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新星  作者: 煌煌
第七話 蒼月
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蒼月

 おそらく敵の狙いは真珠の足止め。連合が最小限に抑えたとはいえ、建物や民間人を主に狙った攻撃の被害は少なくはない。


「もっと速く駆けつけなきゃ、意味がない」


 道に空いた大穴を見て呟いた真珠は、次の戦場へと急いだ。南西へと飛び去る救世主に振られる、人々の感謝を確認する暇もなく。




 相手を領土外で捕まえようと、先程よりも速く飛ぶシンセイ。風圧によって海は裂け、機体が弾いた熱が焦がす。普段なら周囲への影響もコントロールしているのは真珠。今回は自身が出遅れたという念が強いのだろう。

 目を細めて前を見据える真珠に、舞からの通信。声だけでも彼女の緊張感は伝わる。


「シアトル沿岸に悪魔の一機を確認。ブルーです。現在ブラトン中佐が急行しています」


 舞の伝達でシンセイは急旋回。頭を左へと向けると、振り子のように胴体は右に揺れ、風の抵抗を受けながら進路を変えた。戦闘機どころか、シンライでさえ空中分解を起こすほどの機動。彼女だからできる離れ業。


「なら順番を変える。まだ完全には改修作業も終わってないんでしょ?」


 白騎士の出撃から六分。錬一の想定時刻に足りないことで、状況を掴めたらしい。

 ほんの少し、普段と違う真珠の口調。舞は何かを読み取ったのか、通信を続けた。


「大佐の手を煩わせるつもりはない。なんてブラトン中佐は言ってましたけどね」


 言い方を誤れば嫌味に聞こえるセリフも、モノマネを交えて茶目っ気たっぷりに話す舞ならば、空気を和ませるのみ。


「そう。なら中佐の活躍を見に行かないと」


 東へ向かうシンセイ。音と熱の壁を超え、自然さえも動かすエネルギーの塊。けれど、彼女の下にある海面は静けさを保ったまま。




 数日で復興などなせる訳もなく、倒壊した建物が並ぶシアトルの街。作業用マシーンで戦闘はできず、ただ死を覚悟する市民たち。

 前回の目撃時には他の四機と何ら変わらぬ大きさだったはず。だが、現れた蒼い月は、五十メートル以上あろう巨体。存在するだけでも威圧感を放ち、人々を根っこの部分から怯えさせる。震える民衆を前に、意外にも敵は攻撃してくる気配がない。

 丸みを帯びた両肩と腰部。細くしなやかな四肢。夜空を思わせる色使いも相まって、猫のようにも見える。悪魔と呼ばれる所以は、人の命を瞬く間に奪い去る戦闘力と、恐怖心を煽る冷ややかな眼差し。

 巨体を器用に揺らしながら、動きを止めた街の中を優雅に進む。誰も蒼い悪魔から目を離せずにいたが、突如として高笑いの動作を見せると、天空まで跳ね上がった。



 

 六分の滞空時間を要したが、バージニア州のコスモス前へ着地。奇襲攻撃も可能なはずなのに、警備の五機は未だ健在。衛星からの情報で心構えはできていたのか、彼らは銃口を相手に向けた。斉射が始まろうかという時のこと。コスモスの周囲にのみ降る大雨。

 打たれる五機のシンライから、不自然に液が溢れ出る。ゆっくりと断面がズレて、内部に溜まった物が弾けた。オイル、水、そして血も。鋭い刃物で斬りつけられたかのように鮮やかな傷跡が、いくつにも分かれ、残骸となった彼らに、空虚な芸術性を与える。

 雨の中。聳え立つのは、蒼い月。


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