三本の矢
シンセイが飛び立ってから五分。火の手の上がるニューデリーへと純白の騎士が到着。
連合による避難誘導の甲斐もあり、民間人の被害は最小限に抑えられている。しかし、砂岩やレンガで作られた歴史を感じる民家。観光地として近代化を進めたホテル。様々な建物が切り裂かれ、あるいは吹き飛ばされており、つい先程まで人で溢れていた街と同じ場所だとは思えないような惨状。
「学習してるってことかしら」
前回と違い敵はバラけている。風での強襲は効果を失い、各個撃破せざるを得ない。
とはいえ、強風によって制御不能に陥った悪鬼らは空中で停止。戦場で動きを止める者は撃墜されるのを待つだけ。シンセイは左手を前方に向けると、指鉄砲の構え。
「けど、全部ちゃんと見えてるわ」
敵を捕らえていた風が彼女の指先へ集結。
「バァン」
放たれたエネルギーは散弾となり、無数の光跡を地上の人々へと見せつけた。
味方にとっては希望の光も、相手には終末を告げる熱源。空気であったことを忘れ、敵の装甲に大穴をあける弾丸。的確に四肢のみを射抜き、百の鬼を地に落とした。
「やっぱり時間稼ぎで間違いなさそうね」
真珠の読み通り。シアトル沿岸に例の戦艦が出現。インドでの決着がつくと同時に一機の悪魔を世に放った。
衛星からの知らせを舞が伝達。北海道基地に衝撃が走る。だが、ゲイルと錬一は冷静さを保ったまま。シンプウのコックピット前で調整作業をしている様子。
「取り付けが完了したのは両足とスラスターのみだ。攻撃面で大きな差はないぞ」
薄緑を基調とした外観に違いはない。改修が終わった部分も見た目は変わらず。ただ、僅かな隙間から覗く関節部には、銀の輝き。
「スピードが乗ればそれだけで威力は増すのでしょう? 大物相手でも時間稼ぎくらいはやってみせますよ」
戦闘力が上がった割には、弱気なエース。悪魔の性能を肌で感じたのだ。無理もない。
「本部を狙うつもりか、他の都市を襲うのか予想できない状況だ。柔軟な対応を頼む」
錬一の言葉で、ゲイルは何かを思い出した模様。蒼い瞳に火が灯った。
「人からその台詞を聞く日が来るとは思いもしませんでした。お任せください」
コックピットへと飛び込んだゲイルだが、力強い言葉とは裏腹に、操縦桿を握る両手は震えたまま。彼が乗り込んだことで基地の壁が動き、発進する方向のカタパルトが出現。
「ほら、いつもみたいにクールな笑顔見せてくださいよ。見送る方も心配になっちゃうんですから。大佐の出番はないさ、とか」
通信用のモニターには、頬を膨らませた舞が映る。数時間前まで酒を酌み交わしていた二人。雰囲気からして進展はなかったよう。
あくまでもいつも通りに送り出そうという舞に、ゲイルはキザな笑顔を向けた。
「ではそのままの言葉を使わせて貰おうか。大佐の手を煩わせるつもりもないのでな?」
左右のレバーを握る手に力が込められる。
「ゲイル・ブラトン。シンプウ、出撃する」
飛び立つ英雄の手には、一対の小太刀。




