表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新星  作者: 煌煌
第四話 偶像
20/78

偶像

 コスモスに招かれた記者は百名。各々一分の発言権を持つ。最初はシンセイの機体名や開発元など、事前に用意していたような質問がなされた。けれど、世界全土で流される会見の反響は止まる所を知らない。真珠が画面に映るたび上がる視聴率。会場は異様な熱気を帯び、彼らは手元のメモを捨てた。

 仲間たちを含む、カメラ越しの人類の騒ぎなど知る由もない真珠。粛々と質問に答えを出していたが、次第に変化していく大人たちの息遣いに気付いた様子。


「ご趣味をお聞かせください」


 軽いジャブ。しかし、質問の矛先を変えるには充分。全ての視線が集まっている方へ。


「え、私の趣味ですか? ツーリングとか、時間がある日にはしています。趣味と言えるのかは分かりませんけれど」


 スポットライトと世界中の注目を浴びる顔には、困惑の二文字が浮かぶ。眉を下げつつも答えた真珠の対応は、流れを受け入れたと世間に思わせたのかもしれない。

 好きな食べ物・教科・場所。およそ人類の窮地を救った英雄とは無関係の問いが続く。




「好きなタイプを教えてください」


 数十分にもおよぶ小手調べの後。気疲れの見え始めた真珠へと投げられた本命。流石に止めに入ろうと、錬一がマイクを握る。


「大丈夫です。答えられないことも多いし、私が言えることなら、答えます」


 瞬間的に張り詰めた空気が和らぐ。真珠の言葉には確かな意志が宿り、全ての聞く者に伝わった模様。温かい風が地球をめぐる。


「優しい人が一番だと思います。ありきたりで面白味に欠けるかもしれませんけれど」


 気恥ずかしそうに頬を染める真珠。普段の自信に満ちた彼女を知る者であれば、己の目と耳を疑うだろう。だが、紛れもない事実。

 他の誰かならば、反感を買う可能性もある答え。しかし人の遺伝子にさえも刻まれる、彼女という存在であればこそ、誰一人として嫌悪の色を見せる者はいない。

 何を言うかではなく、誰が発するかだ。




 恐らく錬一が動いたことで、彼女は感情を切り替えられたのだろう。微笑みを絶やさず世を照らす真珠に、手を合わせる者が続出。




 長らく続いた会見も終わりに近付き、次が最後の質問。名を呼ばれ立ち上がったのは、真珠に手を引かれ、遅れて来た彼。救世主の素顔を知る、唯一の記者である。


「まず、最初にすみません。俺のは質問とは違うんです。でも、どうしても伝えないと。こんなに大勢の人がいて、誰も言わないのが不思議なんですけど」


 周囲に座る大人たちとは違う、屈託のない笑顔。いくら真珠の目が良くても、暗闇の中にある記者席は照明に阻まれて見えるはずがない。なのに、彼女の瞳はトーマスを映す。


「助けてくれて、ありがとう! シアトルも沖縄も、みんなが感謝してるんだ」


 トーマスの言葉。そして、人々の想いを受け取った真珠には、普段通りの光そのものが浮かぶ。会場の前ではただ一人に向けられた輝きは全世界へ放たれ、活力の波を起こす。


「私の方こそ、ありがとう」


 人々は真の光を目の当たりにした。




 前代未聞の盛り上がりをみせた会見。終了から数時間経過したが、繰り返して放送され続けている。民衆の熱量から離れたコスモスの地下深く。公式には存在しない部屋。完全なる暗闇で、一つのモニターが点灯。画面内の目映い笑顔に照らされるのは、大きな影。


「やれやれ、あれほどとは思いませんでしたな。わたしともあろうものが、会見中は思考を停止させられておりましたわ」


 一つ一つの言葉に棘を感じる。冷たい男。腰掛けて俯いたことで照らし出された顔は、会議の場で真珠を責めていた中将のもの。


「しかし、人気が出れば出るほど、最期の時が楽しみになりますな」


 古めかしい通話機器を耳に当て、薄ら笑いを浮かべる。救世主の光も、彼の暗闇を払い切れはしなかったらしい。


「わざわざ禁止されている通話での交信だ。感想だけではありますまい?」


 通信相手からようやくの返答。素っ気ない声色の女性だ。中将同様に冷たく、暗い。


「当然ですとも。柱が無事に着いたようで、アイツらの家の場所が判りました。それに」


 堪えられなかったらしく含み笑いを始めた中将。不規則にアゴの肉を揺らし、背もたれに体重を乗せた。相手にも聞こえそうなほどに、椅子が悲鳴を上げる。


「神託の場にも同行できたようです」


 急に揺れを止めた彼に、相手からは感嘆の声が届く。息巻く女。


「そうか! 偽りの神の在処を掴めたか!」


 今度は相手の方から物音。何か重いモノを投げ飛ばしたような雰囲気。暴れまわる女の息遣い。荒ぶる彼女は声色まで変化。


「我々の神だけだと分からせてやろうなァ。アイツらを滅ぼして、捧げてサァ!」


 深くて黒い意志が、中将の耳を刺す。痛みでも感じたのか、急いで顔を離した彼。


「えぇもちろんですとも。ですからどうか、先方にもわたくしのことをお伝えください」


 到底女性とは思えないような、豪快な笑い声が響き渡る。まるで中将の部屋にいるかのように大きく、高らかに。


「それは龍神を潰してからだなァ。明日の夜に家を襲う。そンで予言の子をいただくぞ」


 中将の居場所よりもさらに低い位置からの轟き。通話を終了した後も耳に残るほど強烈な、悪魔の鳴き声だ。


「在りもしないモノを崇め、正規軍を蔑ろにした報いを受けろ。龍神、ミスト。まずは女の英雄らしい死に様を見せてやるからな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