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新星  作者: 煌煌
第六話 強風
29/78

有意

 地下基地への隠し通路はあらゆる所に配置されており、シンセイが抜けられる大きさの物だけでも二十を超える。海底を進むルートなどは、今回のように速度を出せないときに打ってつけ。ゲイルを抱いたまま飛ぶ真珠。新しい英雄を傷付けぬように、そっと。




 広大な敷地に機械類が並び、剥き出された岩壁に囲まれているので、本来の地下基地は無機質な印象を受ける。無事の帰還を遂げた二機の周りに温かい彩りがあるのは、新たな英雄の誕生を喜ぶ仲間たちのおかげ。

 当然、真珠も彼らと勝利を分かち合いたいはず。しかし、連合の増援が来ていない今。彼女には一つの任務があった。


「第一波は壊滅したけれど、敵の増援に警戒とか、コックピットの回収とかしないとね」


 沖縄とシアトルでは、本部からの回収部隊が担当した任務。今回は彼らの到着まで真珠が受け持つらしい。


「だから私の分も褒められておいて」


 立ち上がったシンセイからの通信は、陽光のような温もりを孕んでいた。ただ一人だけ照らされたゲイルは、彼女の要望を受ける。


「貴女が早く眠れるようにしておきます」


 何時間に及ぶか分からない任務。おそらく帰った頃には彼女は疲れ果てているだろう。

 優しさは伝播(でんぱ)するときもあるということ。




 数分前までは戦場であった地域。白の騎士が舞い戻ると、彼女はあっという間に取り囲まれた。当然、敵にではなく黄色い歓声に。


「まぁ、喜ばれるならやり甲斐もあるわね」


 真珠が敵を叩き落としたのは、市街地よりかなり離れた地点。雪に包まれた山の中だ。接地の衝撃を和らげようとした作戦は成功。目的地に着いた彼女の前には、無数のコックピットが転がっている。


「掃除が苦手だから広げないようにしているのに。けどこういうのもしないと、次に支障が出るものね。やってやるわ」


 戦闘時とは別のやる気に火をつけた真珠。林間の広い土地にコックピットブロックを集めて、手際よく並べる。決して不馴れだなどとは思えぬ早業で、彼女の再訪を聞きつけたマスコミが到着した頃には、黒の胴体に二つの山が埋め尽くされていた。




 角の生えた頭部と、鋭い爪が特徴的な四肢を失った敵機。まじまじと観察してみても、ハッチを開くボタンなど見当たらない。黒色も相まって、棺桶のようにも映る。

 数回交戦しても、流れる光景の中で、ただ襲いかかる存在を見つめるのは不可能。真珠の目が確かに黒鬼を捉えたのは、今が初めてと言えるのかもしれない。少なくとも、倒すべき対象としてだけではなく、何らかの感情を抱いた眼差しを向ける相手としては。


「人の温もりみたいなのはある。けど、想いみたいなのは感じないのよね。なんでかな」


 敵増援の気配はない。真珠の疑問を晴らす時間はある。シンセイの力を持ってすれば、簡単に謎は解けるだろうから。

 両手で慎重に抱き上げる。初めて赤ん坊をあやす母親のような手つきは、優しさの傍に緊張感を併せ持つ。そして、シンセイの指がコックピットハッチに触れた瞬間。


「お疲れさまです龍神大佐。後は我々が引き継ぎます。ですので今日はお帰りください」




 コスモスの回収部隊より先に現れたのは、隣の国からの派遣部隊。旧式のシンイを多数搭載した水上機母艦が小樽港に接岸。


「ありがとう。随分と素早い動きね。指揮官はどなたかしら?」


 空腹との戦いから抜け出せることに真珠は感謝したのだろうが、相手は返答に詰まる。


「実は。会見のあなたを見て、ファンになりまして、お役に立てればと飛んで来ました」


 顔も見せない通信であったが、彼の答えに真珠は赤らんだ頬を映し出した。せめてものお礼ということなのだろう。すると思いがけない反応だったらしく、いつ何時も化粧を怠らぬ男たちが、白い表情を染め上げる。


「うん。喜ばれるならやり甲斐もあるかな」


 ヘルメットに守られ届かぬ頬を掻き、照れ隠しをしながらも、真珠は満更でもない顔。




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