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〜第二章〜

 「あ、そういえば今日で2週間経つな。図書館から借りてきた本、今日中に返さないと…。」

 俺はここ2週間、忙しい毎日に追われていた。

 恋人の彩花ともその間は一度も会っていない。連絡はほぼ毎日取っていたが、その連絡も何通かで終わっていた。

 一つの事件を解決するにはそれなりの歳月や時間がかかる。しかも、あまりにひどい時は非番までなくなることがある。

 自分で言うのもなんだが、やはり大変な仕事だ。もちろん、楽な仕事なんて一つとしてないのはわかっている。が、それでもたまには弱音を吐きたくなってしまう。

 「おーい、谷形ー。」

 「ん?」

 少し遠いところから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。声の先に視線を向ける。

 「…あっ、栂瀬か。どうかした?」

 そこには同僚の栂瀬がこっちへ向かってくる様子が見えた。

 「なあ、今日の夜って暇してる?」

 「えっ、今夜?まあ、今のところ特に予定ないから空いてるけど?」

 「そうか、久しぶりに飯でも食いにいかねえ?今扱ってる件、そろそろ目処つくだろうって課長言ってたから、今日の残業なさそうだし。」

 「そうだなー、いいよ。」

 「よし、じゃ決まりだな。」

 「了解。」

 「したらまたあとでなー。」

 栂瀬はそういうと、片手を上げながら俺の前から去っていった。

 「…課長がそう言ってるなら明日の休みも普通に休めそうだな。あ、そうだ!今日は本を返しにいかなきゃ行けないんだった…。後で栂瀬に説明して、ご飯行く前に寄ってもらおう…。」

 さっきまで言ってたのに忘れてしまうとは…俺、相当疲れてるのかな…。

 「…はぁ。」

 俺はため息をつき、職務に戻った。




 「まさか、お前が図書館に通ってたとは意外だったわ。」

 「通ってたのは子供の頃の話。今回はたまたま暇だったからちょっと寄ってみようと思っただけで…。」

 「けどそれで、図書カードまで作って本を借りてきたんだろ?しかも、まさか星座の本とはな。」

 「まあ…そうだけど…。あの本には色々と思い出があるんだよ。」

 「へぇ~、思い出ねー。」

 「なんだよ、その顔。俺に思い出あったらダメなのか?」

 「いやー、そう言うわけじゃないけどさー。」

 「?」

 目の前にいる彼の表情が一瞬、曇ったように見えた。…もしかしたら俺の気のせいかもしれないが…。

 俺は今、職場の仲間の栂瀬とコナモン店にやってきた。もちろん、ここにくる前は図書館へ足を運び、借りていた本をちゃんと返却してきた。

 その結果、栂瀬の興味の的となってしまったのが、俺の一生の不覚だ…。

 「…お前の口からそう言う話聞くの初めてだな~って思って。」

 「そうか?何度か話したことあった気もするけど…。」

 「いや、俺は初耳だな。他の誰かと勘違いしてない?」

 「そんなことないと思うけど…。」

 「まあ、いいけどさー。その思い出とやらがどんな話なのか気になってさ。なんか面白そうだし。」

 「面白いって…、お前俺のことからかいたいだけじゃないのか?」

 「人聞き悪いなー、そんなんじゃない。ただ、なんか気になるじゃん。友達のそう言う話ってさ。」

 「なんだよそれ。タチの悪い奴だなー。」

 「そんなことないって。なんかさ、俺らもう5、6年の付き合いになるのにお互いそう言う話とか、聞いたことないなって思って。」

 「あ、確かに。」

 「だろ?だから、ちょっと聞いてみたいなーって思っただけ。」

 「そうか?」

 彼には珍しく、真剣な面持ちをしている。

 「まあ、無理に聞き出そうとするつもりはないから、気が向いたら今度聞かせてくれよ。」

 「あぁ、それは全然構わないけど。」

 確かに彼の言う通りかもしれない。俺も今思えば栂瀬の個人的な話はあまり聞いたことがない。

 話す時はだいたい、仕事の話が大半で、あの事件はどうだった?とか、何処どこに事件の関係者が…。とかそんな話ばかりだ。その頃の俺たちは、まだまだ新米刑事で仕事・仕事の毎日だった。

