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新星  作者: 煌煌
第一話 英雄
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英雄

 二〇三〇年に起きた戦闘は、上海の悪夢と名付けられた。夢から醒める方法を知らない連合軍は、敵国の監視に適しているとして、沖縄の米軍基地を利用。全体の三分の一にも近い戦力を配置する。

 五機の悪魔によるインパクトは凄まじく、事件当日から連合各国は人型機動兵器の開発に着手。重力問題が解決されると、搭乗者の育成にも本腰を入れた。

 空想の中でしかあり得なかった、巨大人型機動兵器による模擬戦。開発当初は規制され接近を許されなかった沖縄基地も、三十年の間に観光地と化していた。




 二〇六〇年三月一日。ヒーローショーの地から遠く離れ、広大な銀世界が眼下に広がるハイウェイを走る黒いバイク。滑る路面を物ともせず、長い金色の髪を(なび)かせる女性。

 すると、ヘルメットに内蔵された電話へと着信。何の操作もしていない彼女に、相手の興奮気味な声が届く。


「こちらの用意は整っておるぞ。速くせんとお前の家に叱られるのはワシなんじゃ」


 高速で駆けたとしても置いては行けない。耳元の老人へ彼女は凛とした響きを伝える。


「博士なら叱られても気にするとは思えないんだけど。でも、飛ばすことにするわ」


 アクセルを目一杯回し、更に加速した白い景色の中を、臆することなく進む。




 トンネルに入ると、彼女の接近に反応して隠し通路が現れた。人一人が入るのでやっとという道幅。しかし今までと変わらぬ速度で駆け抜ける。エンジンの高音を伴い、最奥の開けた空間へと出た。するとバイクを降りる暇も与えず、執事然としたスーツを着た人物が、への字に曲げた口を開く。


「いつも通りの時間通りか。今日が特別な日だと分かってるんじゃろう?」


 先の通話相手と同じ声色。貯えられた見事な髭は、不満の言葉と共に揺れる。


「特別な日でも、私は私にできることをするだけよ。いつもと何も変わらないわ」


 ヘルメットを脱がずとも、強い意志と大人の色香を思わせる美しい響きを聞かす彼女。


「でも。不安にさせたならごめんなさい」




 二人の周りには白衣や軍服姿の大人たち。先ほどの狭い通路とは違い、広く明るい室内で何やらモニターと睨み合っている。


「もう時間です。お嬢様は待機願います」


 オペレーターらしき若い女性が、ライダースーツのまま博士と話す彼女へと合図。


「了解。決められたままに、ってね」




 同時刻。沖縄の連合基地。昨日と変わらぬペイント弾を使っての模擬戦。有刺鉄線の外には賑わう観客たち。


「タマには勝ちを譲ってくれたって、良いんだぜ? エースさんよ」


 白を基調としたスリムな機体には、水色のアクセントが映える。携行している武器は、マシンガンとライフルを切り替えられ、取り回しの良さを最大の売りにした物。

 相対する二機は同型。性能も違いはない。


「お前はもう少し柔軟な頭を持てよニック。でないと実戦じゃ辛いぜ?」


 連合のエース。毎日行われている模擬戦で無敗を誇る男。柔らかい声色は機体のマイクを通じて観客にも聞こえており、甘いマスクでファンも多い。むしろ、女性客のほとんどが彼を一目見ようと集まっている模様。


「ゲイルさまぁー! こっち見てぇー!」


 黄色い声援に応えようと、ゲイル機が客席に視線を移した。


「隙だらけだぜブラトンッ」


 模擬戦はペイント弾が一発当たれば勝利。だから先手必勝だと、ニック機はライフルで撃ち込んだ。しかし。


「だから柔軟さを持てと言ったのだよ」


 高速で飛来するペイント弾を、客席の女性に向けた一礼で回避。視線を外しもせず。


「キザな野郎め、まだ始まったばかりだぜ」


 ニックはマシンガンに切り替え、相手との距離を詰める。民衆の娯楽としての、本格的な戦闘が始まろうとしていた。




弥生(やよい)ー。どこ行った?」


 歓声が上がる一帯から少し外れ、倉庫付近にて誰かを探している少年。茶色の短髪からは汗が滴り落ち、焦りを(うかが)わせる。


「兄ちゃんココ! ソコ少し空いてんの!」


 元気に声を張り上げ、小学校低学年くらいの女の子が柵の隙間から顔を見せた。兄とは違い、汗一つ掻かず。


「バカ野郎。基地の中には入ったらダメなんだぞって、皆に言われてるだろ!」


 怒りながら近寄る兄に、妹は距離を取る。そして、当然の如く倉庫内へと駆け出した。


「バカって言う人がバカなんだモーン!」


 身を屈め隙間を抜け、妹を追った少年。彼が倉庫内に入った時には、弥生は演習場へと出た後。大人に見付かれば怒られるだけでは済まない。危機的状況だというのに、兄の顔は楽しんでいるように映る。


「滅多にない機会だし、高校の友達に話せるネタになるかもだよなっ」


 彼が自分に言い聞かせるように呟いた時。


「今回は俺の勝ちだな。ゲイル・ブラトン」


 模擬戦の最中に突然現れた弥生。ゲイルの視界にだけ入り、慌てた彼はバランスを崩し転倒。ニック機に馬乗りになられていた時。




 ゲイルの目の前のニック機へ降り注ぐ赤い雨。基地の至る所から聞こえる爆発音。直後に警報が聞こえ黄色い歓声は悲鳴に変わる。

 友だったモノを払い除け、ゲイルが大空に見た物は、かつての悪夢以上の光景。


「基地上空に未確認機出現! そ、その数。およそ千!」


 オペレーターの慌てた音声が届く。ゲイルに。そして。遠く離れた雪国の救世主へと。


龍神真珠(りゅうじんしんじゅ)。イメージフレーム、シンセイ。発進する」




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