襲撃
夕陽に照らされた北海道の大地。黄色く染まる平和を乱さぬため、錬一を乗せた戦闘機は離れた位置で下降。岩塊に隠された侵入口から格納庫へと到着。狭い通路から轟音と共に抜け出た彼を、博士と紫音が出迎えた。
「連絡は翔にしか入れなかったのだがな」
錬一は片目を瞑り、落胆を露にする。頭首への返答に困っているらしく、博士は小さくなって照れたように笑うのみ。すると、彼の三歩後ろから控えめな声。
「スミマセン。通信が入った時に、隣にいたものですから。知っているのに来ないのも、よろしくないかと思いまして」
伏し目がちに話す紫音の様子に、錬一でも言及することができない。そもそも休みの日に何をしていても自由というもの。
小さな溜め息のあと、錬一はいつもの表情へと戻る。そして、本来なら博士と二人きりで済ませようとしていた作業へと移った。
三時間後。地上を照らす月の光。中国大陸を隠すバリアに穴が空き、無数の黒い機体が銀色のスポットライトを浴び、日本へと飛び立った。海中にも動きあり。戦艦の浮上。
衛星が悪鬼の襲来を告げる。鳴り響く警報に、龍神家の地下には続々と人が集う。彼らが目にしたのは、二機の新たなる守護者。
シンライを改良したスタンダードフレームは、薄い緑と漆黒の二機種。板金鎧のような見た目は、スリムな従来機とは別物に映る。シンセイに近付いたとも思えるが、明らかに男性的な雰囲気を放つ。恐らくは両手が大破した悪鬼の物と取り替えられていることと、一回り大きくなった脚部が原因であろう。
薄緑の機体の眉間にはV字型のアンテナ。通信装置などは元の物で問題なく動作をするのだから、ただの飾りでしかない。しかし、ゲイルは瞳を輝かせている。
漆黒の機体は目元も兜の奥。メインカメラとしての機能に疑問が残るが、錬一によって改修されたのだから正解なのだろう。
「この基地で大佐以外のパイロットは、自分一人だけ。とすれば、どちらかは自分の機体なのでしょうか?」
猫のように暗闇で輝く瞳。非常時ではあるものの、ゲイルは逸る気持ちを抑えられないらしい。錬一が頷くと、両手に力を込めた。
「もう一機は予備だ。戦闘に耐えられるのは緑の機体だけなのでな。彼我戦力差を考えると心苦しいが」
彼の曇った表情からは、申し訳ないという感情が読み取れる。白い肌を煤で汚した紫音も同様。横に立つ博士も。だが、シンライを多数配備しても、性能差は大きいまま。なら持てる技術を注ぎ込み高性能を実現させた、三人の選択は正しいのだろう。
「いえ、後は自分の問題です」
光を闘志へ変えたゲイル。ヘルメットを舞から受け取ると、新たな相棒の元へと進む。
主の指令でコックピットが開く。シンライと変わりはなく、彼にとっても見慣れた光景が広がっている。シートに座り視線を上げると、ハッチの外には錬一の顔。
「君の愛機を改修できれば良かったのだが。とにかく、十分だけ持たせてくれ」
ゲイルにしか聞こえない程度の囁き。真剣な眼差しからは、事の重大さが窺える。
「分かりました。ですが」
地下基地の壁が動く。鉛色のカタパルトは月光を受けて、ゲイルの自信を映し出す。
「自分が勝っても良いのでしょう?」
きっと彼の目にあるのは、錬一の先に待つ景色。仲間たちの未来を閉ざした標的。
「ゲイル・ブラトン。シンプウ出るぞ」
彼の足元で見上げている錬一が名付けた訳ではなく、ゲイルのオリジナル。果たして、窮地を救うための追い風となるのだろうか。