 そんな話をするくらいなら一つでも多くの事件や事故を解決しなければと躍起になってた気がする。

 が、今は…、確かに色々な事件・事故その他諸々…はあるものの、昔に比べてそこまで仕事・仕事の毎日を送っている感じはしない。

 事案が減ったとは思っていないし、むしろ昔に比べ、そう言う類のものは増えた気がする。しかも、時代の流れのせいか特殊な事案が多くなり、今やネット絡み・ご老人・少年少女を狙った詐欺が多くみられる。

 「おい、谷形。どうかしたか?さっきから黙ったままで。」

 「あっ、ごめん。ちょっと、新米の頃のこと思い出してた。」

 「新米の頃?その頃なんかあったっけ?」

 「いや、そう言うわけじゃないんだけど…。ただ、昔は仕事・仕事の毎日だったなって思って。もちろん今も仕事・仕事っていうのはあるけど、昔とは少し違うなーってさ。」

 「あー、わかる、その気持ち。きっとあれだ。俺らも歳とったってことだ。」

 「あ、なるほどな、そういうことか。納得。」

 「だろ?」

 俺と栂瀬はお互い笑い合った。

 俺は心の中で、こんな奴と仲間になれて良かったなと思った。

 「お待たせしましたー、豚玉と海鮮玉でーす。こちらが、チーズ明太子もんじゃです。ごゆっくりどうぞー。」

 その時、店員さんが現れ、注文した物を運んできてくれた。

 「おー、美味そう!早速焼こうぜ!谷形、もんじゃは任せた!」

 「えっ?俺が焼くの?」

 「おう、頼んだ。とりあえず、俺は空腹で死にそうだから先にお好み焼きを食べる。いただきまーす!」

 彼はそう言うと、俺の言葉は挟めさせまいと言うかのように早々とお好み焼きを口に放り込んだ。

 「くっー、美味い…、豚玉最高…。」

 「…ったく、こういう時だけ調子いいんだから。仕方ない…、焼くか。俺もお腹空いてるのにな…。(さっきの言葉は撤回だ、食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ、栂瀬。)」

 俺は泣く泣く、もんじゃを作り始めた。俺のお腹に海鮮玉が入るのはもう少し先になるだろう…。



 

 「ご馳走様でした~。」

 「ありがとうございました。またお越しくださーい。」

 俺と栂瀬はお店を後にし、外へ出た。

 今の時刻、20:30。

 「いやー、久しぶりに食うとやっぱり美味いなぁ。」

 「そうだな。最近は、ゆっくりご飯食べてる時間なかったからな。」

 「本当だよなー、平和な日常っていいもんだな。」

 「そりゃーな…。まあ、みんながみんな、平和に過ごせてるわけじゃないけど、少しでもそういう人が増えてくれれば俺は嬉しい。」

 「…右に同じ…。」

 俺達はゆっくりと帰り道を歩き始めた。少し肌寒いが、満腹の俺達にはちょうどよかった。

 「………。」

 『コツコツコツッ…』

 「………。」

 『コトコトコトッ…』

 『サッー…サッー…サッー…』

 俺たちは無言のまま歩き続けた。唯一、聞こえるのは二人の靴音と小さな波の音だった。

 「…なあ、栂瀬。」

 「うん?なんだ?」

 静けさの中、口を開いたのは俺が先だった。

 「…実はあの本、地元にいる幼馴染との思い出の本なんだ…。」

 「…へぇ~、そうだったのか。谷形の地元ってどこだっけ?」

 彼は特に驚きもせず、聞き返してきた。

 「◯東の◯◯市。」

 「そっか。ここからだと、車で3時間前後ってところかな?」

 「うん、そらくらいかなー。」

 「で、その幼馴染はどんな奴なんだ?」

 「どんな奴って…、…女性だ。その言い方は良くないと思うぞ。」

 「あらゃー、それは失礼。まさか女だとは思わなくて。すまん…。」

 「いや、いいよ。そこまで気にしてないし。」

 「それなら一安心だ。」

 「そうだなー、一言で言うなら…、優しい人かな。自分よりも周りの人のことを一番に考えるし、いつも笑ってる。自分が辛い時でもその笑顔を絶やさず周りに気遣って。でも…、誰もいない時は一人で泣いてるんだよな。幼馴染の俺にもその姿はほとんど見せたことないしな…。」

