存外
連合本部に用意された真珠の私室。使用人や警護にあたる軍人が、丸い目で見守る中。錬一と二人で昨日よりも随分と控えめな昼食を頂く。次々に料理を頬張る彼女だが、会話の内容に浮かない表情。三ツ星の腕に縒りをかけたシェフも、緊張した様子。
「シンセイの情報だが、連合のデータベースにある範囲なら答えてもいいだろう。だが、上層部全員が納得したのは、広告塔もやれと言いたいのだろうな」
信じられないスピードで崩される山の反対側から、錬一の視界内に真珠が現れた。彼の説明で、ようやく先程のミスト元帥の言葉を理解したらしい。けれども、二日前に初めて表舞台へと上がった美少女。本来なら神経を張り詰めたとしても不思議ではない状況。
料理を運ぶ手が一時止まる。自身が空けた穴の先を見つめ、真珠は軽い溜め息。
「これも決められたままにってことですか」
彼女の視線と疑問は、錬一に届く。だが、紅に映される男性は、気にも留めずに食事を楽しんでいるまま。反応があったのは、彼の意識が正面に向いたしばらくの後。
「彼らのことは、彼女が教えてくれた内には含まれていない。コレは、真珠自身が選んだ結果だろう?」
優しさだけを含んだ微笑。深紅へと戻った回答は、空気を和らげるに足るものだった。
「とても美味しかったです。また食べさせていただけますか?」
広い部屋の隅で小さくなっていたシェフの肩に置かれたのは、白く透き通った手。振り向いた彼の目には、温かい空気を纏う真珠の姿が映る。席を立つ錬一も同様の表情。
二人を見送った後。柔らかく穏やかな空間に、不満を浮かべる者などなかった。
アメリカ国防総省であったペンタゴンは、友好と信頼の証として提供され、今や連合軍本部である。改築を繰り返して、基地として機能も拡張。正五角形の建物は、中央部分に地下格納庫への昇降機を持つ。
バージニア州での十三時半。コスモスと名を改めた連合軍本部には、招待を受けた記者たちの姿があった。五つの角に立つ警備用のスタンダードフレームの間を抜け、正面玄関から入った彼ら。案内人に連れられ、通路を行く。すると中央ハッチの上に、別格の輝きを放つ機影を捉えた。純白の騎士はストロボに包まれ、恥ずかしそうに光へ隠れる。
「龍神大佐。お時間で」
控え室の真珠を呼びに来た秘書。けれど、扉を開けた瞬間に言葉と意識を飛ばした。
「ありがとう。その。メイクは必要ない? もう動いてもいいかしら?」
化粧道具を持ち固まる女性に囲まれ、真珠は視線だけを動かす。別次元の存在の出現に魂を失っていた秘書も、清らなる音色により現世に戻された模様。
「メイクは駄目です。死人が出ます。私が死にます。あぁ声も全然違う」
意識は返って来ても冷静さは家出中。身を捩る美女に、真珠は困ったように笑う。
会見予定時間。テレビには錬一とミスト。元帥自ら場を繋ぐが、まだ主役の姿はない。
「あのー。案内お願いできませんかー?」
本来なら自分も映っていたはずの画面を背に、混乱する秘書の肩を揺らす救世主。世界が待ち望む存在は、今はただ一人の瞳の中。




