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新星  作者: 煌煌
第七話 蒼月
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薄明

 今の弥生と同じ年頃には、真珠は大人たちと変わりない身体能力を備えていた。中学校に上がると世界記録を軽々と破り、十八歳の現在では、急ぐ彼女に生身で追いつけるモノなど地上には存在しない。

 とはいえ走りながら着替えるのは容易ではなく、基地に現れた真珠は、パジャマの上にパイロットスーツを纏った格好。僅かな違いが見た目に与える影響は大きいけれど、例えトップモデルでも野暮ったい印象を受けそうな服装でも、彼女なら難なく輝く。


「ごめん、お待たせ」


 走っている間に寝乱れ髪は風で()かされ、汗一つ流れぬ顔からは焦りを読み取ることはできない。錬一と博士以外にはだが。


「夜明け前だからな。寝てて当然の時間さ」


 寝る暇も与えぬ敵の侵攻に、最も体力的に疲弊しているのは真珠。予定外の襲撃ならば出遅れるのも仕方ないと、錬一は考えたのであろう。彼女に向ける瞳が、優しく物語っている。しかし、敵は待ってくれない。


「インド政府から救援要請です。衛星の予測では、敵群はオーストラリアとマダガスカル方面にも向かっている模様」


 振り返った舞が眉間にシワを寄せ告げた。




 三隊に別れた敵は百機ほどの群れをなし、インド洋に面した国を強襲。第一ターゲットにされたインドも、ミサイルと高威力の銃座で迎撃したものの効果なし。残るは三百機のシンイと五十機のシンライのみ。

 だが幸いなことに世界各国には、三十年の間に多くの地下シェルターが作られている。警報が鳴り始めれば一般人は避難するが、今までの襲撃を見れば分かるように、非常時に落ち着いて逃げられる者は稀。黒い鬼を視界に捉えれば、距離を空けるため直線的に走るしかできない。または、ただ立ち竦むしか。




 日付が変わったばかりのニューデリー。月の光は厚いスモッグで阻まれ、街の明かりが黒い空を照らす。息をすると喉が焼けるのは普段と変わらないが、文字通りに民衆の身を焦がす悪鬼の存在は、人で溢れ返る街並みを黒から赤へと染め上げた。

 インド各地のSFが首都へと集う。民間人への避難誘導。遠距離攻撃による、真珠到着までの時間稼ぎ。敵を倒すことができないと知る連合軍人の、命を懸けてなせる仕事。




「他の国も心配だけど、救援要請が出ている国が先よね。インドに向かうわ。急げば残りは海上で叩けるでしょ。けど」


 北海道基地のモニターに映し出される敵の布陣。すっかり目を覚ました様子の真珠が、世界地図に示される無数の点を見やる。彼女は右側の眉を上げ、怪訝な顔。


「ザコばかりで西側だけなのね」


 連合の戦力を削ぐためならば、日本に五機の悪魔を差し向けるはず。敵の意図が不明。真珠が納得いかないのも無理はない。


「とはいえ、私が行かないと終わらないか」




 シンセイに乗り込んだ真珠へ、ゲイルから通信。出撃前に顔を見たいのか、シンプウが白騎士の肩へと触れた。


「大佐に運んでいただくようにと、お父上の指令です。どうかお手柔らかに」


 ゲイルも真珠の移動速度を理解している。シンプウのコックピットが重力から守るとはいえ、全力で飛ばれれば耐えられる代物ではないのだと。だが彼の心配は杞憂に終わる。


「それだと間に合わないわ。見たところ出撃可能にはなってるようね」


 改修作業というより、シンプウは修復しただけといった状態。薄い緑の機体の足下には銀の剣が置かれたまま。


「改修終了までどれくらい掛かりますか?」


 地下基地に響くシンセイからの声。行き先は錬一。すると彼は銀を指差した。


「真珠が手伝ってくれたら十分くらいだな」


 彼の言葉とほとんど同時に、銀の剣へ振り下ろされる一撃。清らかな高音は聴くものを選び、人によっては無音とも思えただろう。同質の存在にシンセイの力が加わり、砕けるはずのない物がいくつもの欠片に変わった。


「じゃあお先に」


 シンセイが立ち上がると基地の壁が動き、現れたカタパルトの先には暁の空が映る。


「龍神真珠。シンセイ、出撃する」


 飛び立つ救世主の手には一振りの剣だけ。




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