 俺はその場に立ち止まり、夜空を見上げた。見上げた先にはたくさんの星が輝いていた。

 …蛍は本当に昔からそういう性格だった。何か辛いことがあっても一人で抱えて、一人で解決しようとする。

 もう少し周りを頼りにしたってバチは当たらないというのに…。良く言えば他人思い、悪く言えば意地っ張り…。

 そんな彼女を俺はいつも近くで見てきた。近くで見てきたからこそ、わかるものだってある。

 蛍の父親(おじさん)が亡くなった時もそうだった…。その瞬間が訪れた日、俺はたまたまその場にいて、蛍の母親(おばさん)は泣き崩れ、彼女の顔色はひとつとして変わらず無表情のままだった。

 蛍は泣き崩れた母親(おばさん)の肩を抱き、ひたすら慰めていた…。

 そして翌日、俺は蛍のことが心配で学校が終わった後、すぐに彼女の家を訪れた。俺が家に行くとそこにいたのは蛍だけで母親(おばさん)父親(おじさん)の遺体を引き取りに行っていた。

 彼女は俺のことを普通に出迎えてくれて、リビングへ案内してくれた。

 『今、お茶淹れるね。ソファーで待ってて。』

 そういうと蛍は一人キッチンへ向かった。

 …5分後…10分後…。蛍はなかなか姿を見せない。お茶を淹れるのにこんなに時間かかるわけないよな?と思った俺は彼女の様子を見に、物音を立てずキッチンへ向かった。

 そこで俺が目にしたのは………。

 『…うっ…うっ…うっ…どうして…どうしてなの…お父さん…』

 落胆して涙を流している蛍の姿だった。

 その彼女の後ろ姿に俺がかけられる言葉は全く思いつかなかった。俺はその場で立ち尽くし、身動きが取れなくなった。

 あの時、なぜ彼女に寄り添ってあげられなかったのか?なぜ、支えてあげられなかったのか?どうしてもっと…。

 このことを思い出すたび、俺の心は締め付けられる。彼女の幼馴染として一番近くで見てきたのに、こういう時こそ支えてあげなければいけないはずなのに…。

 「…お…お、い…、やが…た…。」

 「………。」

 「おいって!谷形!」

 「うわぁ!」

 俺は声をかけられ我に返った。

 「そんなに驚かなくても…。大丈夫かよ?いきなり話さなくなったからどうしたかと思ったぞ。」

 「…あ、ごめん。昔のこと思い出してて…。」

 「昔のこと?もしかして、さっき言ってた幼馴染の女性か?」

 「うん、そう…。」

 「へぇー、今の時間を忘れるくらいの思い出話ってある意味すごいな。」

 「アハハ…、まあな。」

 俺は苦笑いをしながら頭を掻いた。

 「お前が珍しいな、そんな風になるなんて。いつもは涼しい顔してるのに、めちゃくちゃ真剣な顔してたぞ。」

 「涼しい顔って、なんか鼻につくなー。」

 「そんなつもりで言ってないさ。ただ、その幼馴染の女性はお前にとって大切な人なのかなーって思っただけ。」

 「えっ?それどういう意味だ?俺が、その幼馴染のことが好きだとか言ってるのか?」

 栂瀬のその言葉に驚いた俺は彼に聞き返してしまった。

 「いや、そこまでは言ってないけどなんとなくそう感じただけ。」

 「そうかー…、全然そんな事考えたことないけどな。」

 「でも案外、あったりしてな。自分じゃ気づかないだけで。」

 栂瀬は頭の後ろに腕を組みながらケラケラと笑い出した。

 「なんだよ、それ!さすがに、幼馴染に対してそういう感情は抱いたことないぞ。」

 「どうだかなー、本当は誰かにバレたくないからそう言ってるだけとか、ありそうじゃん。」

 「ったく、いい加減にしろよ。」

 「でもさ、いざ久しぶりに会って、めちゃくちゃいい女になってたらお前だって少しはそういう感情が芽生えてくるかもしれないぞ。」

 「…栂瀬、その話はもういいだろ。」

 俺は既に呆れ返っていた。彼は俺のことを揶揄(からか)うのが楽しいんだろう。

 「えー、なんかドラマっぽくていいじゃん。意外とそういう話、世間に転がってるみたいだし。」

 「…さっきも言ったけど、本当にいい加減にしろ。そろそろ、怒るぞ…。」

