万慮
他の四機を隠していたことや、鈍い動作。真珠しか知る人はいないはず。確かにマルスが微動だにしないのは誰でも見れば分かる。だが、現場の空気や機体越しの手応えなど、直接でないと掴むことのできない違和感。
「奴らが本気じゃないのは私も感じてたわ。弥生ちゃんは別の何かを読み取ったっていうことかしら?」
やはり真珠自身も疑問に思っていた様子。繋いだ手の先にある紫の瞳へと問いかけた。すると、少女は眉間にシワを寄せる。
「足りない。マズイって言ってたの。最初の女の人とチョット違う感じで、怖くないの」
先程までと違い、余裕のある雰囲気。弥生は自分の眉間を人差し指で突っつきながら、への字に曲げた口で答えた。
「もう。変な顔になってるわよ」
空いている手で弥生の頬を揉む真珠。柔らかい二人の会話。しかし、自分の席に戻ったゲイルにとっては、大切な内容だった模様。
「自分には何も聞こえなかったのだが、二つのうちどちらかだけでも光悦くんには聞こえていたのか? 以前に似たようなことは?」
意識は女性陣の会話に、顔自体は隣の光悦に向けた器用な連合のエース。だが、少年は二度首を横に振っただけ。
「弥生も俺も、ただの学生だよ。けどさ。父さんたちといる時より、アイツと一緒にいる方が幸せそうなんだよな」
光悦はゲイルと違い、二つのモノを同時に捉えるなどという芸当はできない模様。隣の男性へと注がれていた視線が動き、意識全てで真珠に向かう。彼らの目には、揺れる金色の髪が映る。すると突然、動きを止めた。
「やることあったの思い出したわ」
真珠は弥生の頭を一撫で。金色が揺らめき深紅が男らを捉える。彼女の見せた三つの色に、ゲイルは何が起こるか理解したらしい。昨日と同じく、正座の姿勢を採った。
「誰が寝坊助ですって?」
二人が解放されたのは、弥生が大きな欠伸をした後。肩を落とす男たちの横で、少女はテーマパーク帰りのような笑顔。長い廊下の先で別れた彼ら。真珠の部屋に来た時とは、全員が真逆の顔をしていた。
日付が変わっても、未だ世界は英雄の話題で持ち切り。最新技術により戦闘は人の目が追いつく限界の速度にまで調整され、科学では再現不可能な、理の外の存在を知る。当然のように連合首脳陣には取材が殺到。対応に困った彼らは、龍神錬一を会議へと招集。
シンセイが人の目についたとき、避けては通れない事態。錬一は前以て対策していた。しかし、一つだけ予定にないことが。
「この家が基地ということは隠し通す。真珠の替え玉はもう意味がないし、一度顔を見せさえすれば、彼らも落ち着くだろう」
慌ただしく準備するメイドらを背に、錬一は余裕の表情。隣で意気阻喪したような顔色をしている真珠の頭を撫でた。
「それに、可愛く美しく育った自慢の娘を、世界中に自慢できる。父親冥利に尽きるよ」
白かった真珠の顔に青みが走る。けれども意思を戻した瞳は、父の後ろで待つシンセイを映す。再び深紅に火が灯った。




