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魔法学院へ入学しろ!

 ラッセルと暮らす山小屋へ戻った時には、すでに夕方だった。


「ただいま」


 僕は読書中のラッセルに声をかける。


「おう、どうだった?」

「森の魔物が村を襲っていたけど撃退したよ。村人に怪我人は出ていない」


 こういうことはたまにある。

そのたびに人々は村はずれにある僕の師匠を頼っていた。

実のところラッセルは高名な魔法使いである。

でも、五年前からこの山奥の村に引きこもり、怪しげな研究に明け暮れる変人だ。

四大魔法だけじゃなく、光と闇、精霊魔法に神聖魔法まで使いこなせる大魔法使いであることは認めよう。

だけど、炊事洗濯すいじせんたくなどの生活能力は壊滅的かいめつてき

詐欺師さぎしみたいな顔の中年。

底なしのスケベ。

それが師ラッセル・バウマンという人だった。

いや、これで優しいところもあるんだけどね。



 ラッセルは読んでいた本をパタンと閉じて、僕の方に向き直った。


「ロウリー、お前に発現した『塔の主人(タワーマスター)』のことだけどな」

「何かわかったの?」

「ああ、やっぱりマスタークラスの能力だ」


 マスタークラスとはとてつもない力を秘めた特殊技能の持ち主のことだ。

世界には『剣の主人(ソードマスター)』、『盾の主人(シールドマスター)』、『風の主人(ウィンドマスター)』などなどの技能を持つ人がいる。

ちなみにラッセルは『あまねく魔法の主人オールマジックマスター』だ。


 僕の『塔の主人』もそんな特殊能力の一つなのだけど、その内容は今一つ見えていない。

あまりに特殊過ぎて同時代はおろか、過去にさかのぼっても『塔の主人』の持ち主が見つからなかったからだ。

そこでラッセルは古い文献を当たってくれていた。


「それで、内容は?」

「この本に書いてある。500年以上前に一人の英雄がその力を持っていたそうだ。英雄が作る塔は雲に届くほど高く、堅牢で、強力な防御機能を備えていたらしい。10万の魔物が攻めてきても、これを退けたそうだ」

「10万の魔物を!?」


 僕の3階建てとはえらい違いだ。


「しかも、その塔の内部は豪勢で、世界の皇帝でさえうらやむような設備がそろっていたそうだぞ」


 ということは、いつかは僕の塔もそのように成長するのだろうか?


「でも、僕の塔はいっこうに変化しないよ。どうやったら塔を成長させることができるの?」


 日々修行に明け暮れているのに、『塔の主人』はいっこうにレベルが上がっていない。


「それだがな――」


 ラッセルはページをめくりながら該当箇所がいとうかしょを探す。


「うん、ここだ。お前の能力が成長しないのはな……人間関係が希薄だからだ」

「はっ? どういうこと?」

「つまり『塔の主人』のレベルとは、他者との親密な関係を築くことによって上がるんだよ。平たく言えば親友やら恋人なんかを作ればいいんだ」

「友だちに恋人!? どういうこと?」

「詳細は不明だが、英雄は仲間やらハーレムやらを作って塔を成長させたそうだ。羨ましい話だな」


 友達ならまだしも、恋人となるとハードルが高すぎる。


「僕には無理だよ。女の人とまともに話すこともできないんだから……」

「ほら、そういうところだぞ。お前は無限の可能性を秘めているというのに、このままじゃそれが無駄になっちまう」


 といわれてもねえ……。

ラッセルはいつにない真剣な表情で僕を見つめてきた。


「ロウリー、学校に行ってみないか?」

「学校?」

「お前を引き取ってそろそろ8年になる。ロウリーも18歳になった」

「いや、5年だよ。それから僕はもうすぐ16歳ね」


 ラッセルはこういうことにいいかげんだ。

記念日とかは覚えていられない人なのだ。


「そうだったか? まあいい。お前の修行も一段落した。だから学校へ行ってこい」

「どこに行けっていうのさ?」

「王都にあるカンタベル中央学院って知ってるか?」

「もちろん知っているよ。国の有力子弟を集めたエリート魔法学校のことだろう?」

「それだ、そこに入学しろ」


 ずいぶんと簡単に言ってくれるものだ。


「あそこは国一番の教育機関だよ。僕がそこの入学試験にパスできるの?」

「当り前だろうが。お前は世界一の魔法使いであるラッセル・バウマン様の一番弟子であり、養い児(やしないご)だぞ。入学試験なんて余裕で通るさ」


 ラッセルは魔法の師匠であると同時に命の恩人でもある。

薬師だった両親と薬草を採りに来たところを魔物に襲われた。

両親は僕の目の前で殺されている。

僕だって同じ目に遭いそうだったけど、そこを助けてくれたのがラッセルだった。

命を助けるだけじゃなくて、身寄りのなかった僕を引き取って魔法の知識を授けてくれた。

僕にとっては第二の父であり師匠ともいえる人だ。


「うーん、僕も学校に行ってみたいとは思うよ。世の中ってやつを見てみたいもん。でもなぁ……」

「お前、まだ過去の失恋を引きずっているのか?」


ラッセルがバカにしたように訊いてくる。


「あ、あれは失恋なんかじゃないよ! まだ10歳だったんだ。恋なんて呼べるようなものじゃなかったし……」


 僕は幼いころ、魔性の少女ともいえるような貴族の令嬢によってひどい目に遭っている。

たぶん、僕が女の人に緊張するのはそのせいなんだろうな……。


「まったく、いつまでもウジウジ悩むな! 学院に行って、いろんな人間に出会えば人間関係にも慣れると思うんだがな」

「うーん……」

「引きこもって修行したところで、これ以上の向上なんて望めないぜ」


 なるほど、一理ある。

ようは慣れなのだ。

山奥で師匠との二人暮らしというのもよくないのかもしれない。

僕もそろそろ変わらなくては。


「わかった。僕やってみるよ!」

「おう、その意気だ。都会に出て恋人を作ってエッチの一つもしてみろ!」

「は?」

「そうすりゃあ、あそこだけじゃなくて塔もビヨーンと伸びるってもんよ! ん、どうした?」

「そ、そんなの無理だよ……」

「今からそんなことでどうする!? あ、それとな、金がない」

「金がないって……どうするの!?」


魔法学院の学費はかなり高額だって聞いているぞ。


「安心しろ、特待生制度って言うのがあるから。試験で優秀な成績を収めた者は授業料やその他が一切免除されるんだ。きっちり実力を発揮して特待生になれば問題なしだ」


 若干の不安はあったけど、僕はカンタベル中央学院の試験を受けることにした。

これまでも真面目に修行してきたから試験は大丈夫だと思う。

問題は周りの人や女の子とうまく話せるかどうかなんだよ……。

恋人? エッチ?

ハードルが高すぎるんですけど……。



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