進化
「おっさん危ねぇ!」
博士を突き飛ばした光悦。寸前まで使っていた機器の上に岩が刺さり、火花が散る。
目を丸くした二人は、顔を合わせて言葉を失う。何も伝えられず終わった通信は、真珠の耳に、仲間の悲鳴と崩壊の音を告げた。
基地から皆が脱出するなかで、モニターがようやくコスモスの戦況を映す。シンプウの背中。意識を北海道に向けた純白の救世主。
明らかに先程までより動きが鈍い。爆発音が仲間の危機を知らせ、集中力を削いだか。
「上がって来いと言われても動けんのです」
ゲイルからの通信。薄緑の機体はまだ地面と繋がったまま。水の散弾を掻い潜りながらも、真珠は彼の姿を確認。ただ、見ただけ。
「もう動けるでしょう? 早くボスを倒して戻らないと。基地が危ないの」
今までの不自由が嘘のように、シンプウの身を縛る物はない。想像を超えた魔法の力。代償は今回も術者の体力だが、冷静さの陰へ隠した焦りに邪魔をされ、本人は無自覚。
「分かりました。微力でもお手伝いします」
レバーを引いて胴体を上げ、フットペダルを踏み込んで飛翔する操作をしたゲイル。
「うっ、なんだ?」
魔法は彼の予想を超えており、シンプウの性能を飛躍的に向上させた。結果として同じ操作であっても、ゲイルの思い描いた位置を通りすぎることになる。時間的にも。
「それなら負けないわよね。中佐ならきっと乗りこなせる。イメージを強く持って。操作はあくまでもオマケよ。いい?」
的確なアドバイスを出せるのは、シンセイの位階に薄緑の騎士が近付いた証拠。真珠の言葉は、イメージフレームの操縦にしか通用しないものだったのだから。
ディアナが弓を構える。目標はシンプウ。三本の矢をつがえ、放つ。数秒前のゲイルであれば回避は間に合わない。しかし、金色に変わったアンテナが、メインカメラが捉えた相手の攻撃を、緩やかに映し出す。
人の反応が持つ限界値は変わらない。本来ならば機体性能を引き出すのがパイロットの役目であることも。イメージフレームの場合は、二つがお互いを補い合うというだけ。
「これが大佐の世界ということか。これならやれます。自分にも奴が倒せる」
シンセイは剣を出すと、ゲイルへ渡した。一対の小太刀は新生し、銀の輝きを放つ。
二体の英雄は、得物を構えて突撃。
広大な庭に、ぽっかりと穴を空けた龍神家の敷地。上空の黒騎士は僅かに残った足場へ降り立つ。そして、振り下ろされた拳が抉るのは、弥生の眠る部屋の壁。
誰のせいでもない。ただ、敵の作戦勝ち。
「違う。これは我々のミスだ。みすみす奴らに弥生を奪われるなどとは」
後悔の言葉を吐いたとしても、誰にも弥生を連れ去る黒騎士は止められない。力を持つモノは海に隔てられた彼方。地下から見えぬ敵へ吠える光悦には、術がないのだ。




