神告
神覚を緩め、時の歩みを許す。徐々に周囲も動き始めるだろう。などと思っていると。
「なぁ、レン。あの子に甘えられたら、私も同じ反応をしたかもしれないが。それでも、あの子に真実を伝えても、私たちの自己満足にしかならないだろ。堪えてくれ」
優しく清らかで、懐かしく心地よい響き。自分でもミスだと分かっていた。反省の仕方も理解している。何もかもを伝えるべきではない。例え受け入れられることだとしても。
「僕自身でも迂闊な反応だったと思う。何か特別なものを感じられていたとしたって」
パールには僕の考えなどお見通し。惹かれ合い同じ時を重ねれば重ねるほど、お互いに何を思っているのかは分かるもの。始まりの物語からであれば、推測さえいらない。
とはいえ、僕には彼女に対して至らない点がまだまだ多いのだけれど。今回みたいに。
「レンが理解してるのはモチロン知ってる。けど、私が直接頼めば揺らがないだろう?」
きっと不敵な笑みを浮かべているのだろうな。直接拝めないのが勿体ない。
「うん。モチロンだよ」
僕の返事を待っていたパール。微かな笑い声のあと、表情を真剣なものへ変えた模様。
「じゃあ、別の話だ。天使と呼ばれる機体のパイロットたち。彼らの状態からすれば他に変異してる者も多いのだろう。長引かせる訳にはいかない」
彼女の意見が聞けて良かった。神の召喚を終えた現状。相手の能力も未知数であるからこそ、時間を与えるのはマズイ。既に手遅れかもしれないが、犠牲者が増える前に叩く。
「僕がやってもいいけど、主役は彼女だね」
今のシンセイは、おそらくさっきまでとは別物。あと何回かの戦闘を終えれば、自在に神覚を扱えるようになるだろう。文字通りの天才。頼もしく、誇らしい限りだ。
「今のあの子なら、バリアも斬り裂ける」
地下基地の入り口へ到着するのとほぼ同時に、正常化した時の流れ。遠くからは人々の声が届き、慌てているのが伝わる。錬一たちは僕を待っているのだろう。
岩肌の壁面。様々な機器が並ぶ通路。数機のシンライが立っている格納場所。十秒ほどを掛けてじっくりと目に焼き付けた。進撃の号令が響けば、今よりも余裕はなくなる。
「待たせたか? 状況を教えてくれ」
仲間が集う司令部はシンセイのすぐ近く。白騎士は主を見つめるように立つ。痛々しい胸の穴を気にする素振りなどもなく。
僕の声に一番早く反応したのは舞。錬一、ゲイルと続き、ようやくシンセイから視線を外した真珠。今回も彼女の表情を捉えられるのは僕だけ。愁いを帯びた顔を。
己が半身が傷ついたのだ、無理はない。
「コスモスのミスト元帥、当基地の龍神錬一中将ともに指揮権を少将へ委譲されました」
慌ただしく流れる人たち。彼ら一人一人が自分の仕事を全うしている。僕に想定通りの内容を伝えた舞も同じ。だから、無理に高い階級を用意しなくても良かったのだ。
「全軍の指揮権ということになるか。だが、僕が動かすのはイメージフレームのみだよ」
SFまで動員したのでは、もし入れ違いに攻めて来られたら守り通せない。
「けれど、SFは主要都市の防衛に最低限を残し、バリア付近の警戒を高める。新城くんは各国の部隊へ移動指示を頼む。敵兵の捜索をしている者も呼び戻してくれ」
最優先事項のはずである敵エースの捜索。何も知らない彼女たちにしてみれば、事実上の打ち切りに聞こえるだろう。当然、薄らと不安が浮かぶ。
「念のためにシンライを一機出す。ブラトン中佐にはパイロットをお願いする。他には、龍神大佐、獅子崎兄妹、同行を頼めるか?」
民間人である弥生を連れ出すのは、本来はあり得ない指示。さらには、少し前まで敵であったにも拘わらずだ。全権を委ねられたとしても、非常事態でもなければ通らない。




