始動
子供たちの軍隊に合流するとしても、僕の正体を明かすワケにはいかない。騙すようで気が咎めるが、彼らのためにも必要な処置。まだ、早いのだ。
「時を動かす前に、一つお願いしたいんだ」
十分に距離を取り、神覚を弱める。正常な流れを思い出す時間。天変地異は治められ、何事もなかったかのように、次第に元の姿を取り戻す地球。
機体越しに届く、風の音。海の香り。視覚に伝わるのは、まだ遠くにある五つの存在。白い騎士は胸を貫いていた腕を引き抜かれ、力なく崩れ落ちる。
さて、上手く事が運ぶか否か。
「光悦くんが出ているということは、そっちの機体には弥生くんが乗っているのだろう。二人とも、動けるなら大佐の援護を」
ゲイルの声。通信機能が正常に働いている証拠。身動きの自由を奪われた彼。他の二人も同様だと知るハズもない。兄妹は口を揃え否定の言葉を発した。ため息に似た音を。
彼らの前には、無表情な巨人が立つ。
両膝を地に突き首を垂れるシンセイへと、トドメを放つ女性。先ほどとは違い、何一つ声を上げることはない。振り下ろされる手刀は鈍く、音の壁を叩く程度。
ゆったりとして見える動作に対し、三人の悲鳴が上がる。事態の深刻さを表すに充分。救援が駆けつけるためにも。僕から彼らの所までは五キロメートルほど。
コウリュウを現地点に固定。動きながらで簡単に済ませられる動作なのだが、狙撃したという体裁を繕う。武器をライフルに変更。スコープを覗けば、大気を震わす手刀。
目に見える。そして何より、止まったように遅い。イメージするのも容易いこと。
コウリュウが引き金を引く。新たな幕開けを告げる。高らかな銃声。
光の速さで駆ける弾丸は、発射とほぼ同時に標的の腕に命中。軌道を逸らし、イメージ通りに体勢も崩した。海面を波打たせ、銃声が彼らの元に到着するまで数十秒。
僕も共に向かうとしよう。
「接近中の機体。所属と目的を。って、友軍信号が出てる? アルヒ・エリスロー少将」
舞からの通信で知った偽名。始まりの赤。とでも言うのだろうか。彼女が付けてくれたと分かる洒落た名前。しかし少将とは、過剰な階級だろう。自由に動ける権限がなければ困るのだけれど、流石にちょっと。
「敵が動くようなら僕が相手をする。付近の動ける機体はシンセイを連れて後退せよ」
我ながらよく対応できたものだ。パールと違い、ヒトと話すのは久しぶり。なのに声も震えず、威厳ある物言いだったと思う。昔、僕を鍛え上げてくれた人のように。
北海道の大地へ到着。銀世界は広がらず、戦闘の影響で岩肌が剥き出しになった山々が物寂しげに出迎えた。龍神家にはシンライが数機残っている。回収作業が終わるまでは、偽りの神を相手に、約束された勝利を演じておくとしよう。




