器
「優しく頼むよ」
太平洋上を進む白の騎士。コンテナを両手で挟み、人の耐えられる速度で飛ぶ。赤い箱の中には錬一の姿があり、ソファに座って寛いでいる。出発前に彼が願った通り、地上にいるかのように全く揺れることのない庫内。緩やかに時間は過ぎ、首脳陣が待つ本部へと到着。荷を下ろしたシンセイが膝を突く。
「龍神閣下。遠路はるばるようこそ」
プラチナブロンドの女性が、スーツ姿でお出迎え。頭を下げているので、綺麗な髪色と脚線美が際立つ。だが、錬一は気にしない。
「ありがとう。案内を任せる」
微笑む彼の後ろには、黒いライダースーツの真珠。何かを思い出すような表情で秘書の臀部を眺め、引き締まった自身をなぞる。
「私ももうすぐ大きくなるよね?」
真珠の視線に汗を垂らしながらも、秘書は任務を遂げた。二人の前には大きな赤い扉。
「真珠さまのお体の方が素敵だと思います」
すれ違いざま、目礼をしながらの彼女の囁き。真珠には見えなかったであろうが、紅潮した頬からは火が出そうなほど。励ましを受けたと思ったのか、少女は満足げ。
「で、その少女たちを助けるために、今まで隠し通してきた大佐の素顔を見せたと?」
真珠による経緯説明の直後。連合軍中将が彼女を視線によって刺した。豊満な腹の肉を揺らしながら溜め息。冷たい動作。
「しかし。あの機体の運用と彼女について、全てを任せると言ったのは君だろう?」
顔を下に向けたままの中将に、諭すような口調。すぐさま発言者に集まる視線。自身に注がれる意識を確認し、件の老人は語る。
「私が管理すべきだったという声も上がるのだろう。だが、龍神少将が言うように、あの白騎士は彼女にしか扱えん。だから、今回の騒動も真珠くんに任せるしかあるまい」
あくまでもゆったり、しかし威厳に満ちている声。白髪の老紳士は蓄えられた髭を撫でながら起立。真珠に微笑む。
「ですが元帥。我々としては費用の意味を」
顔は上げたものの、未だに腰の重い中将。白い髭をただ睨むしかできない模様。
「大丈夫。私が責任を持つ。信じているよ」
ミスト元帥。スタンダードフレームの登場により、陸海空が統合された軍部のトップ。錬一の機体開発を支えた人物でもある。
「それに、真珠くんが表に出た方が、予算については助かるのではないかな」
元帥の目配せに、真珠は首を傾げる。だが彼女の横に立つ錬一。いや、会議場の全ての人はミストの言葉の意味に気付いた様子。
ただ本人を覗いて。
「では今まで通り、龍神家に全権を委ねる」
ミスト元帥の宣言により会議は終了。皆が退室する中。真珠と錬一は老紳士のもとへ。
「ありがとうございました!」
まるで先程の秘書のように深々とした礼。違うのは、暗くなった会議場内にあっても、色褪せない輝きだけ。すると元帥は、重みを感じさせぬ程度に彼女の肩へと手を置いた。
「二人には期待しているよ。しかしだ。コレから先は忙しくなろう。無理はせぬように」
自身のことに対してだけ鈍いのは父親譲りだろうか。錬一の妻も苦労していた。ミスト元帥の去った後。顔を上げた真珠には困惑の色が浮かぶのみ。
しかし、きっとすぐに分かることになる。世界は救世主を求めているのだから。




