迎撃
銀世界に広がる無辺際の星空。降り注ぐ光が冷える心を温め、帰る道を照らす。誰もが当然と思っていた景観は、誰もが望む情景となった。天を覆う絶望の群れによって。
人々の混乱とは裏腹に、天空の悪鬼たちに攻撃の意思は見られない。沖縄やシアトルと違い、何かを探すかのような動き。けれど、逃げ惑う民衆にとっては、情報にない行為は恐怖の対象でしかない様子。猟銃を手にした一人の男性が発砲。彼にのみ雨が降り注ぐ。
「お父ちゃん逃げてェ」
今度は世界中の人が知る情報。触れるモノを溶かす赤い線。腰を抜かした男性は、自身に迫る滅びから逃れられずにいた。目の前で叫ぶ、幼い娘に手を伸ばすのが精一杯。鼓膜を焼くような音が、抱き合う父娘に迫る。
「大切なのはイメージだ。絶対に成せると」
旋風を巻き起こして進む薄緑の中。響いたのは錬一の声。あくまでも冷静な二人。
「だからあの動作か」
激しい空気抵抗を物ともせず、シンプウは右手を上げると前方に向けた。
「大丈夫。俺だってエースだ」
開かれた手のひらから緑の波動。一直線に赤へと進むと、父娘の上で衝突。天から降り注ぐいくつもの光を、横へと押し流した。
シンプウは地面を這う二人の前にて停止。機体を盾にするようにして彼らを庇う。
「私は連合の軍人です。ここは引き受けますので、今のうちに避難してください」
おそらく敵側の情報にない機体。ビームを防いだ未知の存在を捨て置けるはずもなく、悪鬼たちは移動を開始。シンプウの周囲へと次々に降下。月明かりのステージに、数十の巨体が並び立つ。しかし、未だ空からの視線は止む気配を見せない。
「俺にはこの数で十分だと言うのか」
ゲイルに向けられた銃口は百。両手に装備されているのだから、少なくとも五十機。
「大佐のように舞ってやるさ」
イメージが大切だという錬一の言葉を念頭に置いているのか。いや、出撃前からゲイルは自信に満ちていた。模擬戦とはいえ無敗を誇っていた彼。想像以上の適性を持っていたのかもしれない。一つずつ丁寧に躱す。
いくら機体の性能が上がったところで、人の動体視力には限界がある。先程の攻撃も、いま彼に押し寄せている波も、本来なら認識するのは着弾のあと。なのに、一度たりとも掠りもしない。不思議な光景が続く。
同時刻。コスモスでは件の中将が暗躍していた。真珠の部屋を見張ることで、シンセイの出撃を阻もうとしている模様。
戦闘開始から二分経過。彼女の部屋に動きはない。けれど、救世主は起動。
「なぜだ。あの女にしか動かせないと言っていたではないか?」
焦った様子で部屋を開けた彼。ベッドには確かに小さな膨らみがあり、微かな寝息までも聞こえる。急いで布団を剥がすと、真珠のファンである秘書官の姿。つい先程まで英雄が寝ていた場所で悶絶中。
「私の秘書の寝込みを襲うとはね」
振り返った中将の目に映る、ミスト元帥。
避けるという確固たるイメージに沿って、ゲイルが舞い始めて七分。反撃の余裕までもできた彼。付近には十機分の残骸が転がり、なおも増え続ける。
「出所が分かれば、射線も見える。シンプウの反応も素晴らしい。まだまだやれるぞ」
アンテナから白い光が軌跡を描く。飾りと思われた物にも意味があった模様。
「もういい。あとは私がやる。お前らは捜索に全力で当たれよ」
量産機への指令。直後、敵布陣に変化。目の前に大きな穴が空き、ゲイルも飛び退く。
超高速の攻防で研ぎ澄まされた神経が、彼の命を繋いだ。反応ではなく本能での行動。自身のいた場所に残る左腕が飛ぶ。そして、追いついた視線の先には、緑の竜巻。




