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新星  作者: 煌煌
第六話 強風
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追風

 シンセイが帰還したのは、再出動から三十分が経過した頃。予定より早い到着に、未だゲイルは仲間たちに囲まれたまま。輪の中に真珠も取り込まれると、一層の盛り上がりを見せる。ショーンとタハダが飛びつき、後に続く弥生が労いの言葉をかけた。

 帰還から十分。仲間の笑顔で空腹や眠気をやり過ごすのにも、限界はある。


「盛り上がってるとこ悪いんだけど、小腹が空いちまって。後は食べながら話そうぜ」


 真珠の顔色が悪いのに気付いたのか、言葉通りなのかは分からない。一つ確かなのは、場の空気を変えたのが光悦だということ。


「戦闘の影響かな。自分も限界のようだ」


 少年の言葉で、ゲイルも誓いを思い出した様子。男二人の要望は受け入れられ、女性陣も一緒に館へと向かった。




 和やかな時間が流れる食堂にて、一人前の食事をとった後。仲間と別れて自身の部屋へ戻る真珠。彼女の手は誰かと繋がれている。


「今日からはお隣さんだね。たくさんお話ししましょう。いつでも遊びに来てね?」


 室内より控えめな廊下の照明。真珠の視線の先にある輝きの方が眩しいくらい。


「お姉ちゃんが帰ってくるのスッゴク楽しみにしてたの。もっともっとお話ししたい」


 さらなる光を放つ少女の顔。二人の後ろを歩く光悦も、嬉しげな妹の表情につられる。

 弥生の願い通り、真珠の部屋に招待された兄妹。当然のように山盛りの料理が迎えた。長かった一日の出来事を話す三人。




「じゃあ戻るとするか」


 解散となったのは、弥生が欠伸を(こら)えられなくなった後。児童にとっては辛い時間帯。別れを告げた光悦に手を引かれ、部屋を後にしようとする少女は、なんともおぼつかない足取り。すると、真珠が声をかけた。


「今日は私のベッドで寝たらいいわ。光悦も一緒にとはいかないけど。どうかな?」


 腹ごしらえを終え、眠い目をしているのは真珠も変わらない。むしろシンセイに体力を吸われている分、彼女の方こそ睡眠を必要としている様子。現れては消える深紅の瞳が、先ほどの闘いにも劣らぬ攻防を告げている。


「お姉ちゃんと一緒に寝るーっ」


 先に睡魔に打ち勝ったのは弥生。勢いよく真珠の胸へと飛び込む。少女の柔らかな突進と温もりは、軽い体をベッドへと運ぶだけの力を救世主にもたらした。


「そんじゃ、また明日な」


 光悦の言葉で、力なく手を振る二人。彼女たちを襲う強敵は、部屋の扉が閉まると同時に夢の世界へと誘う。明かりの消えた室内。真珠も弥生も幸せそうに笑い合い、額を寄せ手を繋いだまま眠りに落ちた。




 シンセイとは違い、シンプウは機体に内臓されたエネルギーを使う。ゲイルが消耗するのは神経。すり減った分を回復させるのは、料理でも睡眠でもない。安らかな時間だ。


「こういうとき、屋敷に呑める場所があるというのはありがたい。あとは大佐が横にいてくれれば、言うことなしだが」


 奥の博士と紫音を横目に、一人カウンターに座るゲイル。小さなバーと言える内装は、落ち着いた雰囲気を醸し出す。


「中佐は贅沢者ですな」


 ゲイルの前に牛乳を多めに入れたカルーアミルクが置かれた。不思議そうに見つめる彼に、マスターは沈黙を貫く。


「私にってことですかね?」


 丸みを帯びたグラスを取ったのは舞。真珠のパイロットスーツを思わせる薄いピンクのドレスを身に纏い、ゲイルの隣へと座ると、自身の前に白い酒を置いた。


「他にもご注文がありましたら何なりと」


 一言だけ告げると、マスターは背後の棚にある酒を整理している様子。二人の時間だ。




 二人の英雄はそれぞれの夜を過ごす。仲間たちに支えられ、お互いに安らかな時を。




 地上の温かな空気とは打って変わり、基地の中には錬一だけ。夜更けにもかかわらず、シンプウともう一機の改修をしている模様。

 静かな空間には、彼の作業音がよく響く。すると、遠くでエレベーターが到着した気配がした。真っ直ぐ錬一に近寄る人影。


「さすがに寝ないとお身体を悪くしますよ」


 緩い白の寝巻き。大きくはだけた胸元からは、褐色の肌が(あらわ)になっている。ショーンの魅力にも、錬一は振り向きもしない。


「次の襲撃がいつか分からないからね。機体が出撃可能にならなければ、落ち着いて寝ることもできないのさ」


 錬一は作業の手は止めないまま、声と意識だけを後ろに向けた。小気味よいリズムを刻む彼に、麗しの女医も諦めたらしい。


「じゃあアタシもお手伝いします」


 振り向いた錬一の瞳には、南の島を思わすショーンの笑顔。そして、シンプウの足下に置かれた銀の剣が映る。




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