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新星  作者: 煌煌
第十一話 堕天
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雲翳

 扉が開く。世界を二分する境界。今までの平和を終わらせ、新たな局面への。

 バリアに空いた穴からは韓国があった領域が見える。建ち並んでいた群れの姿はなく、土地はひび割れ、人の姿もない。そして、赤に染まる空。地球とは異なって見える世界。

 即座に塞がった穴。衛星にも敵の姿を確認することはできない。なぜなら、彼らの速度が時間の動く早さを超えているから。国境と海を越える転位。悪魔の顕現。


 遮る物のなかった空。トーマスの瞳に突如として緑色の雲が映る。風を征する悪魔。


「振り向かずに真っ直ぐシェルターへ」


 大きな影の中。目を丸くしながらトーマスは父娘に言った。彼の尋常ではない様子に、幼い子の好奇心は後方へ向かう。だが、今回は動いた父の身体。終末から走り、逃げる。

 初夏の北海道。雪解けによりコンクリートが大半の色を占める大地。上空の悪魔が纏う風とは別に、何かが激しく足下を揺らす。父は走るどころか立っていることも許されず、娘を庇って背中から灰色へと倒れ込んだ。

 ようやく上がった人々の悲鳴。けれども、自身の耳に届くのは別の音。大地の叫び。

 地鳴りはみるみる激しくなり、倒れている人でさえ宙に舞う。すると、灰色に亀裂。

 コンクリートを貫き現れる爪。手は地面を払い除け、逞しい腕を生やす。太さと高さを増し続ける茶色い山。そして、肩とたてがみが同時に見え、大穴の中に悪魔が立った。

 緑の竜巻と茶色の獅子。二機同時に出現。顔を見合わせ頷くと、付近の人間へ獲物を向ける。暴風はトーマス、鋭い爪は父娘へと。


「ツイてないな。まだ伝えきれてないのに」


 トーマスは緑の空を見上げたまま。動かぬ身体とは反対に、瞳の揺れは収まらない。


「お父ちゃん。怖いよォ」


 娘も振り向き、天を仰ぐ。目に入るはずの青は見当たらず、白い爪と腕の茶色が覆う。


「父ちゃんがついてる。オレが、父ちゃんが一緒だから。どうか、神様」


 娘を抱く腕に力を込めた彼。おそらくは、何らかの願いも。




 そして届く、一陣の風。二機の悪魔が視線を動かすも、彼の速度には及ばず。緑の腕が二本、宙に舞う。二色と、親子の間へと割り入った英雄。青竹色に変わった騎士は、赤いマントを翻すと一対の銀を獅子に向ける。


「ゲイル・ブラトン。護り通す」


 変わったのは機体だけではない。ゲイルが瞳に宿す、曇りのない強さもだ。




 同時刻。龍神家付近。昼間に現れた蒼い月が天を舞い、彼女を見上げる黄色の太陽。

 二機の悪魔が現れたのは、ゲイルの軍場(いくさば)と同じ。しかし騒ぎになっていないのは、屋敷が山奥にあるからだ。そして何より。最強の守手がいるからに他ならない。

 数分前には機体内にいなかった彼女。既にコックピットにてスタンバイ済み。衛星が敵の襲来を感知し、各基地の警報が鳴る。僅か数秒。だが、多くの生死を分かつ境目。


「弥生ちゃんはあの中にはいないでしょう。だから、私が先に行く」


 地下基地上部のハッチが開く。日の光が、純白の救世主を認める。瞳に灯る金色。


「龍神真珠。シンセイ、出るわ」


 真珠の合図で飛び出した白騎士は人の目に止まらぬ速度。瞬くのも許さず悪魔の前方へ到達。開始を告げるのは、彼女を追って来た風。成長を表す、目に見えるような音の塊。

 木々が驚く中。真珠は辺りを探る。


「中佐の戦域にはブラウンとグリーンです」


 舞の通信に眉をひそめる真珠。


「了解。紫、マルスとタハダはいないのね」


 相手の戦力が出揃っていないため、増援の心配がある。量産機の姿もない。


「でも、こっちも迎撃用意はできてますし」


 舞が声のトーンを上げた。彼女の返答に、真珠は愁眉を開く。深紅は前を見つめ直す。


「そうね。今は目の前に集中するわ。じゃあ第二幕、反撃の開始といきましょうか!」


 長剣と盾を造り出したシンセイ。切っ先をディアナへと向け、途を拓く。




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