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新星  作者: 煌煌
第九話 遊離
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氷雨

 ディアナへと向かう二機。いくらシンプウの性能が飛躍的に向上したとはいえ、純白の騎士はみるみる彼を引き離す。本来ならば、人が感じ取れるはずのない速度。ゲイルの目に救世主の後ろ姿が映ることは、あり得ない事態なのだ。

 シンセイは接近とともに、ディアナに正面から斬り掛かる。先程までの鋭さが消えた、大振りの一撃。隙を見せた彼女の下方。地面を濡らす水が妖しく光り、敵意を乗せた氷柱を出現させた。魔法の類いであり、当たれば白い装甲を貫きかねない。


「地の利は敵に奪われたみたいね。でも!」


 攻撃の動作を止め、身を翻した真珠。氷塊の右側から回り込む。彼女の後を追うゲイルは左へ。そして、ディアナの両足に向けて、二機は斬り抜いた。大きくもしなやかな鋼の塊は、火花を散らし地に落ちる。




「数と質では我々に利がありますね」


 距離を空けて振り向いた両雄。真珠の言葉を続けたのはゲイル。彼女が思っていた通りの内容だったと、パイロットスーツの奥にて輝く微笑みが告げた。


「油断していい訳ではないけれどね。相手の意識を読むの。とにかく、一刻も早く倒す」


 二機のメインカメラには、太股から悲鳴を上げるディアナが映る。二つの激しい叫び声は、地面にある自身を呼んでいるかのよう。




 攻防は続く。蒼い月は次々と氷を顕現させ守りを固める。動作に割り込まれ、騎士らは思うように舞えない。真珠のアドバイス通りに飛ぶゲイルも、まだ回避で精一杯といった様子。無情にも時間だけが過ぎてゆく。


「キリがないわね。向こうも時間稼ぎを隠す様子さえないのに」


 氷の槍は現れては消えて、水に戻る。二人が近寄れば距離を作らせるように突き出す。

 弥生のことまでは知らない真珠だが、基地の様子が気になって、攻めあぐねているのは確か。集中さえ切らしていなければ、光線で敵の意識を逸らしているだろう。


「大佐。基地が危ないというのは、新城くんたちに何かあったということですね?」


 薄い緑は手に持った二刀を氷に押し付け、純白へ問うた。真珠からの返事は確かな答えとは言えなかったが、彼の中にあった何かを刺激した模様。目付きが変わったのだから。


「相手の思い通りにばかり。させる訳にいきませんね。時間稼ぎなら自分にもやれます」


 敵と距離を詰めたゲイルへと、氷が接近。しかし、彼は見ることもなく躱した。自分にできる芸当を、真珠へと伝えるための行動。救世主へと、望みをかけた言葉。


「今から自分が戻ったとしても、恐らく間に合いはしないでしょう。皆をお願いします」


 真珠は人の気持ちを読み取る能力に長けている。顔を見ずとも、ゲイルが本気だと感じられるのだ。今という時には、残酷であり、けれど何よりも必要な長所。


「無理する必要はないから。誰も、失いたくないもの」


 彼女の思いは確かに届いたはず。振り返りながら放った銀を弾いた、ディアナにさえ。

 剣を防ぐために、蒼い月は自身の前方に氷を突き出した。攻撃は止められたが、真珠が戦場から離れるには十分な時間。

 氷が水へと戻ると、コスモス上空には二色のみが浮かぶ。純白は遥か彼方へ。




 コスモスから龍神家までは、優に一万キロを超える距離。シンセイが最大速力を出せたとしても五分近くは掛かる。焦燥に駆られる今なら、もっと。

 避難指示を終えた錬一は、以前の応接室に飛び込んだ。彼の机に隠されたボタンを押すと、背後の壁が動く。


「俺にできる最後の足掻きだが、いま使わずにいつ使うと言うのか」


 隠し扉へと向かう彼の顔は、いつにもなく険しいもの。少なくとも、三十年で最も。




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