 「…はいはい、わかったよ。せっかく面白くなりそうだったのになー。」

 「とーがーせー…!」

 「ひぃー、おっかねぇー!じゃ俺帰るわ!また来週なー!」

 「あっ!ちょっと、まて!」

 栂瀬は俺に背を向けて駆け足で去っていった。

 「…ったく、相変わらず逃げ足早いな…。今度会った時にご飯でも奢らせようかな…。さてと、俺も帰ろう。」

 そして俺も自宅への道を歩き始めた。




 「明日は普通に休めそうだなー。」

 俺は家に着くなり、やる事を済ませ、一人の時間を過ごしていた。

 「久しぶりに飲もうかな…。」

 最近は忙しさのあまりそういうのは全く(たし)なんでなかった。

 「…何飲もうかな…(今日くらいいいよな。)」

 俺はお酒を取りに、キッチンへ向かった。今俺の家にあるのは…酎ハイ・ボトルの白ワイン・梅酒の三種類だ。さて、何を飲もうか…。

 俺自身、そこまでお酒は強くないが人並みには飲める。

 「…これにしよう…。」

 俺がその三種類から選んだのは…『白ワイン』だ。今日はなんとなくそんな気分だった。けれど、これを開封してしまうと丸々一本、飲み切らないと味が落ちてしまうのが心苦しい。

 いくらコルクを閉めたとしても開封時の味に勝ることはまずない。

 「…まあ、いいか。残ったらなんかの料理にも使えるし。」

 俺はそんな事を思いながらボトルワインとグラスを持ってリビングに戻った。

 そしてソファーに腰を下ろし、グラスにワインを注いだ。

 「…あー、うまいなぁ…。」

 ワインを口に含み、葡萄の甘さと辛さを口の中で堪能した。そしてもう一度、口に含み今度は鼻から抜ける香りを楽しんだ。

 やはり赤ワインと違い、白ワインは飲みやすい。

 「…蛍に会いたいな…。…えっ…?」

 自分の口から自然とそんな言葉が溢れて来て、俺は咄嗟に口を塞いだ。

 「…(おい…、なんで急に蛍に会いたいだなんて言ったんだ。確かに会いたいのは会いたいけどこのタイミングでいうセリフか?)」

 俺は少なからず動揺した。そのセリフも本当に自然にでて来てしまったものだ。

 「…絶対、栂瀬(あいつ)のせいだな。帰りにあんな変なこと言うから…。」

 『いざ久しぶりに会って、めちゃくちゃいい女になってたらお前だって少しはそういう感情が芽生えてくるかもしれないぞ。』

 こう思うのも、栂瀬のその一言のせいだ。

 「あ…、そうだ。有休使う日決めないとな…。」

 俺は二週間ほど前に課長から言われた有休のことを思いだした。

 そのことも今回の忙しさですっかり忘れていた。さて、どこでとるべきか…。

 すでに11月に入っているし、あと一ヶ月もすれば年末を迎えてしまう。さすがに、その時期に取るのは職場の仲間達に申し訳ない。年末年始だろうと俺たちの仕事は休まることはないし、その時期に休みを取れる人もそうそう多くない。

 そうなると、あとは年が明けて少し落ち着いてからの…。

 「…一月の下旬から二月の上旬くらいだよなー。」

 俺的にもその時期の方が正直、都合が良い。その理由は…、両親の誕生日だからだ。父親の誕生日が1月25日、母親が2月5日、その時期に地元に帰れれば直接お祝いができる。いつもは電話でしか伝えられなかったが、来年は直接祝うことができるのではないか。

 そんな理由で?と思われてしまうかもしれないが、ここまで俺を育ててくれたのは間違えなく両親だ。大学に行かせてもらうこともできて、一浪までして、にも関わらず、自分の夢を叶えなさいといつも励ましてくれた。

 そんな両親に対し、俺の中では感謝の気持ちでいっぱいだ。少しでも親孝行ができるならとても嬉しい。

 それに、俺も兄さんもいい歳だというのに結婚すらしてない。間違えなく心配しているだろう。これを気に、兄ともゆっくり話してみたいものだ。

 「…やっぱりその時期に休み取らせてもらおう。」

 俺は色々と考えたすえ、その時期に有休を取ることにした。

 



