立ちはだかる壁
小走りで廊下を突き進む僕らの目の前に壁が立ちはだかっていた。
おかしい、地図によればこんなところに壁はないはずだ。
このまま直進して突き当たりを左のはずなのに。
「おい、行き止まりかよ?」
タオが焦った声を出す。
「ここは真っ直ぐのはずよ。一体どうなっているの?」
アネットもポケットから地図を取り出して確認している。
ひょっとしたらなにかのトラップだろうか?
注意深く観察すると壁の隅に小さな紙片が張り付けてあるのに気がついた。
「何か書いてあるぞ。えーと、壁にダメージを与えて突破せよ。蓄積ダメージが一定以上になれば壁は崩れる」
なるほど、これも試験の一部というわけか。
これはただの壁ではないな。
微かに魔力の波動を感じる。
「壁のように見えるけど、これは具現化した魔法障壁だ。物理攻撃と魔法攻撃による除去が可能なんだろう」
「じゃあ、私が身体強化魔法を使って物理攻撃してみましょうか?」
「僕に任せてもらってもいいかな? ストーンバレットで何とかするから」
こんなことを言ってアネットが気を悪くしないか心配だ。
でも、たぶんその方が時間はかからない。
「ストーンバレットで? 石弾よりも魔力コーティングした私の剣の方が威力は高いわよ」
「1発1発はそうだと思う。だけど僕はストーンバレットの連射が得意だから……」
タオとしゃべるのは楽になってきたけど、アネットが相手だと、やっぱりまだ緊張するな。
「わかった、それじゃあお手並み拝見とするわ」
アネットが笑顔でそう言ってくれたので僕も安心する。
実力を認めてもらえるように頑張るぞ。
僕は土魔法で石壁を三つ作り出した。
「跳弾があるかもしれないからこれに隠れていて」
さて、どの程度のダメージを与えればいいのかわからないが、やるだけのことはやってみよう。
秒間123発の自己記録を更新できるくらいに気合を入れてやってやる。
僕は大きく深呼吸してから魔法陣を展開した。
心がけることはイメージとスムーズな魔法操作だ。
その結果として起きる高速の魔力変換。
僕の中にある魔力をいかに速く石弾に作り替えて撃ち出すか課題となる。
必要になるのはなによりも集中力――。
「せん滅せよ、ストーンバレット!」
僕って本番に強いタイプなのかな?
突然の思い付きで、いつもとは違う魔法展開をしてみたところ、魔法陣に浮かぶ五芒星が高速で回転しだした。
そしてそこからいつもより速い石弾が撃ち出される。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
30秒ほどで目の前にある壁はボロボロに崩れ去っていた。
「よし! 先を急ごう!」
「…………」
壁は崩れたというのにアネットとタオは呆然と僕を見つめている。
早くしないと時間がなくなってしまうというのに。
「どうしたんだい?」
「どうした、じゃないわ! 今のはなんなのよ!?」
「そ、そうだ。あんな常識外れのストーンバレットは見たことがないぞ!!」
あれのことか。
「急に思いついて、魔力展開のやり方を変えてみたんだ。いつもより9発多く撃てたよ。あ、1秒で131発だから記録更新だ!」
次は140発を目標にしてみよう。
およそ30秒、約3939発で壁は壊れたな。
思ったよりも簡単な課題だった。
「あ、呆れるわ……」
アネットがまじまじとこちらを見つめてきた。
改めてみると可愛いなあ……。
茶色の瞳は吸い込まれそうなほど深い色をしている。
でも、あんまり見つめないでほしい。
緊張するから。
「ちょっと大丈夫なの!? 鼻血が出ているわよ」
「え?」
しまった!
見られていると思ったら緊張で出てしまったようだ。
「も、問題ない」
なるべく冷製を装って返事をする。
「あれだけの魔法を使ったんだ。その代償だろう。この薬を飲んでおけよ、楽になるはずだから」
タオが白い錠剤をくれた。
「すまない……」
「動ける、アスター君?」
や、やめて、上目遣いで心配そうに見てくるのは!
性癖のど真ん中に刺さっちゃって、出血が止まらなくなるからね。
アネットに見られて鼻血を出しただけなんだけど、二人とも都合よく勘違いしてくれているようだ。
僕は少しだけふらつく演技で誤魔化しながら、赤い顔を見られないように最前列に立った。
本当のことをいえば、まだ魔力は10分の1も使っていない。
体の方はへっちゃらだ。
「先を急ごう」
僕はクールな振りをして二人を促す。
試験時間はあと1時間47分。
この先も難しい課題がたくさん出てくるのだろう。
1秒もゆっくりとはしていられない。
僕らは小走りに試練の館を急いだ。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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