再臨
シンセイとマントの相乗効果によって跳ね上がったのは、真珠の感応力だけではない。人類。いや、地球そのものの危機を前にし、救世主は誰よりも早く駆けた。
特殊な力を使わずとも、単純な性能で弥生の瞬間移動と同等の速度を出す。攻撃面にも速度は関係する。鋭さを増す一閃は、光の線を残して全てを断ち斬った。
真珠の動きを見た仲間たち。次々に全力の一撃を放つ。速度を乗せた斬り込み。風圧と水流を併せた掌底。次元を裂く光る矢。四つ全てが今までを超えた力。なのに。
「動く前に叩く。確かに理に適うやり方ね。それとも、コチラの世界ではこれが挨拶?」
不思議そうな口調。四人の攻撃を受けて、何一つとして感情に揺らぎがない。暗闇の中に現れた透き通るように白い細腕。人差し指を上から下へ動かした。次の瞬間。
地に伏した四機。身動きも取れぬ様子。
「私も挨拶しないとね」
一瞬と呼ぶにはあまりに短い時間。言葉を発し終えると同時に、顕現した神の手には、胸を貫かれたシンセイ。周囲の三機は四肢をもがれ、ただ見つめるのみ。
白い肌の女性。風に靡く腰まで伸びた銀の長髪。ピンクの唇は薄い色の中で映え、高く細い筋の通った鼻は、終焉をもたらす存在に似合わない美しさを際立たせる。
「大佐と似ている」
息を呑むゲイルの囁き。彼の言葉通りだ。真珠を思わせる顔つきは相手の出自を示す。ただ一つ違うのは、滅びを与えようという、冷たさ。生命を許さぬ絶対的な圧力。
「今回の神はいきなり本気のようだな。流石に相手が悪いか」
残念そうな声が響く二人だけの空間。
「もしもの備えは使わずに終えたかったんだけど。私たち二人の我儘に、子供たちを付き合わせる訳にもいかないし。それに」
不安というよりも、離れるのが嫌といった声色。いくら時が流れても、変わらない。
全ての始まりから変わらない一番の音色。
「大丈夫。誰も消させずに終わらせるから。僕もキミも。真珠たちも、今回こそ」
永い時の中で落ち着きを手に入れた声。
「だから心配なんじゃないか。格下相手だと手を抜いて、もしものことがあればと」
信頼されてない訳じゃない。声色の変化でただ身を案じてるのだと解る。
「キミを一人残して終わったりしない。約束するよ。全部守るさ。託されたモノ全部を」
あくまでも冷静に告げた。城を流れる空気が変わる。そして射し込む光。
「私の力を使った物だ。相手を滅せば、あの人に伝わるだろう。それに、生身で戦う百分の一ほどしか力を出せない。神覚も機体内に留める必要があるし。それに、その」
変わるモノと変わらないモノ。寂しがり屋になったのかもしれない彼女。頬から両手を離してくれない。やっている場合じゃないと分かっていても、せめて時の許す限りは。
「離れてても、僕とは話せるでしょ?」
耳をつつく。当たり前となって忘れていた様子。二人してとっくにヒトとは違うのに。
自由を赦された頭で、光の射す先を見た。深緋を基調に純白をあしらった西洋鎧。真珠の機体との差は、両手に備えた鋭い爪、本体と同じ長さの尻尾、マントの代わりに翼。
「前に出た時はドラゴンだの何だの呼ばれただろ。折角だからイメージに入れておいた」
兜からは紅い鱗のような物が三本。龍騎士と呼べばいいだろうか。
「使い方はシンセイと同じ。もっと言えば、体を動かしてるのと同じだ」
手を繋いでコックピットの前へ。広大な城の中とはいえ、龍神家以上の施設が存在するなど、地上の人間には知る由もないだろう。久しぶりのデート気分。
そして訪れる、しばらくの別れ。
「じゃあ、行ってらっしゃい。あ、そうだ。気を付けて。忘れ物はないか?」
転移装置を使い外から取り込んでいる陽光さえ消し飛ぶ、目の前にある笑顔。
「小まめに連絡するよ」
イタズラな輝きが短く弾ける。いつまでも変わらない。最高の宝物。機体の胸部が開くと、無限に広がる内部。地上で神に貫かれた真珠を、今からでも助けに向かえる理由だ。
「じゃあ、行ってきます」
コックピットハッチが閉まる。視界で手を振る女神が、生身から映像へ切り替わった。
「そうだ。名前、何にしようかな」
余裕があれば、数時間は悩むだろう。友のようなネーミングセンスに恵まれてないのだから。すると早速、耳に届く声。久しぶりの感覚。だが美しい響きのおかげで悪くない。
「子供たちに付けた名前で出しきったのか。自分の機体なんだ。好きに付けるといい」
確かに。なら、さっき思い付いたものを。鉄の扉が開く。本来なら流れ込むはずの海水や、融けた外壁、全てが道を作る。人の種を蒔いた時を思い出す。
今も昔と同じ願いを込めて。
「コウリュウ。レン・ドレイグ、出撃する」
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