 翌日、俺は図書館へ足を運んでいた。前回、来館した時より若干、人の数が多い気がした。小学生や中学生、そして親子連れ。今日はそんな感じの来館者が多い。

 「………(今日、土曜日だもんな。そりゃー多いか。)」

 俺はそんなことを思いながら、館内を歩き辺りを見渡した。

 「…(あ、せっかくだしこのパソコンでブルーレイでも観てみようかな。)」

 俺は前回見つけた鑑賞コーナーのスペースでブルーレイを見ることにした。ディスクはパソコンが設置されてる後方にジャンル分けされ並べてある。

 民謡…古典…生物…総合学科…・…・天文学…。

 「…(やっぱりこれかな…。)」

 俺はその中から…『秋・冬の星座と神話』と言うディスクを手に取った。

 今の俺はどうも星座・神話に興味が向いてしまうようだ。まあ、昔からそういうのが好きだった、ってのもあるんだろうけど…。

 俺は空いているパソコンの前に腰をおろし、パソコンを立ち上げた。

 「…(よし、開いたな。ここにディスクを入れてっと…。)」

 そして、ヘッドホンを装着しディクスを再生した。

 「…(えっと…一章~五章に分かれてるんだな。一章・二章が秋の星座関係で三章・四章が冬の星座か。で、五章がまとめみたいなやつかな?この前は本で秋の星座は読んだからなー、本来は順番通り観た方がいいんだろうけどとりあえず、先に三章と四章を観てしまおう。)」

 俺は三章をクリックした。


 『次は冬の星座を見ていきましょう。冬の星座で有名なのが、オリオン座・おうし座・おおいぬ座・こいぬ座・ふたご座などです。そして、皆さんが一番よく耳にするのは冬の大三角ではないでしょうか。この冬の大三角は、オリオン座のベテルギウス・おおいぬ座のシリウス・こいぬ座のプロキオンからなります。夏の大三角と違い、こちらの三角形は正三角形になっています。

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。』


 三章は冬の星座の紹介から始まった。それぞれを探すための特徴や恒星の明るさ(等星)などの説明だった。


 『………みなさん、冬の星座は覚えられましたか?次の章では冬の星座の神話を紹介します。』


 「…(あ、三章が終わったみたいだ。四章は冬の神話か。よく聞くのはオリオン座が冬の星座として現れるようになったのかっていう話だよな、やっぱりこれもそうなのかな?)」

 俺はトップ画面に戻り四章をクリックした。

 「…(あ、どの星座の神話か選べるようになってる。えっと、オリオン座・ふたご座・おうし座の三種類か。うーん、オリオン座はよく聞くから今回はふたご座にしてみよう。)」

 俺はその中かから『ふたご座』をクリックした。


 《神の血が運命を分けた悲劇の兄弟物語》

 『とある日、大神ゼウスはとても美しい王妃・レダに恋をしました。しかし彼女はスパルタ国王テュンダレオスの妃でした。  

 けれど大神ゼウスは彼女に会いたいがため、白鳥に化けて彼女の元を何度も訪れていました。その後二人の間には双子の兄弟が生まれ、その兄弟の名が兄・カストルと弟・ポルックスと名付けられます。

 とても仲が良かった二人はやがて成長し、勇者となり戦いの中に身を投じていくようになりました。

 そして彼らはアルゴ船の遠征に参加しその戦いで大活躍をして一躍有名になります。

 その後二人は、メッセーネーの王アパレウスの息子に当たるイーダースとリュンケウス兄弟と戦うことになります。

 その戦いの最中、兄のカストルはその兄弟の矢に当たり命を落としてしまいます。弟のポルックスも彼らの攻撃を受けたのですが全く死ぬことができませんでした。その時ポルックスは自分は大神ゼウスの血を引く不死身の体なんだと知り、兄の死を深く悲しみ耐え難く、受け入れることができませんでした。

