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空は青く澄み渡っていて、吹く風は突き刺すように冷たい。
どんどん奪われていく体温を少しでも残そうと、僕は首に巻いているストライプ柄のマフラーに顔を半分埋めた。
『いつも家から一緒だから、偶には現地集合にしよう!』
何を思い立ったか、コートを着て、今年のクリスマスにレンから貰ったマフラーを巻いた僕に向かって、彼女は笑窪を見せてそう宣言した。
そのお陰で、僕は集合場所になった公園まで遠回りになる北回りの道を歩いていた。
この寒さだというのに、思っていたよりも外を歩いている人々は多い。
恋人同士だろうか、楽しそうに笑いながら寄り添い、どこかへと歩いていくふたりが僕の視界に映る。
いつだって、どこに行くにも何をするにも、僕とレンは一緒だった。
悴む手をコートのポケットに突っ込んで、僕はぼんやりと空を見上げながら歩く。
『お前ら、本当に仲が良いよな』
『本当に双子の兄妹かよ?』
幼稚舎から一緒に居るカツだけでなく、他の友人たちにも何度そう言われただろう。
レンに彼氏が出来たら、なんて言い訳をしながら、本当は自分の歪んだ想いに気付いている。
僕は、はあと息を吐き出した。僕の悩みを象ったようなそれは白く染まって、直ぐに薄くなって消えていく。
レンは、僕の妹だ。
揺るがない事実を、僕は自分に言い聞かせる。
つらつらと、そんなくだらないことを考えていたからか、アスファルトが敷き詰められた道から、石や草が混ざった土の上を歩いていることに気付くのに数秒かかった。
その公園は僕たちが小さい頃にもよくユコおばさんに連れてきてもらった場所で、その頃と変わらない濁った池に大きくない噴水が飛沫を上げて吐き出されていた。
綺麗でもない噴水を眺めるようになのか、池の直ぐ前にはベンチが設置されていて、レンと思われる彼女の側にふたりの男の姿が見えた。
「……」
僕は心に黒い靄が広がるのを感じながら、レンが待つベンチへと急いだ。
「……ちょっと、離してください…!」
「いいじゃん、俺たちと遊ぼうよ」
「だから、人を待って……」
「レン」
レンの名を呼んだ僕の声は、遊具で遊ぶ小さな子供たちの笑い声に掻き消されずに彼らに届いたらしい。
振り向いたレンが僕を見て、安堵の表情を浮かべる。
「…リト」
僕は、彼らに近寄るとレンの肩を掴む男を見下ろした。彼らは、レンと同じくらいの背丈だった。
「離してもらえますか」
「……ちっ」
高級そうな上着を着た彼らは、品なく舌打ちをすると「行こうぜ」と言って去っていった。
「…リト、ありがと」
僕を見ないまま、レンはぽつりと呟いた。
だから、嫌だったのに。僕は、すっかり真っ黒に染まった心を隠して、溜息を吐いた。
すらりと長い手脚に、小さな顔。毛糸で編まれた帽子を被って余計に目立つ大きな瞳に、すっと通った鼻梁。
端的に言うと、レンは可愛かった。
美人系ではないけれど、家族の欲目を抜きにしても、レンは可愛い。
その証拠にレンはよく、こうやって男性に声を掛けられた。
「……ごめん」
僕が不機嫌なのがわかるのだろう、レンがそっと窺うように僕を見上げる。
「…いいよ。じゃあ、行こう」
こんなことで、せっかくの休日を嫌な気分のまま終わりたくない。僕は氷みたいに冷たいレンの手を掴むと、歩き出した。
「…リトみたいな彼氏が居ればいいのに」
「……」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声に、僕は、返事をしなかった。
「……なんで、こんなに好きなんだろ」
誰に言うでもなく空中に放たれたその言葉に、僕はレンの手をそっと離した。
そんなこと、僕だって知りたい。