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新星  作者: 煌煌
第九話 遊離
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消失

 中国を覆っていたバリアは、朝鮮半島を丸ごと隠した。同時に北にも伸び、モンゴルを吸収。そして、広大なロシア全土をも、世界から奪い去ったのである。


「当基地が崩壊中、ロシアと韓国が全世界へ離反を表明。同時に中国のバリアを展開したとのことです。真珠大佐が撃破した機体も、その全てが両国に回収された状態であり」


 基地や屋敷の消火活動を終えた龍神家。舞が通信端末を手に報告しているが、誰も視線を合わせる者はいない。皆が疲れた顔をしており、錬一でさえ机を見つめたまま。

 軍人は応接室にて会議。メイドらは可能な範囲での片付けをしている中。帰還した真珠の姿は双方にない。正確にはまだ、屋敷へと戻ってはいないのだ。

 戦闘終了から三時間。夜が明けて、太陽が昇ったあとにも、彼女はまだシンセイの中。




「次の出撃がいつか分からないんだもの。私がシンセイに乗るまでの時間で、何百人も、救える命が消えちゃうの。嫌よ」


 庭に膝を突き、朝日に照らされる純白。温かいはずの光は真珠に届かず、コックピットで体育座りをする彼女。シンセイとのリンクは既に切られており、微かな声は救世主の身を動かすものではない。自身を責めるため。

 シンセイの中にあれば、真珠の生命維持を機体が担う。両者はお互いを高め合う関係性であり、決して利用している訳ではない。故にリンクを切ったとしても、相棒の悲しみが深く流れ込む。広い庭、屋敷内の全て、世界の人々が暗いままなのは、もしかすると。




 時は遡り、バリアが張られる直前。ゲイルは蒼い悪魔と戦闘を続けていた。彼にとっては何の前触れもなく現れる氷塊。なのに一度も直撃を受けないのは、奇跡なのだろうか。


「相手の意識。つまりは一歩先を読む。攻撃の出所を見てから避けるより、速く」


 同じ位置に止まらず常に動き続ける。戦場においては当然とも言えること。けれど、彼がいる速度にあっては、尋常ではない。一秒の間に数度、体の軌道を変えるのだ。

 奇跡なんて生易しい言葉では足りぬ。才能と技術の融合。そして、憧れる存在の言葉。

 一つでも欠ければ成し得ない、人の限界を超えた戦い。決着も高速の中でつく。


「守っているだけでは、勝てんよな!」


 氷を切り裂いたゲイルの雄叫び。同時に、高く飛び上がった。薄い緑の騎士は、前方に小太刀を交差させる。おそらく初擊の再現。

 対するディアナは限界まで高度を下げた。切り落とされた脚部があれば、着地していたであろう。空を見上げる蒼い月。

 シンプウの背が光り、自身の速さに重力を乗せて駆ける。瞬間的に純白にも届こうかと思わせる緑の輝き。迎え撃つ氷を裂きながら進む。斬り抜けた瞬間、目の前には水の矢。だが、構わずに直進。そして。

 蒼い機体を緑の光が貫き、ディアナは確かに二つに分かれた。ようやくの勝利。


「ざァんねん」


 背後からの声にゲイルが振り向く。視界に入るはずのディアナはなく、雲一つない空が目に映る。悪魔は、彼の右隣。

 シンプウと同サイズに縮んだディアナは、今までの損傷を感じさせぬ、真新しい姿。手には、自身の背丈ほどはあろう日本刀。水平に動いた刃は抵抗する間もなく緑を裂いた。




 落ちたのは両足。先程の意趣返しとばかりに、一瞬の動きを奪っただけ。スラスターを吹かせると仰向けに着地した薄い緑。空と、自身を踏みつけた昼間の月を睨む。

 ディアナは切っ先をシンプウの胸元へ突き立てた。決着の時。


「残念なのはアタシの方か。得物まで出してまさか時間切れとはナ」


 世界を分け隔てたバリアが展開。ディアナは言葉と共に風に紛れた。

 突如として開けた視界。レーダーにも敵影はなく、とりあえずの安堵は許されるはず。だとしても、ゲイルは睨み続ける。言葉を発することもなく、ただ不甲斐ない自身を。




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