旋風
日本では二日でも、現地時間では三月一日の十四時三十分。人で溢れ返っていた洒落たシアトルの街並みは、突然の襲撃によって、燃え盛る巨大なビル群から立ち上る煙、逃げ惑う民の阿鼻叫喚、真昼であることを忘れる暗黒の世界と化したのであった。
発進したシンセイの位置は、衛星によって基地のレーダーへ映される。機体にカメラを取り付けて様子を見られたなら良いのだが、ヒトの許容を圧倒的に超えるスピード、生物として体験することのない軌道、全ての要素が組み合わさり、即座に酔う。
音と熱を軽く超えて、マッハ三十七ほどで継続飛行をした真珠。到着したのは日本時間で七時四十分。襲撃からおよそ十分後。
彼女が停止したことで、現地のマスコミは純白の救世主を捉える。すると、シンセイに追い縋ってきた風が、灰の空気を押し流す。
「さっさと終わらせて帰らなきゃね」
遠くから届く真珠の声は、ノイズ混じり。しかし、日本で待つゲイルたちにとっては、希望の音色。地上から空の騎士を仰ぎ見る、シアトルの人々にも。
民衆の歓声と同時に、多数の敵機が接近。黒い鬼は、火の粉を撒き散らしながら進む。
「コイツら。人の命で遊んでいるの?」
コンクリートの壁を溶かしつつ舞い降りる熱。救いを見つめていた人々は、絶望の声を上げる。けれど、彼女の前に悲痛な叫びなど似合わない。
「私だけ見てなさいよ」
シンセイから響く確かな声。泣き喚く人、敵。周囲の全てを彼女が掌握。
「降るのは雨がいいわ」
真珠の一言で熱は取り払われ、地上に降り注ぐのは冷たい雫。即座に正気を取り戻した敵機が迫る。シンセイと民らの双方へと。
「空間転移」
直前まで市街地を飛んでいた悪鬼。なのに今は海の上。戻ろうと振り向いた彼らを、白の光が通過。瞬く間に三十機を解体。
「舞さん。あと何機? ボスの姿もないわ」
舞が着けたヘッドセットのみに通信。基地の画面にはレーダーが表示されたまま。彼女が確認すると、螺旋を描くような敵の配置。そして、中央にはたった一機。
「敵機は残り七十一。恐らくですが、その渦の中に隠れているのがパープルかと」
舞が示すのは市街地の中心部。振り向いた真珠の目には、黒の障壁。
「確かにボスがいそうな雰囲気ね。けど!」
視界にあった敵機は真珠の元に転移。だが彼女に焦りの色はない。昨日同様、指鉄砲と打撃にて次々に叩き落としていく。海上には多数のコックピットブロックが漂い、白と黒の光芒を見上げる。残る悪鬼は十。
「そろそろボス戦かしら」
シアトルの街を背に、トドメの一撃の狙いを付ける真珠。すると、ビルの陰から現れた紫の機影。シンセイと同じく指鉄砲を構えると、人差し指からは弓が伸びた。反対の手で弦を引き、的を絞る。大気が震え地は呻く。
「バァン」
真珠の声に合わせ、放たれた鋭い一矢。




