが分かり思い付くであろう言葉。口にする必要があるかは不明。だとしても、僕は彼に伝えたいと思ったのだ。特に深い考えがあるという訳でもなく。
「ありがたいお言葉です。少将」
今の僕にはゲイルの表情を読み取れる術はない。だが、力を使う必要だって。
気絶した二人をまとめて鳥黐で捕らえた。標的だけにくっつくということもなく、運ぶには周囲の地面ごと持ち上げる必要がある。つまりシンライには乗れず、帰りは徒歩。
「屋敷まで何キロだ?」
歩き出して数分。弥生一人ならばゲイルと相乗りも可能なハズ。光悦が許すのなら。
「さぁ。十数キロくらいかと」
超人的な動きの後で歩いていても、真珠は普段通りといった様子。そして、僕の意図に気付いたのだろう。両眉を上げると、僅かに口角も上げた。
「弥生ちゃんにはシンライに乗ってもらうとしましょうか。少し狭いでしょうけれど」
真珠の提案に青年も反対する様子はない。弥生を乗せるため、シンライが荷を下ろす。
「ナンダコレ、気持ちワルい」
ねばついた物質の中から聞こえるカタコトの声。有り得ないほどに早い目覚め。
一度ならず二度までも。間違いなく彼らは想像剣、つまりは始まりの力に耐性がある。
「なぜ起きられる。何をされた?」
中国がしていた遺伝子研究。配列を意図的に組み換えることや、複製すること。禁忌を犯すような技術は未熟なまま終わったはず。僕も知らない何かの存在。
いや、本当は嫌な情報をしっかりと覚えている。一九九九年の出来事を。
「私たちは選ばれし子供なのさ。本物の神様にね。だから、なのにこんなことヲッ」
切り取られた地面が揺れ動く。当然のことだがSF用装備となる際に、粘着物質は従来品から大幅な強化が施されている。直接的な殺傷力はないとしても、男性軍人二十人ほどなら難なく捕らえておける、正式な兵器。指一本でも動かせるはずはないのだ。
「私たちをこんな物で縛れるナンテ思うな。産まれてくるまでに比べればさ!」
激しさを増す脈動。いかなる達人も強靭な筋肉を誇る獣も、初動を封じられては無力。ましてや、大地を砕くことや枷を破るなんて不可能。成せるとすれば。
「神には届かなくても、地球上のモノなんかには負けないようになったんだ」
先ほどから吼えている女性。言葉通りだとすると、なぜ真珠の一撃で沈んだのか。
「レン。バリアが開いた」
次々と浮かぶ疑問に終止符を打ったのは、パールの通信。反射的に上がる体温。けど、振り向くのが一拍遅かった。真珠の背後より迫る一撃は、死神の鎌。
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