 不死身のポルックスは兄と同じように死ぬことができないのならと、大神ゼウスに自らの死を懇願しました。

 大神ゼウスは兄を慕うポルックスの心に打たれ、その願いを叶えてあげることにしました。

 こうして二人は、冬の星座を彩る一つの星座「ふたご座」として空にのぼり、いつまでも仲良く輝き続けるのでした。』※諸説あり


 「…(…なんか切ない物語だな。神の子と人間の子か。さすがギリシャ神話、発想力が違うな。)」

 俺はヘッドホンを外しディスクを取り出した。

 『…ブーッブーッブーッ』

 「…あっ!」

 ちょうどその時携帯のバイブが鳴り出した。俺は急いでGパンのポケットから携帯を取り出した。

 『本村 彩花』

 「…(あっちゃー…彩花のこと迎えに行くのすっかり忘れてた。)」

 携帯の画面には恋人の彩花の名前が表示されていた。

 「…(ここじゃ電話出れないな…。どこかに電話できる場所はないか…。)」

 この場から急いで離れた俺は館内に電話ができるような場所はないか探した。

 「…(えっと………。あっ、あった!あそこに電話のマークがある。)」

 俺は急いでその場所へ向かった。

 ………………。

 ………………。

 「…もしもし…?」

 『やっと出た!何回連絡したと思ってるの!』

 「…ごめん。全然気づかなくて…。」

 彩花は相当怒っている。

 『昨日、連絡したでしょ?もし時間あったら買い物に付き合って欲しいって。』

 「本当にごめん…。携帯、マナーモードにしてたから全然気づかなくて…。」

 『マナーモードって一体、どこにいるの?』

 「えっ…あ、うん…。」

 『なんで、口籠るのよ?私には言えないの?』

 「そんな!そういうわけじゃ…。」

 『なら教えてよ。』

 「うん…、○○市立図書館…。」

 『えっ、図書館にいるの?まさか、章がそんなところにいるなんて思いもしなかった。』

 俺がそういうと彼女は驚いたというような返事が返ってきた。

 「…俺が図書館にいたら何か問題でもあるの?」

 『そういうわけじゃないけど…、章の口からまさか図書館っていう言葉出てくると思わなくて。今まで一度も聞いたことなかったから驚いてるの。』

 「…そうだった?何度か言ったことあったと思ったけど…。」

 『私は聞いたことないと思うけど…。それより、もう昼になるけど買い物付き合ってくれるの?』

 「あ、うん!これからすぐ向かうから家で待っててもらえる?」

 『わかったわ、じゃ、着いたら連絡して。』

 「うん、わかった。それじゃまだ後で…。」

 そうして電話を切り、俺は急いで彩花自宅に向かった。




 「…本当にごめん。」

 「…最近の章って謝ってばかりだよね。前に会った時も、私の話ほとんど聞いてなくて、謝ってたし。」

 「………。」

 俺は図星をつかれ何も言えなかった。彩花の言っていることは間違えなく正しい。前回の時も俺は彩花の話が耳に入ってこなくて、謝っていた。

 「…ねえ、本当は私になにか言いたことあるんじゃないの?」

 「…えっ、そんなことはないけど。」

 「本当に?」

 「うん。」

 「ふーん…。」

 そういう彩花は、明らかに疑いの目を向けてくる。

 そんな目をされても本当に何もないのに、彼女には伝わってないらしい。強いて言うなら、有休のことくらいだ。

 ただ、今の状況を考えるとこのタイミングでは言わないほうがいいだろと俺は思う。もし言ってしまったら、彼女はさらに疑いの目を向けるのではないのかと、考えてしまう。

 彼女に言うのはまた改めてのほうがいいだろう。

 「…ねえ、章。」

 「なに?」

 「章ってさ………。」

 「???」

 彼女はそう言って俺のことを真っ直ぐと見つめてきた。これは一体、どういうことだろう?

 「…やっぱりなんでもない。」

 「そう、なの?」

 彩花は俺から視線を外し、自分の食べているパスタに目を落とした。

 「?」

 そんな彩花の行動はよくわからなかった。彼女は一体何を言いたかったのだろうか?

 それから俺達はランチを済ませ、再び彩花の買い物に向かうのだった…。




 その日俺が自宅に着いたのは、夜の8時を回ったころだった。

 彩花とランチを食べた後、俺は再び彼女の買い物の付き添いをした。

 雑貨屋や靴屋、アクセサリーショップやファッションショップ。色々なところに足を運んだ。そして気づいた時には、すでに午後6を過ぎていて、結局、夜ご飯も外で食べ、今に至る。

 「…さすがの俺でも今日はハードだったな。」

 そんなことを思いながら、俺はソファーに倒れ込んだ。

 こんなに長い時間外をフラフラしたのは久しぶりかもしれない。彩花も最初は怒っていたものの、帰る頃にはいつもの彼女に戻っていた。

 「…あの時の彩花、何が言いたかったんだろう…?」

 俺はふと、ランチをしていた時の彩花の言葉を思い出した。

 『章ってさ…、…やっぱりなんでもない。』

 「…何が言いたかったんだ…?」

 彼女が言いたかった言葉は一体、なんだったんだろう…。

 「…やばっ、眠っ…。」

 俺の体に睡魔が襲ってきた。自分が思っている以上にこの体は疲れているんだろう…。

 「…明日は日曜だし家でゆっくりしようかなー…。もうこのまま寝てしまおう…。」

 これから何かする気にもなれないし、俺はそのまま眠ることにした。

 それに明日は日曜日、家のことは明日にまとめてやってしまえば何も問題はない。

 そして、俺は眠りについた…。

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