心意
タハダの一件があり、気を失った人が大勢いたものの、勝利により賑わいを見せていた基地内。けれど真珠の一言で、探知の必要もないほどに、浮わついた空気は消えた。
僕に注がれる視線には、今はまだ敵意まではないのだろう。先の展開次第ではあるが。
「私とさほど変わらない歳で少将に昇格。席が空いたからだとしても、何一つ噂も立たずというのは不自然ではないでしょうか」
指摘の通り。裏工作が行われたのは事実。正体を知るのは、錬一とミストの二人だけなはず。とはいえ、直接の指示を出したのは僕ではないから、階級に驚いたのだけれど。
表情を曇らせる錬一とは対照的に、真珠は顔色一つ変えずに続ける。
「操縦技術もです。あれほど自然に反応して動くには、相当場数を踏まないと無理です。あんな腕を持っていて、誰にも知られないだなんて、有り得ないのではないでしょうか」
突撃取材でも受けているような気分。でもまだ、先ほどの発言に至るには不足。真珠の疑問も止まる様子がない。声のトーンを一つ落とし、考えを纏めながら話している模様。
「機体に使われている技術もです。世界最高の技術者でも、シンセイを一から作るというのは不可能。ならどうやって、少将の機体は生まれたのでしょうか?」
まだ一歩足りない。推理や状況から考えていたのでは辿り着けない、真珠の答えには。
「そもそも。私を倒した神を葬った貴方は、見たこともないほど真っ赤に輝いてました」
鎌をかけられているのは解る。周囲の者に伝わらない言い方をしたのは、真珠の気遣いだとも。だけど、だからこそ。言えないことがあるのだ。
弥生と光悦を除く仲間たちは真珠の周囲に立ち、彼女と僕へ交互に視線を送る。
「タハダくんの件もあった。君の懸念は尤もだろう。それに、気取られぬように援護したのも確かだ。敵や僕自身について話すわけにいかないこともある。けれど、皆を謀ろうとして話さないのではない。人の命を守るために、避けられないことなのだ」
全ての問いに答えられていないのは承知の上。だけど。今の僕にできる最大限。
おそらく真珠は、生死の境をさまようことで、大幅に力を増したのだろう。五感の延長ともいえる神覚。特別な訓練もなく、彼女は開花させようとしているのだ。
だとすれば下手な誤魔化しは逆効果。いや違う。今回の騒動に関係する。むしろ当事者である彼女には、本音を伝えたい。
今まで伝えられなかった分、僕の想いを。
「答えになっていないと思うのですけど」
珍しく辛辣な返事。ゲイルと舞は真珠の隣で目を丸くしている。知る限りでは敵や錬一にも見せたことのない、真珠の新たな一面。仲間や、本人さえ気付けはしない甘え。
「すみません少将。普段はこんなことを言う子ではないのです」
場を収めるためだろう。錬一が言葉を僕に投げた。他の者には見えない彼の表情は、ご存知だと思いますが、とでも言いたげ。当然よく理解している。同時に、少し嬉しい。
きっと彼女自身は分からなくとも、他の人と違うモノを感じているのだろうから。
「えぇ。そうだと思います。飛び抜けた戦力が出自不明であれば不安になる。龍神大佐が守ってきたモノを脅かすかもしれない、と。けど、僕は君たちの味方だ」
真珠へ視線を移しながら話す。言葉を選びつつゆっくり。他の人々にも伝わるように。
「いきなり信用してくれとは言わない。今日までを埋めるため、行動で示してみせるよ」
決してコウリュウのパイロットとしてだけではない。人々を守るという、パールからの願いを聞き届けるため。そして、もう一つ。彼女と僕の、大切な存在を守るために。




