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新星  作者: 煌煌
第九話 遊離
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失速

 龍神家から飛び立ったタハダは、北上して中国へと向かうものと思っていたが、日本海を西へと飛行中。レーダーを確認する彼女。顔色は普段と変わらず、前以て計画していた行動であることを、改めて見せつける。


「追撃の心配か? なんなら俺がばかデカい屋敷ごと全部吹っ飛ばしてやるぜ」


 タハダの胸元から聞こえる中国語の通信。陽気な声色には釣り合わない内容。若い男は彼女が反応せずとも、構わずに話し続ける。

 白い顔に引きつった笑みが浮かび、赤みを増す。非常時にもしっかりと塗られた化粧の下から見えるのは、怒りの感情。


「追ってくるなら日本じゃなく他の地域よ。ちゃんとエスコートしてちょうだい」


 周囲に気を巡らせていたタハダが、僅かに視線を向けた先は弥生。彼女の後ろで安らかな寝息を立てており、今には不釣り合いな、柔らかい光景。一瞬にして赤みが引く顔。


「それと、少し静かにしてなさい」




 応接室から伸びる細長い通路には、錬一と彼の妻、そして真珠の写真が並ぶ。暗い道が明るく思えるのは、三人の笑顔ゆえか。

 錬一は忙しくとも、時間を作っては真珠のイベント事に顔を出した。今、彼が歩みを止めないのも、きっと彼女を守るため。

 暗かった通路に光が差して、抜け出た錬一を包み込む。五畳ほどの空間には、地下基地と似たような機械類が(ひし)めき合っている。

 衛星から送られる位置情報が、ゆっくりと日本海を飛ぶタハダ機を示す。救世主はまだ東におり、相手が陸地に着くまでに追いつくのは不可能。すると、錬一は通信機を起動。


「タハダが黒い機体を奪い、弥生くんを連れ去った。現在は日本海を南西へ向け飛行中」


 彼の声が響いたシンセイのコックピット。真珠からの返事はなく、聞こえたのは桜色の奥で吐かれた力ない溜め息。続く呼吸までも不規則に震え、動揺を隠せはしない。

 真珠の反応はシンセイの機能に直結する。衛星から伝わる信号は、点滅を繰り返すことをやめ、速度の低下を錬一に告げた。自身の言葉選びによる彼女の失意。


「真珠には彼女たちの回収を頼む。追いつくだけの時間は作ってみせる。間に合うさ」


 純白の騎士は再び顔を上げ、前方を睨む。父の想いは届き、彼女を次の舞台へ運ぶ。




「もう追手は来ないだろうな。んじゃ一暴れしてくるわ。アイツだけ動いてると、後で何を言われるか分かんねぇからよ」


 海底を斬りつけながら進む、タハダの護衛役。水の抵抗を感じさせない身のこなしは、空を飛ぶ黒の騎士に遅れを取らない。だが、通信の後に停止。距離は開き続ける。


「フザけないで。舞を傷つけていいのは、私だけなの。あんたにも大佐にも、中佐だって許しはしないわ。次の侵攻まで三箇月。今日からの楽しみなんだから」


 海底より深く低く、暗いタハダの声。昨日までとは別人のような、生き生きとしながら意志の読み取れない表情。黒い機体は冷え、弥生の目を覚まさせた。


「タハダのお姉ちゃん。ここ、ドコ?」


 操縦桿を握る手が緩み、後ろを向く。白い顔には見慣れた笑みが浮かび少女を照らす。

 間もなく朝鮮半島。韓国の軍が展開されるはず。なのに、勝利を確信したかのような、余裕を持った態度。少女から見ても不気味に映った模様。言葉が出ず、沈黙が続く。


「領土に入ればバリアが張られる。すぐそこまで勝利は来てるんだ。丁重にな」


 弥生には分からない言葉。不安は募る。


「もうすぐ目的地なの。そこにはバリアってのが張られてて、誰も入って来れないわ」


 遠くに見えた陸地には、巨大な装置を積む車。剥き出しの機械は、周囲の景色を不気味に歪ませる。空間ごと閉じ込めるような、無の監獄。説明は却って不安を募らせた様子。


「とにかく、これからは私が貴女の身の回りをお世話します。巫女様」


 タハダが目を細め歪な感情を露にした時。黒騎士は少女の祈りに呼応するように、動きを止めた。錬一の手によって。

 落ち行く黒の中で、弥生は目を瞑る。


「兄ちゃん。お姉ちゃん。助けて」




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