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七色と、光る。  作者:
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 僕には、双子の妹が居る。


 お人好しで、素直で、いつだって一緒に生きてきた、可愛い可愛い、たったひとりの僕の妹。


 僕の髪と瞳の色を表すのがストレートの紅茶なら、妹のレンはミルクティーだ。光の角度で金色にも見える、美しい色。


「リト」

「おはようございます、ユコおばさん」


 学園の制服に着替えて部屋を出た僕の名前を、聞き慣れた声が呼ぶ。


 70代を過ぎている筈なのに、今日も身綺麗にしている彼女は、僕とレンを引き取ってここまで育ててくれたユコおばさんだ。


 彼女は代々続く織物屋のひとり娘で、両親が早くに他界した為に若くして家業を引き継ぎ社長となった。


 ユコおばさんは長い黒髪を乱れなくひとつに纏めていて、今日もまた、大きな鞄を持っていた。


「おはよう。今日からまた少し家を空けるけど、大丈夫よね?」


 前回の出張から帰ってきてまだ一週間も経たないのに、ユコおばさんはいつも忙しい。


「はい、大丈夫ですよ。今回はどこでしたっけ?」

「海を渡った、オンク国よ」


 ユコおばさんが社長を務める白花(しろはな)織物は、国内でも有名な織物製造会社でユコおばさんが自ら商談を行う。


 その為に、引き取られてから今日まで、ユコおばさんは不在がちだった。


 僕は頭の中に広がる世界地図から、オンク国の場所を探し出した。


「そっか、少し遠いですね。気をつけて行ってきてください」

「ありがとう。レンの顔も見たかったんだけど…」

「ああ、多分、まだ起きてないかも」

「そうよね、でも、もう時間がないから行くわ。レンにもよろしく言っておいて」


 ユコおばさんは腕時計をちらりと見てそう言うと、足早に玄関へと向かう。


 そんな彼女の背中を僕も追いかけた。


「ユコおばさんも、気をつけて」


 靴を履いたユコおばさんが扉を開ける。向こう側に見えた空は暗く、まだ夜を孕んで冷たい風が入り込んでくる。


「ふたりとも、いい子にしてるのよ」


 ユコおばさんは僕たちが小さい頃から、出張に行く度にそう言い続けてきて、もう直ぐ18歳になる僕たちには(いささ)か不釣り合いなその言葉に、僕は苦笑して手を振った。


「……さて、レンは起きてるかな」


 ユコおばさんと僕たち双子が住むだけなのに無駄に広いこの屋敷には、使用人と呼ばれるお手伝いさんはひとりも居ない。


 僕たちがまだ幼かった頃は年配のおばさんがお世話に来てくれていたけれど、中等部に上がったくらいにユコおばさんが「自分のことは自分でするように」と、(いとま)を出してしまった。


 それからは、ユコおばさんが不在のときは僕とレン、ふたりだけでの生活になる。


「あ!リト!おばさんは!?」


 慌てたように廊下の奥から走ってきたのは、一応制服に着替えたらしいレンだった。


 いつも縛っている長いミルクティーのような髪の毛は下ろしたままで、レンの胸元でふわふわと揺れている。


「レン、おはよう。ユコおばさんなら、もう行ったよ」

「間に合わなかった……」

「残念」


 がっくりと項垂れる、頭ひとつ分低いレンの頭を撫でて、僕は台所へと向かった。そろそろ朝ご飯を作って食べないと、学園へ遅れてしまう。


「……今日の朝ご飯は?」

「うーん、何がいいかな。お味噌汁は残ってたし、卵でも焼こうか」

「あ、じゃあ、私が焼いてみてもいい?」

「……いいけど、焦がしちゃだめだよ」


 後ろから付いてくるレンを振り返ってそう言えば、レンは満面の笑みを浮かべていて、僕は少し嫌な予感がした。


 今日も、焦げそうだな。


 レンは幼い頃から料理が好きだけれど、壊滅的に下手くそだった。それなのに何度も作りたがって、そして全く上達しない。


 レンを見ていて、好きと上手は比例しないと僕は確信している。


「今日こそは、大丈夫!」


 これまた3人分の食事を作るには広すぎるキッチンの(すみ)に掛けられているピンク色のエプロンを付けると、レンは僕に向かってピースサインをよこした。


 そんな妹の姿を見て密かに嘆息すると、僕もまたエプロンを手に取った。


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