偽り
真珠以外の特別な存在を含む、全ての人類が協力することで相打ちにできる程度の力。今、戦場にいる神の性能だ。コウリュウ自体の戦闘力だけでなんとか勝てる設定値。
機体の性能だけでは光速を超えられない。比較的小さな弾丸や一部のみなら可能でも、移動速度でとなれば話は別。当然、光の先にある領域など、人の世界では夢物語。
だから、人類が認識できる早さに調整してあるのだ。頭部を狙って繰り出される手刀。見切りさえしたら、首を傾ければ回避可能。シンセイにだって問題なくできる芸当。
「このくらいでいいだろう。場所を変える」
海上へ押し出すように、目の前にいる巨人の腹部へ蹴りを入れた。神覚によるカバーが解かれていたため、僅かに揺れる機体。迂闊に打撃を放てば、装甲が負けるだろう。
だが、人のいない海へと押し出せた。後は時間を稼ぎ、頃合いを見て倒せば済む。
後方を確認すると、ようやく到着したシンライが二機、シンセイを挟んで持ち上げようとしていた。鳴り響く警告音。意識を真珠に向けた僅かな隙。だとしても、高速戦闘では命取り。視線を戻すと、眼前には手。完全に回避するには神覚を少し解放しなければ。
イメージに従い上体を逸らすコウリュウ。
「やられっぱなしじゃ、帰れないのよ」
聞き覚えのある自信と力に満ちた声。神覚を放つ前でよかった。彼女の活躍を、自分の目で確かめられるのだから。いつも見ていた銀の剣が、モニターを通り過ぎる。
直後、生身の女性と剣が衝突。生々しい音が鳴るハズの周囲には、脳が揺れるほど高らかな、鉄同士がぶつかったかのような響き。おそらく、威力不足だったらしい。だが。
高速戦闘では、僅かな隙が命取りなのだ。僕は上体を逸らしたまま、相手との間に両足を入り込ませる。後は、押すのみ。またもや機体は悲鳴を上げるが、攻撃のチャンス。
「合わせるんだ。龍神大佐」
敵は姿勢を崩したうえに、距離も空いた。僕は空中で後転すると、ライフルを構えて、射つ。弾かれた様子もなく、相手は仰け反りながら風穴のあいた右腕を押さえる。
トドメはシンセイ。剣を両手で握り、右へ水平斬り。予想通りの、生々しい音が響く。
「なんだか、呆気ない幕切れですね」
先ほど斬れなかったのが嘘のように、敵の胴体は真っ二つ。真珠が信じられないという様子なのも無理はない。だが、勝利は事実。本物とは違い、再生する能力などないのだ。
降り立った龍神家内の秘密基地は、戦闘の影響か、至る所で物が散らばっている。堅牢なハズの岩壁にはヒビ。目視のできなかった地下施設までは、修復していなかったから。
「紹介する。本部から増援として来られた、アルヒ・エリスロー少将だ」
物陰から顔を出した僕を指差し、錬一が皆に伝えた。一斉に視線が集まる。
「ご紹介に賜りました。アルヒ・エリスローと申します。以後よろしくお願いします」
昔から使っている名前のように、自然と口が動いた。場の雰囲気に合わせた対応。永遠に等しい時間を生きる中で培われた、自慢にならない能力。誰も気付くことはない。
「けど少将って、人間じゃないですよね?」
僕へと集まる視線。人々の生きた声の中。空間を裂いたのは凛々しい響き。




